奈須りえはこう考える「セイフティーネットにしてほしい平成29年度大田区各会計予算予算」

大田区の平成29年度予算が成立しました。

第一号議案 平成29年度大田区一般会計予算
第二号議案 平成29年度大田区国民健康保険事業特別会計予算
第三号議案 平成29年度大田区後期高齢者医療特別会計予算
第四号議案  平成29年度大田区介護保険特別会計予算

私は「セイフティーネットになっていない」予算であることから、どうしても賛成できませんでした。以下にその理由を述べます。
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民営化や民間委託により、行政の仕事を民間が担うようになり、非正規雇用や低賃金労働が増えただけでなく、大田区行政内部も営利企業のようになるなど大きな変化をもたらしています。

予算特別委員会において指摘したとおり、地方分権で自治体の裁量権が大きくなったものの、その権限が大田区行政内部や区長にとどまり、大田区民や議会との合意形成なく行政主導で意思決定するようになってきています。

特区を提案した竹中平蔵氏が国家戦略特区を「ミニ独立政府」と呼んだように、大臣や都知事や大田区長など行政の長と規制緩和を推進する専門家や事業者などが意思決定権者になり、住民や議会不在で経済利益のため規制制度を改廃するようになっています。

国家戦略特区は投資のための経済政策ですが、行政主導の投資のための経済政策は、大田区の財政に大きな影響が出始めています。

平成29年度の大田区一般会計予算は対前年比45億円増の2,618億円余。過去最高規模で、大田区はこれを積極予算と評価しています。しかし、歳入を見ると、非常に無理をして組んだ予算であることがわかります。

 

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増えた45億円の主な財源が借金(区債)44億円と貯金(基金)取り崩し142億円で対前年比30億増、保育料や施設使用料の値上げ等で対前年比15億増だからです。ほか、国や東京都からの交付金で11億円。特別区税は11億円増収。いまは、マンション建設などで大田区への転入が続いていますが、平成28年3月に大田区が作成した人口ビジョンでも、こうした転入超による増加は長く続かないと見ています。

大田区は、平成28年度一般会計当初予算をベースに平成29年4月から消費税が10%になるものとして、平成28~平成37年度までの中長期財政見通し推計を試算してシティマネジメントレポートに公表しています。

このシティマネジメントレポートの、借金(折れ線グラフ)と基金取り崩し(棒グラフ)の推計をみると、平成37年に、基金は445億円に減り、区債発行残高が1,000億円近くになると予測しています。

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この推計は、

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・大田区の人口増はマンション建設などによる転入者増が2020年まで続きそれ以降一定程度収まる
・経済成長する

という前提の下で行われていて、それでも、基金は600億円も取り崩して445億円に減り区債発行残は988億円にもなるのです。

これが経済停滞ケースでは、基金322億円、区債残高は1,330億円にも上ります。

大田区が安易な区債発行を慎まなければならない2つの理由

区債は世代間の公平性を保つと言いますが、私は、大きくは次の二つの点から、大田区では区債に依存した区政運営をすべきでないと考えます。

世代間の公平と言えなくなる急激な人口構成の変化

・一つは、人口構成から世代間の公平とは言えない状況にあるということ右肩上がりは望めないということです。

大田区もすでに、2020年からの転入増は見込めないと言っています。この世代間を比較すると、5歳から14歳、5万2千人に対し、65歳から74歳だと7万8千人で、10年後に生産年齢人口は社会増減がなければ2万6千人減。その10年後には4万人程度減と生産年齢人口が急激に減ってくることがわかります。

世代間の公平と言いますが、作って・使い・負担する年齢層が激減するのです。それなのに、借金に依存し

インフラに投入してよいでしょうか。

日本で一番財政豊かな23区の大田区が借金経営はあり得るか
~必要な財源不足の要因分析~

もう一つの理由が、東京23区の大田区は、日本で一番財政が豊かな自治体なのに、借金をしなければ区財政を維持できないような使い方でよいのかということです。

このような財政状況になるのは、大田区に問題があるか、国に問題があるかどうちからであり、国や都の補助金が少ない、増税すべきなど、まずは、なぜ、財源不足か議論すべきです。

私は、国・大田区双方に課題はあるものの、区債発行ありきではなく、大田区の使い方をまず変えるべきだと考えています。

日本で一番財政が豊かな自治体の中に東京23区が含まれるのは紛れもない事実です。

仮に、その23区が借金をしなければ、財政を維持できないということはどういうことでしょうか。東京一極集中、アベノミクス、特区による経済政策、国土強靭化などすべてが失敗しているということではないでしょうか。

国の国債発行累積は1000兆を超え、引き受けも上限に達しています。だから次は地方、それも財源が集まる東京が狙われているのだと思いますが、これで、日本で一番財政が豊かな23区が区債を積み増せば、財政は硬直化し、国民が、利払いのために働かなければならない日を迎えることになってしまいます。

安易な区債発行は厳に慎むべきです。

需要増の要因は社会保障費の増加か

大田区は社会保障費が増えるから財政が悪化するという論調ですがこんな推計もしています。

シティマネジメントレポートで大田区は、平成37年までの*扶助費(子育て・介護・生活保護など社会保障関係費)の推計を青と黒の折れ線グラフで示しています。青が経済成長ケース。黒が経済停滞ケースです。

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ここで気になるのは、景気が悪くなった時にこそ必要な扶助費なのに、景気が悪い時の方が扶助費を一貫して少なく見積もっていることです。

しかも、国民健康保険、後期高齢者医療保険、介護保険の各会計が足りなくなった場合に補てんする金額を含めても経済停滞ケースのほうが金額が少なく見積もっています。

これらの各会計は、被保険者の特徴から高齢化の影響を受けやすい会計です。
特に国民健康保険は失業など景気の影響も大きく受ける会計です。

特に、国民健康保険は、23区域内では、同一所得、同一世帯構成であれば同一の保険料となるよう、基準となる保険料率を共通基準として策定し、各区が条例で定める保険料率をこれに一致させて運用していく統一保険料方式を行っています。また、保険給付や、一部負担金及び保険料の減免も統一の基準で実施されています

平成30年度から、国民健康保険は都道府県に移管されますが、23区のこの統一保険料方式はどうなるのでしょうか。

23区の中でも特に人口の多い大田区はこのしくみの恩恵を受けていると思われますが、大田区は東京都の動きを待っている状況です。

課長会、部長会など、来年度からの問題にまったく動けていないところにも東京都の内部団体化している状況が現れてはいないでしょうか。これでは、来年度以降の国民建国保険の大田区民への影響が心配です。

シティマネジメントレポートは、特別会計繰り入れ分もいれた推計を出していますが、急激に進む後期高齢者の数も、国民健康保険の制度の変化も加味しているとは思えない推計で到底賛成することはできません。
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大田区人口ビジョンによれば、財政負担を大きくすると言われる75歳以上人口は、平成27から平成37年の10年間で27.5%も増える予測yなのに、扶助費の予算は、景気が良くても5.6%増。景気が停滞した場合には、2.7%増しか見込んでいないのも気になります。社会保障が大田区民のセーフティーネットになっていないのです。

しかも世代間の公平で区債を発行すれば、その返済がありますから、将来世代の区民のための社会保障に使える金額は少なくなるということです。

一方、投資的経費と言われる土木建設費は、経済成長ケースで10年間に3,755億円も見込んでいますが、経済が停滞しても3,570億円と185億円、4.9%しか減らさず莫大な金額を確保しています。その中には耐震強度は足りているのに物が落ちないよう本庁舎に24億円かける工事費も含まれています。子育て介護など区民の皆様に我慢していただいてでも、物が落ちない区の施設が必要でしょうか。

しかも、松原忠義区長は、ご自身で3期で辞めるという多選自粛条例を制定しています。
ちょうど今期が3期目ですが、その最後の2年間29年30年に投資的経費を大幅に増やそうとしています。
任期中に使えるだけ使おうとしているように見えます。

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この財源確保が、借金(区債)と貯金(基金)取り崩しにつながるのです。

区債発行は公共事業にしか発行できません。

羽田空港の跡地開発
~税負担に支えられた民間事業者利益確保で進む跡地開発スキーム~

跡地要項

羽田の跡地の開発には、莫大な区民の税金が投入されるばかりでなく、都税、国税も投入されます。

そのうえ、一般的な区画整理事業であれば、宅地を民間に売却することで行政負担を軽くすることができますが、宅地は大田区が取得しますから大田区の負担が大きくなります。

では、その宅地は大田区が使うかと言えば、民間に50年の定期借地権で貸しだします。一般に区画整理事業は、道路や公園などを整備することで土地の価値があがりますが、定期借地権料月㎡あたり300円と安いうえ、設計によりますが、区画面積は5.9ha、容積率200%で建築できます。今回、プロポーザルでは36,000㎡以上の建物ということで募集していますが、11万8千㎡に近い床面積の建築が可能です。

最低収益2.5~3%の地代月額300円/㎡設定

大田区は、民間収益2.5%~3%を確保できるよう地代を設定しているそうですが、床面積をプロポーザルの36,000㎡で計算しているのだとすれば、床面積を建築可能な約11万㎡まで大きくすればするほど収益は、大きくなります。

大田区の政策目的実現のためだからと、研究開発施設、オフィス、研究開発ラボ、ベンチャーオフィス、ソフト技術支援スペースなどの用途が指定されていて、地代も相場より安めに設定し収益を確保し事業を継続できるようにしているそうです。場所も規模も違うので、私もどの程度安いかはわかりませんが、蒲田5丁目開発が月¥1250/㎡、大森北一丁目開発が月¥1,952/㎡に比べると¥300と一けた違っています。

政策目的だから安く貸出す跡地は普通財産(×公共用財産)

しかも、政策目的と言いますが、事業用地は公共用財産ではなく普通財産になるそうです。大森北一丁目開発も、公用財産にも公共用財産にも該当せず、にぎわい目的で普通財産になってしまいました。跡地も「主に就業者を対象とした売店なども置きこんでいい」ことになっていますから、企業誘致スペースが10万㎡近くに広がり、その大半が商業スペースになってしまうのではないかと心配です。

一方で、地域住民が、10年を超える長い年月をかけて検討し、まちづくり条例に従って環境保全型地区計画を作ろうと申請しても、大田区職員が突然審査会の審議を仕切り、賛同者を募る段階ではないにもかかわらず、住民間での合意形成できていないと助成を退けます。

一方の羽田空港跡地は、国家戦略特区に区長自ら国にお願いしてまで、住民との都市計画の合意形成を省略してスタートさせています。大田区は、住民との合意形成をどう考え、誰のために動き、区民の税金は誰のために使われるのでしょう。

空港跡地やとネーミングがかわり蒲田と蒲田を結ぶ線路ですらなくなってしまった新空港線などは国・広域自治体が関わるべき問題で、大田区民が借金して利息を支払ってまで莫大な費用負担する必要があるでしょうか。

しかも、シティマネジメントの推計は消費税10%ですが、すでに先送りされましたので、さらに基金取り崩し額や区債発行額が増えることが見込まれます。

住民との合意なき都市マス変更と上乗せ実施計画で莫大な税負担
~崩れる大田区計画体系~

そのうえ、区長は都市計画マスタープランと整合性のとれない方針を2620万かけて策定し、区民に広報宣伝すると言っています。都市計画マスタープランは、議決が必要な「大田区基本構想」に即した形で策定し、必ず住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずることが法律により求められています。そのため、住民が参加する会議による検討を行ったり、住民説明会やアンケートを行ったりします。土地利用を規制、誘導したり、道路、公園などを整備したりする都市計画を定める方針で、インフラ整備で財政負担を伴いますし、人口や土地利用など自治体の在り方と大きくかかわるからです。

そのうえ、未来プランを変更するにはパブリックコメントが必要ですが、実施計画的位置付けできた未来プランは改訂せず、ここにきて突然「実施計画」を作っています。大田区の計画体系はいったいどうなってしまったのでしょうか。

インフラ整備は、税や消費に転嫁され、結局は私たち区民の負担となります。

そもそも、シティマネジメントレポートの推計は、人口がそこそこ増えて、景気も良くなるというあまい見通しの上に作られています。これもどうなるかわかりませんが、そのうえ、区民との合意形成もなく、都市づくりビジョンや実施計画を上乗せすれば、区民の負担が大きくなり、必要な社会保障にまわる財源はさらに厳しくなります。

いまの推計でも社会保障費は抑制していて、量的に不十分だと懸念されるのに、です。

住民自治否定、財政悪化、社会保障抑制の平成29年度大田区予算

この予算を認めることは、都市計画マスタープランを大田区民の合意形成なく変更することをみとめ、財政のさらなる悪化を認め、しかも区民に必要な社会保障費を大幅抑制することを認めるものです。

地方自治を否定し、住民の声を聴かない行政主導はゆるされません。量出制入(りょうしゅつせいにゅう)の原則からこれを認めることは、増税を容認することにもつながり、到底認めるわけにはいきません。

いま、確認したい特別区(大田区)の歴史

先日、区制70周年が行われました。

参加させていただき、あらためて、特別区の歴史を振り返る必要があるのではないかと強く感じました。

特別区長会のHPには、特別区の歴史として次のように記されています。

大田区が祝う区制誕生昭和22年3月は日本国憲法施行前

「昭和18年、戦時体制下において「東京都制」が敷かれました。それまでの東京府、東京市は廃止され、東京都が誕生しました。

終戦後、民主化政策により改正された都制のもとで、区の自治基盤を強化するため35区の再編が行われ、昭和22年3月に22区が発足しました。同年8月には、板橋区から練馬区が分離独立し、現在の23特別区となりました。昭和22年5月3日、日本国憲法とともに施行された地方自治法では、特別区は一般市と同格の自治体として出発しました。」

これをもって大田区は、区制70周年のお祝いをしているということのようですが、昭和22年3月というのは、日本国憲法施行前です。

戦後復興で、区長公選制廃止など東京都の内部団体化

確かに、大田区は、昭和22年3月15日に大森区と蒲田区の合併により誕生していますが、特別区協議会の調査研究部の「特別区制度戦後沿革資料」を見ますと、昭和27年に区長公選制は廃止や事務の制限列挙法定化で内部組織に近い性格の団体に変わり、その後、自治権拡充運動が始まります。そこには、強力な「基礎的な地方公共団体の存在は大都市経営(戦災復興などを阻害)」などという言葉もあり、当時の戦後復興の中でいったん23区は、東京都の内部団体に戻ってしまったのです。

特別区長会のHP、特別区の歴史はこう続きます。

その後の区民・関係者の粘り強い自治権拡充運動で平成12年基礎的自治体に

「その後、東京の巨大都市化に伴う行政の行詰まりや特別区の自治権拡充運動を背景に、順次都から区への権限移譲が行われ、昭和50年には、区長公選制の復活をはじめ、特別区を原則市並みとする改革が行われました。

多くの区民や都区政関係者の粘り強い自治権拡充運動が実を結び、平成12年4月1日から、特別区は東京都の内部団体から脱却して法律上の「基礎的な地方公共団体」として位置付けられ、今日に至っています。」

ですから、この平成12年4月1日改正地方自治法施行をもって一つの区切りとして、平成22年9月の「区政会館だより」は、特別区制度改革10周年記念特集を組み、特別区の自治権拡充運動について記しています。

都区制度改革は未完
~「大東京市の残像」都がこの地域の主体であるかのようにふるまう制度的可能性~

また、特別区の自治に関する「特別区制度調査会」は平成17年1月の「都区制度の改革新たに問われる平成12年改革」で「平成 12 年改革」は、都区制度の枠内での一つの到達点と評価した。しかし、都区間での協議が進まず、都と特別区の役割分担や住民への責任が明確になっていないことから、未完の状態である」と指摘しています。

第二次特別区制度調査会報告は、
「「平成12 年改革」は、依然として、東京大都市地域を一の市ととらえ、広域自治体である都がこの地域の主体であるかのように振る舞う制度的可能性を内包しており、それは「都の区」を特別区とする都区制度に内在する「大東京市の残像」であるといえる。」

とも評価しています。

自治権拡充の過渡期にある大田区

私が確認したかったのは、大田区は、特別区としての自治権拡充の過渡期にあるということです。

国民健康保険統一保険料はどうするのか、大都市事務として位置づけられ、東京都の財源で行われてきた児童相談所機能を大田区も担うなら、東京都に蓄積されたノウハウや、東京都との財調割合はどうするのか、といった問題を東京都からの支持を待ちきちんと東京都と協議できていないのも、内部団体化しているとみることはできないでしょうか。

それどころか、この未完の改革を全く逆の方向にもっていこうとする力を感じます。

住民自治にささえられた大田区に

都心部の豊かな財源は、国に、また、様々な利害関係者に「あて」にされることもあるでしょう。

しかし、物を買ったり、作ったり、誰かに頼んだりするのではなく、区民とともに作り上げる住民自治にささえられた大田区政となることを要望し、反対討論といたします。