大田区の校外学習施設:伊豆公園学園のPFI事業採用と指定管理者利用料金制の問題

伊豆公園学園の建て替えについては、「PFI」「指定管理者制度」など聞きなれない言葉を使っているうえ、学園利用、区民利用などの考え方もわかりにくいと思いますので、あらためてご報告します。

当初の報告はこちら↓
伊豆高原学園PFI事業に反対した理由

伊豆公園学園は、大田区の小学校の校外学習として活用している施設です。

現在、大田区の小学生は2泊3日で伊豆公園学園を活用した校外活動を行っています。

ちなみに、大田区には、他に同様の校外施設として
【休養村とうぶ】
土地は区所有。ただし所有地の中に一部借地(私有地)有り
【野辺山学園】
・土地は野辺山市から借地
2か所があります。

大田区の施設整備計画にも記されているように、今後、改修や改築の必要がある施設で、本来であれば、伊豆公園学園も含めた今後の大田区の小中学生の校外活動をどのように位置づけ、3つの施設をどうしていくのかを明確にすべきでした。
大田区では、結果として伊豆公園学園を残すこと、また、休養村とうぶの改築を行うことを明言しながら、野辺山学園を借地という理由だけで、更新を見送るかのような表現さえしています。

伊豆公園学園の改築や維持管理・運営の問題意識の背景には、こうした、議会での十分な議論のないままに、行政が定めた計画大田区施設整備計画:17ページ参照 )ありきで、事業が進められていくことや、そこには、区民にとっての必要性やコスト意識が不在なままであることもご報告しておきます。

今回の、伊豆公園学園のPFI事業において、大田区は、学校利用と区民利用の2つの利用形態に分けています。

これはどういうことかというと、伊豆公園学園は、校外施設として位置付けられているけれど、校外学習に使わない時期には、区民が「保養所」として利用できるようにしようというものです。

これまで、伊豆公園学園の通りを隔てて向かい側にあった「区民の保養所」として位置付けられてきた伊豆高原荘を大田区は、売却することにしています。(伊豆公園学園改築中は郊外施設の宿泊施設として活用するが、その後売却)
財政的にそこまでひっ迫しているならともかく、現状において、伊豆国立公園内の一等地に位置する伊豆高原荘を売却することに私は反対ですが、大田区として、伊豆公園学園における「区民利用」により、伊豆高原荘売却の「代わり」としているのでしょう。

ところが、大田区は、コストを「区民利用」に配分していますが、PFI事業により、コスト削減につながったという表現を大田区はしています。私は、この 「区民利用」への配分が、結果として「学校利用」のコストを小さくみせ、見かけ上のコスト削減になっていると考えています。

「区民利用」はあくまで、副次的な自主事業であり、伊豆公園学園は施設設置条例上明白なように、大田区の小中学校生徒の校外学習のために設置されている施設です。

学校利用していない時期に有効活用することは必要なことですが、そこに、あくまで施設維持管理費は、学校利用に計上すべきです。

私は「校外学習実質経費は旧15億/15年→新17億1000万/15年に増」と説明しています。

大田区は、校外学習に年間1億円程度かけていたので、15年にすると15億円程度ですが、これが、今回のPFI+指定管理者制度15年契約により、15年で12億6千万円と2億4千万円の経費削減となるような説明を区議会に対して行ってます。

ところが、大田区は、大田区が負担するこの施設維持管理費のうち、4億5千万円を、学校利用ではなく、自主事業である「区民利用」の部分に計上しているのです。

施設維持管理費内訳

4億5000万円の経費を区民利用として計上することは適当だったのでしょうか。

しかも、総額40億3,502万ですが、利用料金で見込まれている収入は11億9,188万円。
指定管理者制度において、利用料金制を採用すると、区民が支払う利用料は、直接事業者の収入とすることができますので、契約金額40億3502万円には、利用料金で見込まれている収入は計上されません。

利用料金制を採用しなければ、契約金額は、52億2690万円にも上ります。

こうした費用を並べると、自主事業を認め収益を得る機会を与えているにも関わらず、大田区として、伊豆高原学園の経営にはメリットがなく、逆に前より費用負担が大きくなっているように見えないでしょうか。

一般に、公的サービスが硬直化する原因として、私は以下の3点を考えています。

①「雇用の継続性、あるいは、不安定性が無いこと」
②「売上が保証されていること」
③「権限を持っていること」

逆に民間に活力があるとするならば、この3点がないことを補うための努力によるとも言えます。

ところが、伊豆公園学園の改築、維持管理については、民間を導入しながら、公的サービスが硬直化する要因をそのまま与えてしまっているところに問題があると感じています。

①「雇用の継続性、あるいは、不安定性が無いこと」

15年間というこれまで、大田区のどの施設にも採用してこなかった長期契約を締結していること。

②「売上が保証されていること」

学校利用の経費分担や、利用料金まで含めた場合の契約金額にみるように、経費削減が行われたという説明と、分析する実態が異なっています。

③「権限を持っていること」

しかも、指定管理者制度を採用していることにより、利用権限を民間事業者に与えています。
そして、この権限は、あくまで、区民に対する権限であり、事業者と大田区との関係で言えば、「契約」関係ではなく、「行政処分」と言って、圧倒的に大田区=行政に有利になっています。
結果として、行政権限は肥大化し、区民は、区民の財産でありながら、行政から権限を付与された民間に従い、施設を使用することになります。

税金という区民の莫大な財産を使い、民間事業者は経営リスクを回避することができますが、最終的なリスクを負うのは、税金を支払っている区民になるという構図が見えてはこないでしょうか。

 

一般に、PFIとは、民間の資金や経営ノウハウ・技術を活用して、公共施設建設や運営等を行おうというものです。
しかし、日本の民営化や民間活用は、結局は、ミニ行政(官)を作るだけで高コスト体質を変えることもできず、逆に市民の目から遠ざかるというデメリットが気になります。
大田区の事例も特別なことではなく、PFIの課題の現れと言えるでしょう。