妊娠中の女性が、航空機から排出される超微粒子に曝露すると、早産の危険性が増す 科学ジャーナル「Environmental Health Perspectives」より

科学ジャーナル「Environmental Health Perspectives」の4月2日に掲載された論文は、航空機の排気により、早産のリスクが高まると指摘しています。

飛行場の風下における超微粒子曝露は、人口が密集した住宅地域に広範な影響を及ぼす可能性があり、空港の立地や飛行機の飛び方など今後の航空行政が配慮すべき問題だと思います。

騒音、落下物、大気汚染、航空機そのもののアクシデントなど指摘される羽田空港の新ルートですが、大気汚染がもたらす深刻な影響の一つが明らかになったと言えます。 

論文の和訳を掲載します。翻訳は、奈須りえサポーターズのボランティアスタッフが行ったものです。Meiumの許諾を得て掲載しています。


 

科学ジャーナル「Environmental Health Perspectives」の4月2日に掲載された論文が、

航空機の排気と早産との間に関係があることを明らかにしました。

超微粒子の曝露が高い地域、すなわち世界中の多くの場所にある、

空港の風下に当たる住宅密集地域に住む妊婦が、公衆衛生上の大きな問題さらされていることが分かる

と指摘されています。

この論文は私たちが航空行政において、この浮遊粒物質とも呼ばれている超微粒子の妊婦と胎児への影響についても考えていたなければならないことを指摘しています。

特に、今回の新飛行ルートで内陸飛行がはじまれば、超微粒子が長時間にわたり、密集市街地でばらまかれることになります。

たとえば、
南風における
AC滑走路着陸
B滑走路離着陸

北風における
C滑走路離陸

などで、都心に広がる大気汚染がこの論文の指摘する「公衆衛生上の大きな問題にさらされることになる」ということではないでしょうか。

 

論文について取り上げた記事と、論文の概要についての和訳を掲載します。
*和訳は、奈須りえサポーターズのボランティアスタッフが行ったものです。


論文の概要を紹介した記事

 

「妊娠中に、航空機の排気に曝露することの危険性」

出典(Meium)
「妊娠中に、航空機の排気に曝露することの危険性」

5月9日、Medium に投稿

 

著者  ルース・ステファン、サラ・ステファン ( Ruth Stephen and Sarah Stephen)
 

妊娠中の女性が、航空機から排出される超微粒子に曝露すると、早産の危険性が増すという研究結果が、このほど発表された。これは飛行経路に住む女性の早産と、大空港(この場合、ロサンゼルス国際空港)の風下との憂慮すべきつながりを示した最初の研究だ。この研究結果の深刻さを考慮し、論文中の主要なメッセージに焦点を当てることで、政府の政策および利害関係者が行動を起こすための提言をする

早産とは、妊娠37週未満での出産のことを指す。英国における出産の約7%は早産で、毎年約6万人の赤ちゃんが早産で生まれている。早産は赤ちゃんの呼吸器疾患、視覚または聴覚障害、感染、発育遅延といった合併症につながり、新生児の主な死因でもある。

研究の詳細
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の科学者たちが、科学誌「Environmental Health Perspectives(環境衛生の視点)」において研究結果を発表した。空港から15キロ以内に住み、2008年から2016年に出産した17万4186人の母親たちの出産記録を調べ、彼女たちが妊娠期間中、航空機から排出された超微粒子に、どのくらい曝露したかを計算したのだ。2008年から2016年にかけての早産は1万5134件だった。研究者たちは、航空機の超微粒子に曝露した場合、交通による大気汚染や航空機の騒音に曝露した場合よりも、早産のリスクが高くなることを発見した

 

大気保全専門家会合(Air Quality Expert Group)で会長を務めたポール・モンクス(Paul Monks) 教授は、「超微粒子は、大気の中で最も小さく、最も動的な粒子に入る。この研究は、超微粒子に曝露すると健康に悪影響となる一連の証拠の1つであり、航空機が排出する超微粒子が早産につながるという実態を浮き彫りにしている。粒子数に対する規制や基準がないため、超微粒子の排出については、あまり詳しく調べられておらず、今回の研究は、特に空港周辺でこれらを早急に調べる必要性を示している」と語る。

これら主張を今回の研究結果に照らせば、超微粒子の曝露が高い地域、すなわち世界中の多くの場所にある、空港の風下に当たる住宅密集地域に住む妊婦が、公衆衛生上の大きな問題さらされていることが分かる。

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ⅰ  Mediumは、ウェブアプリケーション。テキスト、画像、動画などを含む記事の投稿と閲覧の機能をユーザーに提供する。Twitterの共同創業者であるエヴァン・ウィリアムズが2012年に立ち上げた。日本での本格的な展開は2015年1月から。2017年2月撤退。https://ja.wikipedia.org/wiki/Medium_(Web%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%93%E3%82%B9)

 ⅱ 生物科学エンタープライス哲学修士号(MPhil in Bioscience Enterprise)は、科学とビジネスの両方に興味がある生徒のためのプログラムのようです。https://www.graduate.study.cam.ac.uk/courses/directory/egcempbse

  ⅲ ポール・モンクスは、現在はレスター大学(University of Leicester)の教授。https://www2.le.ac.uk/departments/chemistry/people/academic-staff/paul_s_monks

 


論文の和訳

 

「Preterm Birth among Infants Exposed to in Utero Ultrafine Particles from Aircraft Emissions(航空機が排出した超微小粒子に子宮内で曝露した子供を早産することについて)」

掲載誌:、2020年4月2日

著者:Sam E. Wing, Timothy V. Larson, Neelakshi Hudda, Sarunporn Boonyarattaphan, Scott Fruin, and Beate Ritz

概要

序論:環境大気汚染が、出産に悪影響を及ぼすリスク要因であることは知られていが、超微粒子が及ぼす影響については、あまり理解されていない。航空機が排出する超微粒子は、空港の風下の住宅地の大気環境に、広範にわたって悪影響を与えるが、それがリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に与える負荷については、研究されていないのが現状だ。

目的:この分析は、ジェット機から排出された超微粒子と、ロサンゼルス国際空港の風下の地域に住む妊婦たちの間で早産率が増加していることが関係しているかについて調査したもの。

方法:カリフォルニア州公衆衛生局 (California Department of Public Health)から提供された出生記録を使って、出産結果を確認し、また新たに有効性が認められた地理空間の超微粒子分散のモデル・アプローチを使って、子宮内での曝露を推定した。この分析には、ロサンゼルス国際空港から15キロ圏内に住み、2008年から2016年に出産したすべての母親が含まれている(総数=17万4186人、うち早産は1万5134人)

結果:航空機が排出した超微粒子に子宮内で曝露することと早産の間には、明確に関連性がある。超微粒子への曝露に関係する四分位範囲ごとのオッズ比の増加(1立方センチ当たり微粒子が9200個)は1.04(95%信頼区間:1.02、1.06)だった。超微粒子曝露の第4四分位数と第1四分位数を比べると、母親の人口統計学的特性、交通による大気汚染への曝露、空港関連の騒音を調整した上での早産のオッズ比は1.14(95%信頼区間:1.08、1.20)だ。

結論:今回の研究結果は、騒音や交通関連の大気汚染曝露とは別個に、航空機の排気が早産の病因的役割を果たしていることを示している。飛行場の風下における超微粒子曝露はよく起きることで、人口が密集した住宅地域に広範な影響を及ぼす可能性があるため、今回の発見は公衆衛生上の問題である。

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ⅰ カリフォルニア州公衆衛生局http://www.jeic-emf.jp/whats_new/6059.html

 


 

著者  ルース・ステファン、サラ・ステファン ( Ruth Stephen and Sarah Stephen)
 
著者:ルース・ステファン博士
著者略歴:乳がん研究で博士号取得(イギリス、レディング大学)、生物科学エンタープライス で哲学修士号取得(イギリス、ケンブリッジ大学)