大田区の可燃ごみ収集を民間委託して心配な理由

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大田区は可燃ごみ収集を民間委託するための一般財団法人を設立する経費を補正予算計上しました。私は都市生活に欠かせないごみ収集を全面的に民間に任せることについて、次のような心配が解消されなかったため、反対しました。
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補正予算は不要不急のやむを得ない状況の変化に対応するというのが基本です。

また、首長の権限は、地方自治法に規定されていますし、自治体の長だからと言って何をしても良いわけではありません。議会制民主主義における、合意形成の在り方は、予算執行における妥当性や正当性にもつながる重要なポイントです。特に、合意形成において区民や区民の代表である議会への説明が重要であると大田区も議案質疑の際に答弁しています。

しかし、今回の補正予算に計上されている環境清掃714万1千円は、可燃ごみの委託のための仮称一般財団法人大田区環境公社の設立にかかわる経費ですが、
①なぜ当初予算に計上することができず補正予算で計上しているのか

②なぜ委託しなければならないのか、委託することのメリットは何かなどについて、

議案質疑しましたが、委員会審議を通じ明確な説明は得られませんでした。

質疑に対し大田区は、「2017年4月から委託を開始しなければならない」と答弁しましたが、それでは2016年度予算に計上できなかった説明にはなりません。

大田区は、2016年1月に株式会社大田まちづくり公社の定款を変更し資源循環に関する業務を追加しています。

たとえば、ここを受託先にしようと思っていたが、急きょ変更しなければならない事由が生じ、一般社団法人大田区環境公社を設立しなければならなくなったというなら、株式会社まちづくりではだめになって理由を説明すべきです。今回の理由は未だにわかっていませんが、質疑の答弁にすり替えがみられ説明になっておらず問題です。

大田区は一般財団法人大田区環境公社を「安定的サービス提供を確保できる組織」「高い能力を持った組織」であるとして、委託を正当化しようとしていますが、「これから設立する法人」が安定的サービスを提供できる組織であったり、高い能力を持った組織であったりするはずがありません。

委員会で配布された資料に記されている内容は大田区の希望に過ぎず、どうやってそうした能力を持たせるかのしくみこそが重要ですがここの説明はありません。

特に、都市生活におけるごみの問題は、生きていく上で欠かせない重大な問題です。区民の中には、「ごみを集めてもらうために税金を払っているのではないか」とごみと税負担を直結させる方もいます。

こうした状況で、今後、収集を民間に委託すると言えば、気になるのが収集料金と労務単価の問題、そしてガバナンスの問題です。

大田区は、委員会配布資料の中で、ごみ削減量5%に対してごみ処理経費を13%削減したことを効果として掲げていますが、考えてみれば、退職不補充ということですから、一番給与の高い収集職員がやめるかわりに、非正規職員を採用していますから、その給与差分経費削減できるのは当然です。

本来、議会に報告すべきは、削減したと言っている処理経費における収集、運搬などの内訳や車一台当たりの単価の変化と、委託による経費削減をどう見込んでいるのかでしょう。場合によっては、上がっている部分と下がっている部分があるかもしれず、大田区の清掃事業から収集現場の職員がいなくなるという重大な政策転換を説明するにはあまりにも不十分な説明です。

大田区は、委託ありきで職員不補充を続け、委託に誘導しながら、収集能力が不足するので委託と言いますが、それではなぜ退職不補充にしてきたかの説明にはなりません。

しかも、経費削減ができてきたにも関わらず、委託に切り替える理由は何かを議会に説明すべきです。

ライフラインと位置づけるべきごみ収集を公務労働が担ってきたのは理由があります。しかも、ごみは地域独占事業です。大田区がごみを集めないからと言って、区民は他区や自分で処理することはできません。なぜ官だったのかどうして民間でよいのか、を明確に位置付けずに安易に委託すれば、今後の委託費の高騰や収集体制の質の低下、現場労働者の低賃金化、将来のごみの民営化などにつながる恐れがありますが、これらの議論があまりにも不十分です。

区民生活におけるプライバシーの塊である可燃ごみを民間に提供しなければならない仕組みは、大丈夫でしょうか。資源を抜き去り対策防止のために大田区の物と条例で位置づけましたが、全面委託になるのなら、可燃ごみの位置づけを条例で明確に位置付けるべきだったのではないでしょうか。

一方、この可燃ごみの委託にかかわらず、委託の経費削減のほとんどは人件費差額によるものですが、下がった人件費の分区民に還元されている実感はありません。公務労働を経費削減のために非正規化、外部化し、結果として低賃金労働者を作ってきた是非についての検証も大田区はしていません。

委託先は、一般財団法人ですが、環境分野への事業展開を今から視野に入れて設立しています。公益財団法人ではないので、委託による利益が区民の行政需要に直結しない公益ですら無い分野に投入される可能性も否定できません。

ところが、清掃事業の委託は議決事項ではありませんから、議会での審議はこの財団の設立と委託費盛り込まれた当初予算ということになります。

外郭団体ができれば、大田区の税金が流れますが、外郭団体は、議会へは財務内容などの報告だけで議会の関与は薄くなります。しかも、大田区が報告する外郭団体と位置づければの話ですから、観光協会のように、税金は投入されても報告は義務づけない外郭団体になるかも知れません。

こうしたこともあわせて審議に際して議会に報告すべきですが、こんなに重大なことがA4一枚の表面だけの簡素な委員会報告ですまされてしまっています。

ごみというライフラインの1つとして位置付けられるべき重要な施策の委託という大きな大田区政の方向転換であるにもかかわらず、説明も不十分なだけでなく、そもそも委託にふさわしい事業ではないことから反対いたします。