アベノミクスで公設株式会社立学校【大田区が国家戦略特区に手を上げた影響】

アベノミクス第三の矢の一丁目一番地と言われるのが国家戦略特区。
その経済政策の一つに公立学校の民間委託(=株式会社による公立学校受託)がある。

国家戦略特区法附則 (69/77 第二条4)に、今年12月13日までに協議せよとあるので大田区も特区に手を上げているから大田区の先生に聞いたがご存じなかった。

公立学校では、既に学校給食や警備などの民間委託は可能になっている。
それを学校ごと(=包括的に)株式会社などに委託しようというのが公立学校の民間委託だ。
つまり、公立学校の民間委託というのは、学校の先生を公務員ではなく民間にしよう、ということ。

教育目的であれば、たとえば、進学対策で難関大学進学率の高い学校法人に委託とか、スポーツで実績を上げている学校法人に委託という考え方も「有る」と思うわけだが「株式会社」。公立学校の民間委託は教育改革ではなく経済政策である所以だろう。

これにより、公立学校という「公教育」の一翼を株式会社が委託というかたちで担う構図。
株式会社に公立学校というマーケットを開放するということになる。

【株式会社は学校運営になじまないと言われてきた】

しかし、これまで、株式会社は学校運営になじまないと言われてきた。

株式会社は株主の利益を最大化するために存在する。
しかも、昨今は、投資利益を短期で回収することが求められてきているから、数年で「結果」を出すことが求められる傾向にある。
その株式会社が学校を運営すれば、利益優先に走るのではないか。

【利益最大化のために競争すれば教育の質は高まる?】

これに対し、規制改革側からは、独占的・非競争的市場ならいざしらず、通常の競争的な市場では、株式会社は、利益最大化のためには、結局、教育の質を高め、価格を抑えて市場競争で生き残るほかはなく、株式会社だからといって、公共性の高い事業を担えないということはないと反論されている。(*1)

この理屈で、小泉構造改革特区の時に公教育の一部を株式会社が担えるようになった。

【競争の無い公立学校を株式会社が運営】

ところが、市場原理により、良いものを提供しないと競争に勝てないから「質」は確保されると言って公教育に参入した株式会社が、今度は公立学校、しかも委託だ。

委託金額で売り上げが確保される公立学校にほぼ競争は無い。

品川区では、学校選択制を導入し、保護者や子どもに学校を選ばせているが、徒歩で通える範囲にも限界がある。

ここに競争性を導入すれば、学校は地域の世代構成やコミュニティーにも大きく影響するため都市計画にも影響する。

しかも、委託になれば、受託事業者は、次回も受託されようとして「行政」に選ばれやすい学校運営をするようになる。これが行き過ぎた斟酌(しんしゃく)につながれば「政権与党」に「受ける」教育を行う可能性がでてくる。
すると、教育と政治の分離が極めて難しくなる。

【教育の非営利性】

憲法99条は公務員に憲法を尊重し擁護することを求めている。
公務員はその職に着いた時、憲法を遵守しますとサインする。憲法遵守義務を負う公務員が公立学校の運営を担ってきているのだ。
それが民間委託になると、憲法遵守義務の無い民間が公立学校運営を担うと言うことでもある。

学校法人も日本の公教育を担ってきたが、学校法人は、下記の「非営利」原則により「質」を確保してきた。

①利益の分配が認められていない(企業でいう株主配当が無い)
②出資割合に応じた払い戻し不可
③残余財産の帰属先を国や同種の法人とするなどの定めがある

「非営利原則」は、過度に利益追及に走らない歯止めと言われるしくみだ。
これらを理屈に、学校法人への機関補助と呼ばれる公金が投入されてきた。

株式会社立学校は、学校法人が受けている税の減免や機関補助を求めている。(*2)
公立学校の民間委託の次は、学校法人と同等の減免策を得て教育分野に参入しようということだろう。

日本のGDP比の公教育支出は先進国の中でも最下位レベル 。(日本のGDP比の公教育支出 畠山勝太 / 国際教育開発より)私費で教育支出を補っている状況だ。
ここに株式会社が参入し、教育を担うと日本の教育はどう変わるだろうか。
更に私費負担が増すことにならないのだろうか。

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(参考資料)

日本私大協会のHPより
教育特区とは何だったのか 株式会社立大学の導入経緯と論点(上)

(*1)
公共性と利益追求の葛藤 株式会社立大学の導入経緯と論点(下)

国家戦略特区で公立学校の民間委託を求めているのは、学校教育を担う株式会社が作った新しい学校の会 。 昨年大阪市の教育委員長に選任された大森不二雄教授も有識者として公教育を株式会社が担えると発言している。

(*2)
新しい学校の会

有識者等配布資料(PDF形式:80KB)
議事概要(PDF形式:219KB)


大森 不二雄 首都大学東京大学教育センター教授

有識者等配布資料(PDF形式:622KB)
議事概要(PDF形式:230KB)