大田区の決算書から見る【税金の負担は大きくなるばかりなのに暮らしやすくなった実感がない理由】

大田区報を読んでいると、良いことばかりで、世の中バラ色に見えます。
でも、子育ても、介護も、教育も不安はつきません。

子育て環境を整えるのも、老後のケアを支えるのも、義務教育を充実させるのも大田区の役割は大きいわけですが、そことの関係はどうなっているのでしょう。

大田区の財政状況と、区政の実態とのかい離をこんな風に考えてみました。

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第98号議案 平成27年度大田区一般会計歳入歳出決算

第99号議案平成27年度大田区国民健康保険事業特別会計歳入歳出決算

第100号議案平成27年度大田区後期高齢者医療特別会計歳入歳出決算

第101号議案 平成27年度大田区介護保険特別会計歳入歳出決算

のすべての議案の認定に反対の立場から討論いたします。

 

地方分権の自治体への影響は、はかり知れません。
475もの法律を一括で改正した地方分権一括法は、それまで国の機関委任事務だった多くの事務を自治事務とし、地方自治体の責任を大きくしました。

地方分権で行われた三位一体の改革では、国の地方交付税減らしとも言われていますが、大きくなった自治体の権限に伴い、

・国庫補助負担金改革

・税源移譲

・地方交付税の見直し

が行われ、財政的にも地方自治体に大きな影響を与えています。

地方分権前の自治体財政と地方分権以降の自治体財政は、果たして同様の指標で見ることが適当でしょうか。

特に、地方交付税の削減により大幅な減収が起きたことから、権限に見合った税財源の移譲が行われなかったという評価になっていますが、
・地方交付税交付金の交付団体と不交付団体
・影響額の大きかった保育における待機児の多く出た都市部と地方

では、その影響が大幅に異なっているにも関わらず、三位一体の改革の影響やその後の自治体財政に及ぼした影響についての評価が、十分に行われてきていないのではないでしょうか。

款別質疑で取り上げたように、三位一体の改革が大田区財政に与えた影響は、平成18年から19年の一年間だけで、税源移譲による特別区民税の定率化で、32億円の増収。一方、国庫補助負担金改革の影響で36億円の減収です。多くの交付団体はこれに加え、地方交付税交付金の削減もありますから、その影響額も計り知れません。

ところが、23区だけはなぜか、特別区交付金、財政調整割合を52%から55%へと大幅に増やしています。

この財政調整交付金割合の変更は、清掃の都区移管が行われた平成12年に44%から52%になって以来のことです。
三位一体の改革と同時に行われた、この特別区交付金割合変更の大田区への影響額は、平成18年19年の比較で76億円にも上ります。23区総額で450億円ですから、減収になったであろう、多くの交付団体や不交付団体と23区とではまったく別のことが起きていたと考えるべきです。

そして、55%になって以降23区を中心とした都市部で待機児童が大幅に増えたわけです。

私たちは大田区の財政評価にあたり、地方分権で自治事務化されたこと、平成19年以降、大田区の財政構造が大幅に変わったこと、同時に保育をはじめとした区民の行政需要中での社会保障需要も大きく変化をしてきたことを自覚し、それにふさわしい使い方をしているかという視点で点検しなければなりませんが、そうした視点でみれば平成19年以降、優先度の低いところに税金を投入してきたと評価しています。税源移譲が行われた19年直後の平成20年秋にリーマンショックが起こったため、三位一体の改革による影響額が見えにくくなくなってしまいましたが、私たちは増税と財調割合の増を忘れてはなりません。

しかも、国は国庫補助負担金を廃止すると言いながら、私(わたくし)立保育園の国庫補助負担への補助を続けたことから、大田区は、私(わたくし)立保育園で待機児を解消することを選んできています。

今回の款別質疑において、民営化前の区立認可保育園、民営化後の区立認可保育園、民営化後の私立認可保育園とのおおよその定員一人当たり運営経費の比較から、必ずしも私立認可保育園の運営経費が安くなったと言えないことが判明しています。

株式会社に委ねれば、その一部が直営ではあり得ない株主配当に流れるうえ、保育士など労働者の賃金が』下がります

それを押してでも得られるメリットの検証ができていないのは問題です。今すぐ検証し民営化を見直さないと税負担が増すだけでなく格差が広がり大変なことになります。

たとえば、
一般財源比率、自主財源比率といった指標があります。

三位一体の改革以降、国庫補助負担金が廃止され、自主財源である住民税が増税となったわけですから、自主財源額は増えるはずですが、増えなかったのはリーマンショックだけでなく、国や東京都の補助金だのみの事業を行ってきたことにも原因があるのではないでしょうか。

自主財源比率が減っていて財政運営上の制約となっていると大田区は指摘していますが、リーマンショックで景気の厳しい時に住民税負担が区民に重くのしかかったことも忘れてはなりません。

自ら制約のある補助金を選び、それをもって財政上の制約を理由に、保育園の待機児や特別養護老人ホーム、障がい者施策など、必要な社会保障需要を先送りする方便に使われたなら問題です。

しかも、都と区の特別な関係から依存財源として扱われている特別区交付金ですが、限りなく自主財源に近い財源です。

これは、昨年の決算特別委員会の答弁、

「自主財源の確保は大変重要。特別区の場合、一般の市町村では、本来自主財源である市町村民税法人分と固定資産税は、都が一旦賦課・徴収した上で特別区交付金として交付されるため、依存財源と位置づけられているが、特別区交付金は、23区の固有財源とされている点で、他の依存財源と性格が異なり、必ずしも国や都などに依存した財源とは捉えていない。仮に、特別区交付金を自主財源と仮定した場合、自主財源割合は、68.03%となりまして、政令指定都市の自主財源割合平均の56.69%よりも高くなっている。依存財源という表現に入れるのは必ずしも正しくない」
からもわかります。

平成27年度決算で、特別区交付金を加えた数値は66.7%で平成26年度決算に比べ少し低くなっていますが、昨年の政令指定都市との比較でみれば十分に自由度の高い財政状況です。

大田区は、社会保障需要は積み残しながら、区政70周年、空の日などのイベントに莫大な税金を投入し、蒲蒲線は、ボールペンを作って宣伝してでも実現させようとしています。これらの財源は、三位一体の改革で得た財源ではないでしょうか。蒲蒲線誘致の運動はむしろ埼玉県民がすべきだと思いますが、不公平な保育料、深刻な在宅ケアより優先すべき課題でしょうか。自主財源を使って広報すべきは羽田空港の飛行ルート変更の問題ではないでしょうか。

また、
経常収支比率と言う指標があります。
財政の硬直化を表す数値ですが、上下水道や消防など大都市事務を東京都にゆだねている大田区が、一般市と同じ指標で評価されるのは、どうかという視点に加え、地方分権と規制緩和で民営化が進んでいますから、経常費である人件費が削減され、当然、経常収支比率が改善されていなければなりません。

ところが、今年になってようやく80%を下がりましたが、これまでの指定管理者制度の採用含め、民営化や民間委託の効果が表れているとは到底言えない数値です。

そもそも、行政需要を満たすべき多くの課題は、人によるケアであり、教育です。私は、人を消費財ととらえ、コスト削減すべき、と言う経済論理を公共サービスの場に持ち込むべきでは無いと考えています。そうした意味では、人件費+物件費(委託+システム経費)が抑制されて初めて効率化が達成できたことになります。電算化する、システムを使う理由は、人が行っているより効率的になるからです。

大田区の場合、マイナンバーの政策利用もしないと言っていますから、システム化に期待するのは効率性・利便性でしょう。ところが、この人件費+物件費は増えるばかりです。人を減らすよりシステム経費の方が高くつくなら、莫大な費用をかけたシステム改修が効率的と言えるでしょうか。

しかも、財政課に聞いても、物件費の中の委託費がいくらになっているのか、すぐに数字が出てきません。これで決算の認定をと言われても何を評価しろと言うのでしょうか。職員を減らすことで効率的になったかどうかの検証すらしていない現状は民営化の評価にすら値しません。

地方分権とそれに伴う民営化で、これまで使ってきた自主財源比率、経常収支比率、人件費率など、財政評価の数値がほとんど意味をなさない状況になっています。

決算の数値が意味をなさないことを示すものに、民営化の手法の1つ、指定管理者制度の利用料金制があります。

利用料金制を採用していなければ、大田区の歳入に計上される利用料ですが、指定管理者制度の利用料金制を採用すると、歳入歳出から除外されます。

たとえば、平成26年度決算で特別養護老人ホームの利用料金44億円は大田区の歳入から外れてしまっています。27年度決算での利用料金は27億円になっていますが、17億円減ったわけでは無く、長寿園運営の特別養護老人ホームの一部が民営化されたから、その利用料からも除外されてしまったということです。

平成26年度一年間の指定管理者制度の利用料金の合計は、約63億円にものぼりました。

今年も同様に、指定管理者制度を採用する各施設について利用料を調査しようとしましたが、教えてくださる施設担当部署とそうでない部署とに分かれ比較ができませんでした。それだけ利用料金が大田区の歳入とは無関係になってしまっていることの表れで、部署の中には最初「開示請求せよ」というところもありました。

さらに問題だったのは、伊豆高原学園は利用料を知らせない協定になっていると聞いたことです。

これでは、指定管理者制度を採用する施設の利用料が適正かどうか区議会は判断することができないばかりでなく、大田区を運営するにあたり、区民にいくらのご負担をいただいているのか把握できなくなることを意味します。

伊豆高原学園という、区民の財産で、特定事業者が営利活動をすることになったということでしょう。こんな民営化をしていいのでしょうか。となれば、区民の財産で特定の誰かを儲けさせることを大田区が行うべきか、という問題にもつながり議論が必要です。

大田区の一般会計決算は、ほぼ毎年のように増え続けています。これは、区民に、「区税、都税、国税、利用料・使用料」で大田区のためにご負担いただいている総額で、区政を判断する重要な指標でもあります。

ところが、これまでの制度であれば、大田区の歳入としてきちんと把握出来てきたものが、ひとたび指定管理者制度や民営化になれば、見えなくなってしまいます。民営化されるということは、行政の管理からはなれ、市場化され、消費にかわるということで、財政処理がそれを明確に物語っています。

認可保育園の保育料は大田区の利用料ですが、認証保育所の保育料が歳入に入らないのは経済活動だということです。

仮に、認可保育園が指定管理者制度を採用し利用料金制をとってしまえば、大田区の歳入から除外されることになります。やるかやらないかは別に制度上は可能です。既に障害者施設、高齢者施設は採用しています。

平成27年度大田区一般会計歳入歳出決算は2573億円ですが、それ以外に、大田区民は、特別会計だけでなく、指定管理者制度における利用料金でおよその推計で65億円、認証保育所保育料で約1億円など、見えない負担を強いられています。

そしてその負担がより大きく見えにくくなっています。

費用対効果と言う言葉が使われるようになり、民営化がすすめられてきました。ところが、民営化が進んだら、費用負担の程度が見えなくなってきました。見えない負担を、私たちは評価することができるでしょうか。

国民負担率と言う言葉があります。

保育や介護や障害サービスが民営化で大田区の帳簿上歳入歳出から除外されていても、大田区民は負担しているのです。

民営化で利用料が大田区の歳入歳出決算表の外に出されれば、施設使用料や保育料が引き上げられても区民負担増は見えません。こうした財政上の数の操作は、区民に区民負担が見えにくくなるだけでなく、税金の使い方としても問題です。

物を買っても、箱物を作っても福祉費になりますから、福祉費が増加しても必ずしも受けられる福祉サービス供給量の増加につながるわけでもありません。

地方分権により社会保障の責任主体が大田区になったにもかかわらず、それにふさわしい使い方とは到底認められず認定することはできず反対といたします。