「空き家条例制定」における大田区の姿勢にみる放置された課題

管理されず放置されている空き家が増え、老朽化し、場合によっては倒壊などの恐れも出てきて問題になっています。

増え続ける空き家に対し、自治体が条例により対策をたてるようになってきていて、大田区でも、平成24年度第四回定例会において、「大田区空き家の適正管理に関する条例」を策定しました。

 


 
空き家の対策を行うことは重要ですが、今回の条例は、

①「建物」の老朽化に伴う影響に限定した条例であり、現実に起きている空き家の問題の部分的な問題しか対象になっていないこと。
②区が対応をとる基準が明確でないこと。
③実効力の無い形だけの条例であること。
④パブリックコメントの回答を偽り責任を回避したこと

から、反対しました。

今後さらに増えることが予想される空き家の問題は、背景にある様々な要因をきちんと把握し、対応しなければ、区民生活に大きな影響を及ぼすことは必至です。

今回は、戸建ての空き家が対象ですが、近い将来、集合住宅の空き家の増加も大きな社会問題になるでしょう。すでに都心部周辺では、集合住宅のスラム化が問題になっています。

手間をかけ、時間をかけて実効力のないパフォーマンスだけの今回の大田区の空き家条例を許せば、行政はさらに形骸化します。手間も、時間も私たちの税金で支えているのです。


 

【空き家条例制定の背景】

空き家が増える背景には、

①核家族化
②少子化
③高齢化
④人口減少
⑤総量規制政策無き開発
⑥相続税の課税の在り方

など、様々な要因がありますが、それらは放置されていて、今後、さらに大きな問題になることは容易に予測されます。

①~⑥はそれぞれが密接にかかわり合っているわけですが、世代間の人口の大きな差が更に空き家を増やすことが考えられます。

私が参加している「景観と住環境を考えるネットワーク」においても、先日この問題を取り上げています。
http://machi-kaeru.com/

にもかかわらず、都心部に住みたい需要にこたえる形で比較的手に入れやすい価格帯のマンションが建設されていて、結果として総住戸数は今も増えています。
しかし、建築されてもその分、人口が増えているわけではありませんから、結果、空き住戸が増えることになるわけです。

空き家が増えていることは、平成20年の住宅土地統計調査にすでにあらわれていて、大田区も住宅マスタープランにおいて指摘しています。

【空き家問題の本質が表面化されることを避けた大田区】

こうした社会状況のなか、空き家条例を制定する自治体が増えていて、平成24年度第四回定例会において、小平市、八王子市などでも同様の条例案が出されています。

 

課題①◆「建物」の老朽化に伴う影響に限定した条例であり、現実に起きている空き家の問題の部分的な問題しか対象になっていないこと。

今回、生活者ネットワークは、本会議場において、議案提出に関わり、大田区の問題意識について質疑しました。
なぜなら、大田区が、空き家の老朽化による倒壊だjけを対象とし、空き家そのものの問題意識についてまったくふれていなかったからです。

空き家の問題意識に係る大田区の答弁 議案質疑 動画 再生(20分40秒~)
しかし、大田区は、住宅マスタープランにおいて言及しているにも関わらず、空き家の問題意識に触れることを避けました。

そこで、同様の問題について、私の所属する都市環境委員会において問いましたが、ここにおいても、大田区は、「空き家の建物の条例なのでそれ以外については対象外である」として、「空き家」の問題意識について、かたくなにひとことも触れないという対応をとりました。

空き家の問題に限ったことではありませんが、問題解決のためには、現状の把握から課題を明らかにするところから取り組むべきです。
しかし、大田区は、区として、意図する、つまり、今回は、老朽化した建物にだけに答えればよいという姿勢に終始し、空き家そのものの課題の本質が表面化することを避けたわけです。

そして、それは、区長の考え方であるとまで断言しました。

区民の問題意識・関心は高く、今後も増えることが予想される空き家の問題は、単なる老朽建物の倒壊だけの問題ではありません。

課題②◆区が対応をとる基準が明確でないこと。

しかも、対象としている建物の問題についても、老朽化の基準が示されていないため、どのような状況の時に区が何をするのかあいまいで、地震による倒壊は含まれないとしているため、相当に老朽化している建物も対象外になる可能性があります。

現在、大田区が把握している老朽化した建物は約40ありますが、それらはすべて倒壊の危険はないとしています。
これまで、大田区民が大田区に連絡してきた老朽化した空き家について、大田区は、「現在、区が把握している空き家は、条例の対象外」と答弁していますから、かなり老朽化し、区民が問題だと考えている空き家もこの条例ができたとしても対象外です。

地震による倒壊は含まれないとする発言も、どの程度の地震で倒壊するかが区民にとっては重要で、地震がきたら倒壊しそうだから区に措置を求めているのではないでしょうか。

課題③◆実効力の無い形だけの条例であること。

たとえば、豊島区では、空き家の実態調査を行い、現状把握につとめるとともに、区民の意見を丁寧に拾い上げるという作業を行っています。加えて、空き家の活用に係る協議会を立ち上げるなど広くまちづくりの観点で取り組んでいます。

小平市、八王子市の条例案と比較しても、空き家の定義、目的などが大きく異なりますが、大田区の条例が、実行力の無い、いわゆる流行なのでとりあえず作るパフォーマンス的な条例であることは否めません。

課題④パブリックコメントの回答を偽り責任を回避したこと

大田区は、条例制定前にパブリックコメントを募集し、HP上に公表しています。

【区民意見】
●建物の適正管理だけでなくその敷地内の樹木等についても同様の適正管理をさせてほしい。
●空き家の「管理不全な状態」の定義に「防犯上問題のある状態、害虫・ねずみ等の発生する可能性のある状態」も加えていただきたい

という意見に対し、

【大田区の考え方】
●樹木のせり出しについては、空き家であれば「清潔で美しい大田区を作る条例」での対応になります。
防犯上の対策については、「大田区安全で安心なまちづくり条例」で、害虫及びなずみ等の発生防止対策については「清潔で美しい大田区をつくる条例」でそれぞれ対応しています。

とこたえていました。

ところが、パブリックコメントで上記赤字の条例で対応するとHP上で公表していましたが、生活者ネットワークの質問に対し大田区は、それら条例は対象外であると説明しました。

そこで、議会で指摘したところ、12月14日付のまちづくり推進部建築調整課長名の文書で、パブリックコメントを訂正するとしてきました。

12月14日付のまちづくり推進部建築調整課長名の文書


区は、区民に対し、対応が不十分である空き家条例案を、偽ったパブリックコメントに対する回答を示すことで、正当化させたと言えないでしょうか。

他にも、パブリックコメントで、警察と消防との連携をとってほしいという要望に対して、「条例制定時に十分協議を行いたい」と答えておきながら、委員会で の質問に対して、まだ協議は行っていない、条例制定後に協議する、とこたえています。これも、偽った回答ではないでしょうか。

空き家という問題について提案をしてきた区民に対し、狭い縦割り意識の中、建築調整課の考え方だけに終始しましたが、果たしてそれで十分と言えるでしょうか。

そもそも、建物があった場合、固定資産税が6分の1で済むことが空き家として放置される理由にもなっています。
今後、相続が発生した場合、被相続人が複数の不動産を所有する事例も考えれば、固定資産税のあり方も含めた対策が必要になります。本来であれば、現場で起 きている問題について、国に法令での対応を求めることこそが、地方分権の役割ですが、ここでは国と地方縦割り意識が表れているとは言えないでしょうか。

このことが解決されない限り、空き家問題の解決にはつながらないでしょう。