風が吹けば桶屋がもうかるー東京都の再開発が進めば大田区など基礎的自治体の住民サービスが低下する理由
東京都の再開発が進めば進むほど、大田区民の保育や高齢や障がいなどの住民サービスが低下し、削られる可能性が出てきています。
「風が吹けば桶屋が儲かる」式、「東京都の再開発が進めば大田区など基礎的自治体の住民サービスが低下する理由」について意見を申し述べてきました。
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【再開発の方針とは】
「都市再開発の方針」 は、土地区画整理事業、市街地再開発事業、木造住宅密集地域の整備、大規模跡地利用等による面的整備などの各種施策を長期的かつ総合的に体系づけたマスタープランで、地区毎にまちづくりの目標、方針、整備計画の概要などを都市計画で定めています。
そして「都市づくりビジョン 」や「都市計画区域マスタープラン 」を実効性あるものとするために策定されています。
東京都が2001年に策定した「都市づくりビジョン」には「世界をリードする魅力とにぎわいのある国際都市東京」という目標が掲げられていて、こ のビジョンをもとに東京都は、経済活力はもとより、国際都市に不可欠と考えられる環境、文化、生活等の様々な魅力を備えた都市の実現に取り組んできていま す。
その結果、幹線道路の整備や羽田空港の再拡張と国際化、大手町連鎖型再開発など都心部の機能更新が進み、首都東京の都市再生に向けた取組は大きく進展し たと評価されていて、2009年には、羽田空港の拡大する発着枠を活用した更なる国際化など、国際競争力の強化に加えて、環境、緑や景観、耐震などの視点 を一層重視した都市づくりが必要であるとした改定を行っています。
策定時から「都民生活」のためという位置付けが希薄だった「東京都市づくりビジョン」ですが、2009年の改定で、「東京圏の近隣自治体と連携して首都 機能を担い、日本経済の牽引役となる」と記されるなど、経済のけん引役としての首都東京にふさわしい都市基盤を作るための経済的側面がさらに強調されたビ ジョンになっています。
一方の都市マスは「長期的視点にたった都市の将来像を明確にし、その実現にむけての大きな道筋を明らかにするもの」と位置付けられていますが、都市マスの公述会で申し述べさせていただきました通り 、その大半は、市街地再開発や土地区画整理事業、耐震改修、バリアフリー化、道路整備、連続立体交差事業、リニア中央新幹線、エレベータ整備、ユニバーサ ルデザイン、サイン事業、コミュニティバスの運行、LRTやBRT、バスレーン、下水道貯留施設、下水の高度処理、高潮防御施設や江東内部河川の整備、堤 防や水門などの耐震・耐水対策、スーパー堤防、清掃工場や不燃ごみ処理施設、スーパーエコタウン事業など、インフラ整備に割かれています。
日本はすでに人口減少が始まっていて、首都東京のさらに都心部23区も2020年以降人口減少予測されているにも関わらず、首都圏350万人の人口をさ らに都心部に集中させることで今後5年間の膨大な公共事業による投資メニューを成り立たせようとしているのが改定都市マスです。
【合意形成】
この「都市マス」や「都市づくりビジョン」を実効性あるものとするため策定されているのが「都市再開発の方針」ですが、
具体的な効果として
① 再開発の積極的推進の動機となる
② 市街地再開発の十分な効果を発揮させられる
③ 民間の建築活動を再開発へ誘導できる
④ 早期の住民の合意形成を図ることができる
と記されています。
「再開発の方針」に書き込めば、民間が再開発を積極的に進められ住民の合意形成も得やすいと言っているわけです。
それでは、この再開発の方針は誰の意見をもとに策定さているのでしょうか。
東京都は策定に関り自治体に意見を求めていますが、たとえば私の住む大田区は、原案回答にあたり都市計画審議会には報告のみで諮問すらしておらず、公に区 民意見聴取の場を設けていません。 住民不在で決めても「再開発の方針」に書き込めば、再開発を積極的に進められ住民の合意形成も得られるというのはどう いうことでしょうか。
【費用負担】
都市マスは地権者と事業者という利害関係者の発意で始まり、都市再開発方針も住民不在でいつのまにか決まるにもかかわらず、財政負担だけは地権者であるなしに関らず、当たり前のことですが広く国民に転嫁される構図になっています。
【白紙委任の構図】
たとえば、再開発促進地区に指定されている大森駅前地区ですが、まちづくり組織の準備会は行政主導で始まっています。
「大田区が」法人個人65名の土地建物権利者を集め、「大田区が」策定したまちづくりの方針を示すとともに駅周辺の課題と解決の方向性を説明し、「大田 区が」まちづくりの組織が必要だと住民に理解を求め、「大田区が」まちづくり組織の準備会立ち上げを提案し、住民から賛同を得ています。
住民の発意は見えず、大田区主導、土地や建物の権利者だけで再開発の準備会が立ち上がっていますが、いったん準備会が立ち上がれば事務局の費用など公費が投入され再開発は既成事実化されていきます。
再開発促進地区に指定されている区域は23区域では総面積621㎢の約1/4の146㎢にもおよびます。いったん再開発促進地区に指定されてしまえば、 こうして行政主導で進めても住民の合意形成をとったことになってしまう訳です。いつどこで再開発をしたくなっても良いように広めに指定しているかのように さえ見えてしまいます。
【事業費】
しかも再開発は保留床を売却して事業費がまかなわれるかのような印象を持っている方も多いと思いますが、莫大な税金が投入されます。
それでも、経済のけん引役東京都が税収を稼ぎだし、その有り余る税収から再開発が行われまちが良くなるならまだしも、東京都は国からは富裕団体とみなさ れているにもかかわらず。そこに住む都民は常に住民サービス、特に福祉サービスの不足にさらされています。 高齢化や経済状況の悪化、雇用の流動化などに より東京都の保育や介護や障がいなどの社会保障ニーズは高まる一方ですが、経済のけん引役東京都の恩恵を都民は受けていません。
しかも、この約10年の構造改革により基礎的自治体に福祉の事業主体が集約されてきています。特に東京23区は保育園の待機児や特養の待機者の深刻な地域ですが、法人住民税の国税化の影響をうけるなど基礎的自治体としての財源は厳しくなるばかりです。
たとえば、大田区の糀谷駅前再開発の総事業費は198億7,000万円。そのうち大田区が58億3,000万円、国が43億8,000万円負担してい て、再開発組合の負担は約1/2の96億6,000万円に過ぎません。道路や広場など都市施設の整備に莫大な公費が投じられるわけで、区の負担は国の負担 より大きくなっています。東京都は方針は示しますが、大きな負担は大田区にくるわけです。
こうした状況で東京都が再開発の方針を定めれば、限りある、不足が明らかな財源から優先的に再開発に財源が投入されることを意味します。しかも、再開発 は、特区のしくみを使うことで法人事業税や固定資産税などの減税措置が受けられる場合もあり、再開発すればするほど税の支出は増えますが、収入は増えない 可能性が高いのです。
東京都は再開発の方針策定にあたり、個々の再開発に国・都・区市町村で一体いくらくらいの公費投入を伴うか明らかにすべきで、そこから再び議論しなおす必要があります。
このままの再開発のしくみで方針を定め、再開発が始まれば、結果として、社会保障を中心とした大田区など基礎的自治体の住民サービスに影響が及ぶことになります。
東京都が手を上げた国家戦略特区は、容積率を上げ再開発を後押しするものですが、特区のしくみを使うことで法人事業税や固定資産税などの減税措置が受けられる場合もあり、再開発して都市施設が更新されても公費の負担ばかりで税収が増えない可能性があります。
【大田区の予算への影響】
来年度の大田区の予算編成方針を見ると、こうした影響が私の杞憂ではないことがみてとれます。
例えば大田区は、平成27年度、特別区民税は微増ですが、法人住民税、固定資産税を主な原資とした特別区交付金は連動して増えないのみならず、5年と区 切って同じ傾向が続く見込みであると言っています。これは、法人住民税の国税化や5年を年限とした特区の再開発に対する減税措置の影響も大きいのではない でしょうか。
しかも、法人住民税の国税化は税源の偏在是正という、東京都が国から富裕団体とみなされた結果ですが、にもかかわらず23区中財政的には中位とみなされ る大田区においても平成27年度予算編成方針の「選択と集中」という言葉に象徴されるあからさまな「住民サービスの切り捨て」が行われる可能性が出てきて います。
【東京一極集中の弊害】
改定する東京都の都市マスは周辺部から都心部にさらに集中させる考え方になっていますが防災機能を低下させはしないでしょうか。都心部を高度化し更新す れば、周辺部に空き家が増えることも考えられますし、周辺部に空き家が増えないということは、再開発による集中が成功しなかったことを意味します。東京都 の再開発の方針は、周辺部の人口減少という犠牲と都心部の防災機能などの低下をまねく可能性をもった方針でもあります。
人口減少、超高齢化社会において、右肩上がりの経済成長を作りだそうとすれば無理をせざるを得ません。
再開発の手法そのものの問題は別の機会に譲るとして、再開発の方針が、一部の利害関係者が投資利益などを得たのち膨大な都市施設と財政負担だけが残る方 針にしないためにも、区域をより限定的にすること、財政フレームを明確にし、基礎的自治体の社会保障ニーズ財源を圧迫しない範囲での再開発とすることなど 区市町村への影響も含め検討すること、一部の地権者にとどまらない合意形成を行うことなどの視点からの方針の見直しを求め原案に反対いたします。