森友・加計学園の国家戦略特区は「ミニ独立政府」~国家戦略特区からサンドボックスまで~

がうす通信146号2017/8/20
森友・加計学園・国家戦略特区とは「ミニ独立政府」
                                    奈須りえ
森友学園・加計学園など、国家戦略特区の仕組みを使った意思決定に疑惑が生じています。総理の意向が働いたことが強く疑われていますが、メモが出てこない限りは、このままうやむやで終わるのでしょうか。
当時、部下から報告を受けたとされる前の文部科学次官 前川喜平氏はこの問題について「国政の私物化」と指摘しています。内閣総理大臣の私的関与が意思決定に大きくかかわるのは問題ですが、内閣総理大臣の意向一つで意思決定を左右する「国家戦略特区」の仕組みにこそ問題があることはあまり知られていません。
【特区の中はミニ独立政府】
国家戦略特区は、どこが特別かといえば、法令の意思決定が通常と異なります。
通常であれば、法律は国会、政省令は規制省庁が変えたり廃止したりすべきところですが、国家戦略特区の中では、内閣総理大臣や総理が指名する大臣、有識者と呼ばれるわずか10名程度の人たちで変えられるしくみです。
国家戦略特区のしくみを提案した人材派遣会社パソナの会長 竹中平蔵氏は国家戦略特区を「ミニ独立政府」と呼んでいます。
それではこの特区でいったい何をしようとしているのでしょうか。
【雇用・医療・教育を守る岩盤規制の既得権者は私たち】
竹中平蔵氏は、ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで「岩盤規制を破る突破口として特区を作る」と話しています。 
岩盤規制というと悪いもののように聞こえますが、国家戦略特区が対象としているのは、労働者の権利を守る雇用の法令や教育・医療制度を支える法令などです。これらは、私たちの生活を支えるうえで欠かせない重要な法令(規制)なので、簡単に変えることができず岩盤です。
ところが、こうした法例(規制)は、経済活動における投資家からみれば、新規参入を阻んだり、コストの負担を伴ったりするので邪魔な存在です。
雇用規制を突破すれば、人件費というコストは減りますが、私たちの雇用は不安定になり賃金は下がります。教育・医療などの規制を変えれば、企業のビジネスチャンスは広がるかもしれませんが、教育費・医療費の負担が上がるだけでなく、税負担が増える恐れがあります。
岩盤規制を突破すれば、投資家はコスト負担が減り、新たな投資機会を得て配当や内部留保を増やせますが、私たちは、守られてきた雇用や医療や教育の法令(規制)を失うので、無法地帯を自己責任で生きていかなければなりません。
既得権者は私たちだったということです。
【特区で効果があれば、一年後には全国の制度に】
特区では、試験的に導入して効果があれば、原則一年後には全国に適用されます。効果がないことの立証責任は各省庁にありますが、わずか1年後に効果のないことを立証するのは困難です。特区でおきていることを遠い街のことだと思っていると、一年後にはわが身に降りかかってくる非常に恐ろしいしくみです。
ところが、国は、さらにこの規制緩和のスピードを早めようとしています。
それが、先日の国会で可決した国家戦略特区法の改正で導入されることが決まった「日本版レギュラトリー・サンドボックス制度」です。
竹中平蔵氏がミニ独立政府と呼び、内閣総理大臣が国政の私物化と呼ばれるようなことを可能にした国家戦略特区ですが、法規制からのがれたい経営者から見れば「特区」ですら「『行動の実証』に時間・場所の限定など多くの制約があり、関係機関との事前調整に煩雑な手続きを要する」といった批判の対象になっています。
「日本版レギュラトリー・サンドボックス」で、技術革新の進展のための実験なら、安全を確保したうえで、事業者の要望に沿って事前規制や手続きを抜本的に見直すことを可能にしようとしています。
サンドボックスとはIT用語で、「コンピュータシステム保護のために特定のプログラムを特定領域のみで動作させることにより、その外への領域への影響を最小限に抑えよう」という環境のことを指します。
国家戦略特区では、事業者や行政が提案したら、それを国家戦略特別区諮問会議が事業認定し、計画を定めると言った手続きをとりますが、サンドボックスでは「安全性を確保した実験なら」事業者の要望で規制や手続きを見直せるということです。
政府は特区が設置されている10地域をサンドボックスとして指定しようとしています。(*図1)詳細は3月までに検討だそうですが、サンドボックスができれば、法令の改廃権は、完全に事業者にゆだねられる仕組みができると思います。

 

サンドボックスの中で、規制(法令)の改廃を求め実証実験していくのはどの事業者でしょうか。投資家などは経済的利益を得られる可能性が拡大する一方、法令が廃止されたり変えられたりすれば、当初の法の目的を失うため、安全面や国民・市民の権利が縮小するなどの弊害も予想されます。
 いずれにしても、一つ一つの法令を検証して改正するのではなく、事業者の利益のために、事業者がお手盛りで法令(規制)を変えたりなくしたりすることを許す状況はすでに民主国家とは言えないのではないでしょうか。
 
 
【自動走行車・ドローンの実証実験を可能に】
たとえば、羽田空港周辺は、ドローンと自動走行の実証実験のために事業者に法改正を自由にゆだねるサンドボックスに指定されています。ドローンというと、小さなリモコン飛行機のようなものを想像しますが、ドローンの始まりは、軍事利用で、アフガニスタン戦争やイラク戦争では実際に爆撃に使用されていて、小型飛行機並みの大きさの方が多いと指摘されています。
開発にも製作にも巨額の費用が掛かっているドローンですが、羽田空港周辺は実験だからと飛行を許して、軍需産業を振興させる目的ではないか、という心配もあります。
 見えないところで、主権が投資家に移っていく状況を止める民主主義が必要です。
 
サンドボックスが目指す規制の緩和(*図2)
自動走行・ドローンの実証実験を可能に・外国人就労者の入国審査要件の緩和・公共施設を運営する民間事業者のまた貸し可能に・保育士試験実施主体を株式会社などへ拡大・国・自治体が在宅勤務拡大のための支援を可能に