これまでの特区との比較から見た「国家戦略特区」 

「国家戦略特区」 の事業者募集が始まりました。

構造改革特区に始まり、特区という言葉は何度も聞いていますが、この「国家戦略特区」とはいったい、どのようなものでしょうか?

私たち国民は、この「国家戦略特区」についてどのような視点で見ていけばよいのでしょうか。

1.特区とは

特区とは、国の規制を区域に限り緩和することで政策目的を達成するしくみ。
その区域で効果が認められれば、全国展開することになります。

現在、特区と言われているものには、いくつかあります。

構造改革特別区域法に基づく構造改革特区
総合特別区域法に基づく国際戦略総合特区と地域活性化総合特区
そして、アベノミクス第三の矢と位置づけられているこの国家戦略特区

いずれも、規制を取り外すことで何らかの政策効果を期待するものですが、誰が、どのような分野に、規制緩和することで、どんな効果を期待しているのかを簡単にまとめてみました。
これによって、それぞれの違いがお分かりいただけると思います。

【構造改革特区】

自民党小泉政権の2002年(平成14年)~スタート。
地域・区域を限定して規制を取り外し、優遇策を行い、特区として227件+全国的に対応490件の717件の規制緩和の実績があります。
しかし、必ずしも、規制緩和による地域活性が達成されたとは言えない状況もあるようです。

【総合特区】

一方、民主党菅政権の2011年にスタートしたのが総合特区です。
構造改革特区が、国民生活の向上を第一の目的としていたのに対し、総合特区は、産業の国際競争力の強化による、国民経済の発展を第一の目的に作られたしくみです。

初めて、国際競争力と言ったグローバル化に対応した特区となっていること。

構造改革特区には無かった、金融(金利補助)、財政、税制(法人税・固定資産税・都市計画税などの減免:アジアヘッドクオーター特区では10割。全額免除。)の支援が組み合わされた施設整備補助の色合いの濃いものになっていること。

また、総合特区の中でも、特に国際戦略総合特区は、それまでの特区とは異なり、都市部、しかも、広域にわたり指定されていること。

などが、その特徴と言えるかもしれません。

*首相官邸HPより

現在、
国際総合特区7件、地域活性化総合特区37件 35都道府県にわたり指定されています。

【国家戦略特区】

自民党政権にかわり、この総合特区での議論における規制緩和が思うように進んでいないことなども背景に、 「産業競争力会議」で提案されアベノミクス第三の矢として位置づけられているのが「国家戦略総合特区」です。

「聖域なき」ということばは、ある意味、政治家の枕詞のようになっていますが、この国家戦略特区のワーキンググループの提案を見る限り、これまでの特区は全く異なったありとあらゆる分野にわたる「規制緩和」がその対象になっていることがわかります。

また、区域が指定されているのが特区ですが、今回の「国家戦略特区」では「バーチャル特区」という言葉が出てなど、区域外でも事業展開できるようにという提案も行われています。
国際戦略総合特区より、さらに広域にその影響が及ぶ可能性のあるのが「国家戦略特区」です。

国家戦略特区の事業者募集における規制緩和のメニューは、国家戦略総合特区ワーキンググループを今年5月に立ち上げた有識者などからの集中ヒアリングがもとになっています。ここでの提案は、「日本再興戦略」の規制制度改革をさらに詳細に具体的に示した内容 になっています。

事業の目的をかなり具体的に示しているところからも、これまでの特区に比べ、より国主導の色合いが強くなっていることが見てとれます。

しかも、これまでの特区においても、たとえば、アジアヘッドクオーター特区の8区域のうち7区域までが、民間事業者による(東京都への)応事業提案だったように民間事業者の提案である部分も少なくありませんでしたが、直接民間事業者に応募させるなど、民間事業者の要望をすい上げたいという政府の意向が表れていると言えます。

2.国家戦略総合特区からTPP後を知る

TPPは、あらゆる経済障壁を取り払う経済協定といった言われ方もされていますが、このワーキンググループで示されている項目 は、秘密裏に進められているTPPが実際に日本で進められた場合に、どの分野において、どのような規制緩和が行われるのかを知る上でも、非常に興味深い内容になっています。

特区の分野:一部抜粋 (分類は内閣府の議事録のまま)
1.都市再生
  ・都心居住促進等のための容積率の大幅な緩和
  ・プライベートジェット機専用の羽田空港第6滑走路の整備
  ・区分所有権法のマンション建替え決議要件の緩和(議決権方式で2/3以上など
 
2.医療
  ・混合診療
  ・高齢者自己負担率の引き上げ(年齢に応じた負担率の導入)

3.介護・保育
  ・介護施設への外国人の受け入れ
  ・介護保険の混合介護(質の高いサービスに関する価格の上乗せ)
  ・都市部における保育士に関する規制緩和

4.雇用・人材
  ・解雇規制の緩和・合理化
  ・労働時間規制の適用除外
  ・賃金政策の再検討

5.教育
  ・公設民営学校(公立学校の運営の民間委託)の早期解禁
  ・海外留学(一年間)を大学卒業のための必須要件化

6.農業
  ・農地への不動産信託の導入
  ・株式会社等による農地所有の解禁
  ・減反制度・米価設定の廃止

7.エネルギー
  ・電力システム改革(小売自由化、発送電分離等)の早期実施
  ・環境・エネルギー分野における欧米との規制・基準の統一化
  ・サマータイムの導入

8.文化・芸術・クールジャパン

9.インフラなどの民間開放(PFI・PPP)
・公的データベースの民間開放(不動産等)
  ・水道事業に関する民間参入の推進

10.その他(行政改革)
  ・公務員の給料を民間と同一基準化
  ・外国法規に基づく教育・金融・法律・医療機関等の認可の推進
 ・国家戦略特区推進のため特区担当部局が関係各省・自治体の人事を担当

11.税制関係
  ・法人減税