大田区の絶対高さ制限(案)は住環境悪化や建築紛争を未然に防げるか

規制緩和により、以前は建てられなかったような高い建物が建つようになり、大田区でも、建築にかかわる紛争があとをたちません。
大田区は、住環境の悪化や建築紛争を未然に防ぐことを目的に、絶対高さ制限の導入を検討しています。

12月1日に行われた説明会に参加し、区の考え方について聞いてきました。

区は、絶対高さ制限をすることにより、環境悪化や建築紛争の予防をあげています。

しかし、規制緩和により、区内の良好な街並みが変貌し、建築紛争を招いているという認識がありながら、大田区が定めようとしている絶対高さ制限は、規制緩和後の実態をもとに算出しているため、この高さを導入することで、住環境の悪化や建築紛争が未然に防げるという説明にはなりません。

逆に、規制緩和後の数字を「絶対」として、住民が声を上げられない「規制」になりかねません。

しかも、大田区の建築紛争の多くは、住工混在地域や商業地域、幹線道路沿い、川沿いなど用途の境などに見られ、敷地の大きさなどで紛争はある程度予測できますが、これら紛争が起こる可能性が高い地域に対する丁寧な対応は行われていません

たとえば、川崎市では、用途が工業であっても、そこに住宅が建設される場合には、別の規定を設け、高さを制限するなど工夫していますが、大田区にはこうした取り組みはありません。

また、高さ制限を導入することで違反建築=既存不適格となる建物に対する考え方ですが、大田区の場合には、基本的に一度なら認めるとしています
たとえば、練馬区などでは、絶対高さを基準として、良い建築に対してボーナス的に高い建物を建てられるようにしているなど、基本的な考え方が違います。

また、絶対高さ制限を導入しない区域を示していますが、指定除外区域について、明確な指定除外の考え方が示されていません。
指摘したところ、これから説明するという答えでした。

この高さ制限では、「ここまで建てて良い」というお墨付きの高さになってしまい、区の目的とする住環境の保全や紛争の予防の解決にはつながらないのではないでしょうか。

________________________________

大田区の説明(かっこは奈須加筆)

建築基準法改正により、これまで建てられなかったような高い建物が建築可能になり、区内の良好な街並みが変わってきている。
大田区では、都市計画マスタープランに高さのルールについて方針を示しているし、地区計画では市街地の環境を維持することはできないので、絶対高さ制限を導入しようと考えている。

絶対高さを制限し突出した高さの建築物を抑制すれば、住環境の悪化や、高い建物が建つことで起きている建築紛争も未然に防ぐことができる。

一部例外は設けるが、区内全域について、これまでの大田区のルールに従って絶対高さ制限を導入しようと考えている。

高さの計算方法は、規制緩和後の過去10年の実績に従い初期値を算出したうえで、計画や実績をふまえて補正(+-)したうえで、用途地域や容積率の区分に応じ設定する。

一方で、高さ制限を導入することにより、区域内においてその高さより高いために違法建築=既存不適格となる建築物については、一定の要件を満たせば、一回限り歳建築可能にするなど特例措置についての検討している。

また、区内にいくつかの高さ制限の除外地域を設けている

_____________________________________

区の説明に対し、区民からのおもな質疑・意見は下記の通り。

Q1
目的に、有識者の議論では取り上げられていた「良好な街並みを維持し」が無いのはなぜか。目的が変わったのか。
A1
有識者との整理の中で変わってきた。
Q2指定対象区域外とする区域と都市計画マスタープランとの整合性が無いが
A2用途地域の区分で指定した
Q3H27からということだが蒲田西口再開発との関係は
A3制限はかからない。地区計画など他の法令が優先される
Q4説明の事例が容積率200%という少ないケースを事例にしている。なぜ多い300%sにしなかったのか
Q5既存不適格の建て替えは1回限りだが、建てれば30年から50年は建て替えがない。ほぼ影響にまちなみを変えられないのではないか
A5ここにいる誰もいなくなる。何でも認めるわけではない。
Q6周辺の環境と言っても抽象的。住民の声を取り上げてほしい。
Q7住環境の保全について
A7住環境の保全は大切な視点
Q8事業者の参加が無い。規制する前の駆け込みについて。
A8かけこみでないよう周知する。
Q9ヒートアイランド、音、風など
Q10数字出せばその範囲ならすべてたてて良いにならないか
_____________________________________

大田区の絶対高さ制限導入にかかわる理由・目的・考え方は、以下のとおり。

【理由】
①平成14年の建築基準法改正による規制緩和で、それ以前には建たなかった高層建築が可能になったことにより、良好な街並みが変わってきている
②平成23年改定のマスタープランに、良好な街並み保全や市街地菅家要改善をはかるための高さルールにかかわる調査研究の方針が示された
③「地区計画」でまちなみを維持していくのは困難

【目的】
住環境の悪化及び高さに伴う建築紛争を未然に防ぐため、それぞれの地域において突出した高さの建築物を抑制するため

【絶対高さ導入の基本的考え方】
①一部区域を除いた区内全体を対象として定める
②大田区都市計画マスタープラン、大田区景観計画等における高さの方針をふまえる
③斜線制限型高度地区の指定は併用する

【絶対高さ制限の数値「初期値」の考え方(計算方法)】
初期値=(指定容積率÷中高層の標準的建ぺい率=階数)×中高層標準的階高×1.2+1m

建築物の階高に標準的な各階の高さをかけると高さが出ます。建築基準法改正後は、共有部分(廊下や階段、駐車場など)を容積率に加えなくてよくなりました ので、その分高いものが建てられるようになっていて、1.2をかけ、さらに屋上のたちあがり部分として1mを加えてあります。
標準的建ぺい率や階高は建築基準法改正後の平成14年~23年のデータを使い、1.2をかけているのも、建築基準法改正後に共有部分を容積率に参入しなくてよくなったことにより、高い階高を確保できるようになったのを反映させています。

◆プラスマイナスの補正の要因となる数値
①上位計画関連計画
②用途地域の状況
③土地利用の現状
④既存不適格建築物の状況

【特例措置の検討】
①既存不適格について
高さ制限を導入すると、その高さ以上の建物は、違反建築物になり、将来建て替え不能になります。区は、それらの建物について、一定要件を満たせば、1回限り建て替え可能
②地区計画のかけられている地域は、その高さを絶対高さ制限の値とする
③緑化や壁面後退など一定の条件を満たす場合に絶対高さ制限を緩和することを認める
③区長が許可した時には、建築審査会の同意を得たうえで、高さ制限を適用しないことができる

【指定対象除外区域】
①絶対高さ10mに指定されている区域(第一種居専用地域、第二種低層住居専用地域)
②蒲田・大森駅周辺および糀谷駅再開発地域
③空港臨海部、工業専用地域
④大森東の都営住宅周辺
⑤下丸子の多摩川河川沿い大規模マンションおよび都営住宅周辺
⑥大森北イトーヨーカ堂およびその周辺