「財政から見た地方分権」で原稿を書きました

投稿を依頼され、小泉構造改革以降の財政についての問題提起をさせていただきました。

民営化、規制緩和については、それなりに評価が出ているものの、地方分権は、その理念が「よさそう」に見えるため、課題分析が不十分なように思います。

地方自治体(基礎自治体)特に、東京23区財政からみた地方分権について、簡単にまとめてみました。

出来上がりましたら、ご紹介しますので、機会があれば、ご覧ください。今日は概要だけ。

 

===============================

 

国会が「地方分権の推進」を決議してから今年で30年になります。

決議や意見書には、
「東京への一極集中を排除」
「国民が待望するゆとりと豊かさを実感できる社会」
「成長優先の政策から生活重視の政策への転換」
「生活重視」
「生活に身近な地方公共団体の果たす役割への期待」
「地方自治の充実」

などの言葉がならびますから、住民自治の実現につながるように思えますが、大田区の事業や財政から地方分権をみると、決議や意見書とは違う側面が見えてきます。

故西尾勝東大名誉教授は、「地方分権改革は、この行革の一環として位置づけられたものでしかなかった。」と総括しています。

内閣総理大臣岸田文雄氏は、「小泉改革以降の規制緩和、構造改革の新自由主義的政策は・・・富める者と富まざる者の格差と分断を生んできた。」と小泉構造改革を批判しています。

地方分権は、小泉構造改革の一つとして進められてきたのです。

大田区は、羽田空港の跡地を165億円の土地をキャッシュで買いましたが、この財源は、都区財政調整制度における特別区交付金割合52%から55%(引き上げられた3%のうち2%が三位一体の影響分)に引き上げられた2007年に60億円、翌年2008年に80億円積み立てた財源をもとに買っています。

また、直接、地方分権でとは言われていませんが、2006年と2007年にわけ1/2ずつ定率減税が廃止になり、実質の増税が行われています。

2006年、2007年に定率減税廃止による実質増税、
2007年住民税定率化による中間所得層の実質増税と
2007年都区財政調整割合3%増による大田区の飛躍的増収

たとえば、2004年の大田区の特別区民税収は505億円ですが、2008年に695億円。
特別区交付金は、2004年に582億円でしたが、2008年には、リーマンショックで減っても690億円の税収がありました。リーマンショックの前年は、755億円にまで税収が増えています。

地方分権による国から地方への税源移譲や23区の特別区交付金割合の変更は、剰余金が生じ基金に多額の基金が積みあがるほどの財政状況を作ったということです。

しかも、こうした財源は大きくなった「権限」保育の自治事務化による国庫補助金の廃止などのためでしたが、保育の自治事務は公立保育園に限られたため、大田区は民営化を進め、区の負担は地方分権で増えたほどに増えませんでした。

この飛躍的に増えた税収を大田区は、条例改正して、基金に多額に貯めるようになります。

2021年度決算で大田区の基金は1267億円。
2003年決算の295億円と比べると972億円増、4.2倍です。

基金の積み立ては、大田区の財政が黒字だから行われているということです。
黒字になるということは、税金を取り過ぎているということです。

本来、作るインフラは、使う世代で等しく負担しましょう、という世代間の公平性という考え方で担われてきました。

公債というのは、家計であれば、借金でよくないイメージですが、転居したり亡くなったりする住民から、公平に税金を集めるために、公債(借金)をして、使っている世代で少しずつ返していくのは、きわめて合理的な考えです。

だから、公債は、国債並みの低金利で発行されています。

今のような、インフレ時には、低利で発行した公債で、少しづつ返した方が、住民負担も少なくて済みます。

ところが、
財政の指標には、税金の使いすぎ=赤字をマイナス評価する指標はありますが、税金の取り過ぎ=黒字を評価する指標がどこにも無いのです。

この間、自治体財政=公会計は、企業会計のような減価償却費という考え方が無いため、将来のコストを把握できないと批判されてきました。

そして、公会計に企業会計の考え方が入り込むようになってきたのです。

 

企業会計は、株主に「配当」という利益を提供するために作られていますから、黒字になるほど、純資産が増えれば増えるほど、良いこととして評価されます。

企業会計の売り上げは経済活動で稼ぎますが、公会計の収入は、私たちの税金です。

企業会計のコストは、仕入れや製造や人件費などですが、公会計のコストは、私たちの社会保障であり、住民福祉です。

企業は利益剰余金を株主に配当しますが、公会計で余った税金は、減税されるしくみにありません。
減税するには、条例や法律を変えなければならないのです。

余った税金を社会保障等に使うには、法律等を改正が必要です。
社会保障を良くするには、公費(税金)の負担割合をあげたり、保険料負担割合を下げたり、給付の水準をあげる、法的手続きが必要で、そのまま運用していると、税金は社会保障には、使われません。

条例を変えないのであれば、余った税金は、「住民福祉」という大義のために使われることになります。

だから大田区は、箱モノも開発も住民福祉と言っているのではないでしょうか。

だから、余った税金は、
箱ものに使われ、箱モノの数が増え、面積が増えます。

まちづくりという住民福祉のような名前で、開発が増えるのです。

大田区では、
10年前まで年平均61億円だった公共施設整備費が、
2021年の過去10年平均で年120億円と2倍近くに増えています。

しかも、昨年2022年3月に、今後40年の整備費を年135億円と見込んだばかりなのに、
つい先日、今後10年間、年210億円に大幅な増額の修正をしてきました。

61億円、120億円、135億円、210億円・・・

ここに、開発の予算は含まれません。

公園、橋梁、道路、、、、

まちや施設は立派になりますが、私たち個人は、その分、「貧しく」なってはいないでしょうか。

 

2010年にイギリスとオランダに2週間ほど滞在して実感したのが、

日本の税金で買う公共施設や物品は、最新の付加価値の装備されている工業製品なのに対し、

イギリスやオランダの公共施設や物品は、シンプルで最低限の機能を備えていて、自然の素材が多いと感じました

オランダのアムステルダムの駅近くの歩道の石畳が壊れたのでしょう。
作業員の方が、ぺたりと座り込み、一つ一つ抜き出して、並び替えているのが、印象的でした。

もう10年以上も前のことですから変わっているかもしれませんが、あの時、日本との違いを感じました。

地方分権で、
成長優先の政策から生活重視の政策への転換はできているでしょうか。
ゆとりと豊かさを実感できる社会になっているでしょうか。

そもそも、生活重視の政策やゆとりと豊かさを実感できる社会は、自治体で作ることができるのでしょうか。

 

企業会計の仕組みでの中で毎年公表されている自治体の純資産は、いったい誰のために使われているのか、いまこそ、検証すべき時だと思います。