2020年の人事委員会の勧告をうけた期末手当改定に見る、公務員、首長・議員等特別職の給与報酬はどうあるべきか

公務員や首長、議員などの特別職の給料や期末手当は、23区では人事委員会、国では人事院の勧告で決まります。
人事委員会や人事院は、民間の給与期末手当を調査し、官民格差を是正し、均衡させる勧告をします。

今年、23区の人事委員会は、給与と期末手当を分け、期末手当だけを0.05月引き下げる勧告を出しました。

その勧告に基づき、大田区では、職員と会計年度任用職員は0.05月、それ以外の区長、区議会議員、教育長など特別職は0.04月引き上げる議案を提案し、可決しました。

私は、職員と会計年度任用職員の引き下げに反対し、特別職の引き下げに賛成しました。

民間給与を公務員給与の比較対象として妥当としているのは、民間は労使交渉により決めているからだと言われていますが、一方で比較対象とされているのは、従業員数50人以上の正規職員で、小規模事業者や非正規雇用は対象外のため、国民の給与実態とのかい離は広がるばかりです。

行うべきは、官民に関わらず、雇用の安定であり、非正規雇用や不安定雇用の解消と格差の是正だと思います。
そして、このかい離を作っている政治の責任は重と思います。

以下、討論です。

結果として縮小する公務労働、賃金の引き下げ競争になっている官と民の構図の問題について討論しました。

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フェアな民主主義奈須りえです。

第119号議案 職員の給与に関する条例の一部を改正する条例

第120号議案 会計年度任用職員の給与及び費用弁償に関する条例の一部を改正する条例

について反対。

第117号議案大田区長の給料等に関する条例の一部を改正する条例

第118号議案 大田区監査委員の給与等に関する条例の一部を改正する条例

第121号議案 大田区教育委員会教育長の給与等に関する条例の一部を改正する条例

第122号議案 大田区議会議員の議員報酬、費用弁償及び期末手当に関する条例の一部を改正する条例

について賛成の立場から討論いたします。

これらの議案は、特別区人事委員会の、令和2年特別区職員の給与に関する報告及び勧告に従うもので、

職員、会計年度任用職員は、0.05月期末手当が引き下げになります。

職員ひとりあたりで約2万円全体で、約8千万円。会計年度任用職員全体で1117万3千円減ることになります。

職員も会計年度任用職員も同じ期末手当の月数0.05月減らされるので、そもそも、期末手当の支給月数の少ない会計年度任用職員の影響額は、職員に比べさらに大きいと思います。

 

一方、区長、副区長、教育長、常勤監査委員、議長、副議長、委員長、副委員長、議員

は、0.05月ではなく、0.04カ月引き下げ、

影響額は、それぞれ、

区長、 7万4千円

副区長、5万9千 円

教育長 5万3千円

常勤監査委員 4万円

議長     5万4千円

副議長    4万5千円

委員長    3万8千円

副委員長   3万7千円

議員     3万6千円

特別職全体で、214万2千円期末手当の支給額が減る、条例改正です。

 

公務員、特別職等の給与・報酬・費用弁償は、客観性を担保するため、民間に準拠し、一定の比較対象を定めて算定されてきました。

 

民間給与を公務員給与の比較対象として妥当としているのは、民間は労使交渉により決めているから、と聞いています。

 

このしくみは、戦後すぐに決まり、今日まで行われてきています。

 

今回の給与報酬の人事委員会の勧告に従い改定することには、大きく分けると、3つの問題があると考えています。

 

一つが、戦後、一貫して行われてきた給与報酬の改定の基本原則である、期末手当と給与の改定時期を今回初めて分けたことです。

 

本来、期末手当と給与は不可分の関係にあります。委員会での「期末手当は生計費が一時的にかさむ」という説明のとおり、給与の不足分を補う色合いを持っています。

給与報酬期末手当は年額で考えられてきましたし、一体で考えるべきで、官民格差是正において、これを分けて考えることの合理的な理由が見当たりません。

果たして、期末手当だけの改定が成り立つでしょうか。

 

また、これまで、特別区人事委員会は、訪問による丁寧な聞き取り調査を行ってきましたが、今回の調査はメールやファックスなど通信等の方法で行われています。

報告書は給与の調査が無いことから、例えば昨年で全体のページ数で81ページでしたが、今年は17ページで、昨年まで公表されてきた

・初任給の増額、減額などの状況

・ベースアップを行ったかどうか、

・定期昇給制度の有無や行ったか中止したか

・物価指数

などとも示されていません。

これら無しの期末手当月数だけの改定にどれほどの意味があるでしょうか。

大田区は、「労働環境や経済金融状況物価などの変化をどうとらえているか」「区民生活に影響しないか」という私の質疑に対し、一般状況を反映していると答弁しましたが、報告書ではこうした調査結果が公表されていないにも関らず、コロナで激変している社会・経済・金融状況を反映した勧告と言えるでしょうか。

人事委員会はまず給与調査をすべきだったと思います。

 

 

二つ目の問題は、この制度ができた時と、公務労働や社会の構造が大きく変わってしまっていて、今の民間から抽出した給与期末手当等実態と比較しても、公務員賃金の適否を判断できなくなっていることです。

ここ何年も指摘していますが、

民間の対象事業所が企業規模50人以上かつ事業所規模50人規模は、かつての100人から引き下げられたものの、たとえば製造業で従業員20人以下、商業サービス業で50人以下、全体の1/4を占める小規模事業者は対象外です。

大企業と中小企業の従業員の賃金格差は歴然としています。大田区のものづくりや商店街は、この小規模事業者が多く、大田区民の実態とはほど遠いところで、大田区の職員や区長、区議会議員など特別職の報酬が議論されていることになります。これでは区民の理解を得ることはできないでしょう。

 しかも、それだけでなく、労働者に占めるパート、アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託など、非正規雇用の割合が高くなってきているにも関らず、対象外です。

これらの多くは期末手当もないでしょう。

最新の今年2月に公表された2019年の非正規雇用の割合は38.3%。2015年が37.5%でしたから更に非正規雇用が増えています。

非正規雇用の平均賃金は、正規雇用の労働者に比べ3割から4割程度低くなっていますが、人事委員会は、労働者の61.7%を占める正規雇用の労働者の中でも規模の大きな事業所の給与と均衡させているのです。

民間給与との比較と言っても、第三者性というより、国民の雇用就労状況の実態を反映していない金額と比較しているところに問題があります。

非正規雇用の所得や雇用の改善を政治は行わなければなりません。

 しかも、公務労働を民営化により縮小させ大田区の職員数も減らしてきていて、人件費が安く不安定な雇用で民間企業に雇われている正規非正規の方たちが、公共サービスの担い手になっています。

それでは賃金が安くなっても社会保障などが整い安定した生活を行政が保証しているかと言えば、逆に社会保障は目減りするばかりです。

昨年の給与報酬の改定で、2014からの民間給与と特別給を職員給与特別給と比較したところ、給与は下がる一方で特別給月数が官民ともに増えていました。

職員の平均年齢が3歳若くなっているのでという見方もできますが、年功序列がうすれてきている民間と比較すれば、公務員給与は限りなく下がり続けるでしょう。

給与は退職金はじめ多くの算出の根拠になります。給与が下がり続け特別給月数を増あやしてきましたが、今年、その給与の算定をあとにし、特別給を先に下げてきたのは、重大な問題だと思います。

会計基準が変わりかつての日本型の「社員のための会社」から、ここ約20年で政治が外国投資家の投資を国内に呼び込むことを可能にして、会社は、「投資家のもの」に変わってきています。

その社員の給与と公務員給与を比較するしくみは、あらためるべきです。

一方の、区長、副区長、議員はじめ特別職の期末手当の改定は、人事委員会勧告に従うなら、0.05月とすべきですが、0.04と、減らす月数を職員より少なくしているのも問題です。

非正規雇用を拡大させてきたのも、民営化を推進し不安定雇用を増やしてきたのも、職員の定数削減に賛成してきたのも、政治の責任は重く、特別職は、その立場、役割から、引き下げを受け入れるべきと考え、賛成といたします。低賃金労働を放置している政治の責任と区民感情から言えば、もっと下げるべきだと思いますが。

最後の3つ目の理由は、区の社会経済金融状況に対する大田区の認識が甘く、対策を講じていないことです。

議案質疑で、この引き下げで労働環境や経済、金融状況、物価などの変化をどうとらえているか、区民生活に影響はないか、あるとしたら、その影響を防ぐために何をすべきか

に対し、一般状況を反映していると答弁していますが、それでは区民生活を守れません。

私は、いま、政策的にインフレ局面に入りつつあると見ています。

固定資産税評価額があがり、国有地の区民への地代評価も3年に一度、短期で急激に引き上げています。民間の新築マンションの価格も下がりません。

食品などはじわじわと上がっていますし、ステルスインフレと言って、価格は据え置き、質や量を下げる、実質値上げもみられます。

コロナで密をさけることを強要されていますから、店舗は客単価を引き上げざるを得ない状況で、外食単価も上がり始めています。

しかもコロナによる事業者の経営への打撃は無利子融資によりなんとか維持されていますが、今の大田区と国のコロナ対応を見れば、今後多くの廃業と倒産を招くのではないかと危機感を持っています。

人事院の方に問い合わせた時、先週の内閣委員会で、自民党の週銀議員が消費が冷え込むが引き下げて良いかと発言していたと聞きました。コロナ、インフレなど経済からいればまさにそういう状況になると思います。民間給与が下がっていることに問題があり、それを政治が抑止できないのに、この局面で公務員の特別給を下げなければならない官民均衡のしくみは間違っていると思います。

人事委員会勧告が、社会の実態に即さなくなっているにもかかわらず、機械的に下げざるを得ない中で、こうした社会、経済、金融状況を踏まえれば、安定した雇用を確保することこそが、今の大田区に最も求められていることだと思います。

大田区特別職報酬審議会でも

・議員については民意で選ばれた方々だが、その働き様、地域とのかかわり方に対して、地域では様々な意見がある。我々としてもしっかり評価していかなければいけない。

・月額の前提が無いまま先に期末手当だけ審議するのはどうか。こういうものはトータルで考えなければいけないのではないか。

・今回の勧告は、昨年悪くない時の民間の景況に影響されている。税収も落ちこむ懸念がある。来年はもっと厳しい状況となるであろう。そういうことも考えていかなければいけない。

・企業規模50人以上は、もっと小さな規模で比較しないと。勧告内容は甘い

などのご指摘を真摯に受け止めたいと思います。

そのうえで、行政改革・構造改革により、今の投資家利益を優遇する社会構造にかわって、これまでの人事委員会、国の人事院の勧告など公務員の給与の算定の在り方が、目的をかなえる指標ではなくなっていることを指摘し、日本の構造をあらためて構造改革すべきことを主張し、職員、会計年度任用職員の引き下げに反対、それ以外の特別職の引き下げに賛成といたします。