国家戦略特区について調べていて、韓国で同様の特区政策をとっていることを知りました。そこで、日本より一足先に二国間の自由貿易協定「韓米FTA」を発効している韓国に行き、その制度や影響について勉強してきました。
韓国の特区と日本の特区は、違うところもありますが、目的や、運用の仕方に非常に似ているところがあるうえ、政府の進め方にも共通するところが、ありました。
区域を限定して、国会ではないところ(総理や大臣ほか)に規制の改廃権=法令を変える権限を与えて、外国人のためにという名目で法令を変え、外国投資家に利益をもたらすところは共通しています。今回韓国で調査したのは医療ですが、韓国では水道教育も対象になっているそうですが、それも日本と同じです。
以下、受けた説明とどこが似ているか、合わせて報告したいと思います。

 

 
黒字部分は保健医療団体連合政策委員長 ウ・ソッキュン医師の説明。
青字は奈須。
韓米FTAは、韓国における特区「経済自由区域」の根拠法である「新自由経済貿易法」が制定された時から交渉が始まり、2012年に発効しています。

私は、日本において、特区は、自由貿易協定の国内法整備と位置付けてきましたが、韓国においても、自由経済区域法と韓米FTA は同時期に始まっており、この二つを関連付けてとらえています。
また、韓国では、韓米FTAにTPPと同じ未来留保と現在留保という二つの留保条項があることに注目し、これら二つの条項と特区とを次のように関連付けています。
未来留保条項:政府が規制改廃の権限を持つ
現在留保条項:規制緩和されると、あと戻りすることができない
アメリカも韓国も、自由貿易協定において、保険・教育・環境など重要な部分は全部未来留保条項に入っています。例えば国家産業・原子力も未来留保条項で、政府が規制の改廃の権限をもっています。

政府が権限を持っていると言っても限界があるというのです。
たとえば、韓米FTAにおいて保険医療の分野は韓国政府が定めます。
しかし、経済自由区域法・そして済州(チェジュ)自治法による地域において、薬局・病院については例外ということで、韓国政府が自由に定めることができなくなります。済州島、自由貿易区域に投資家が病院を設立し、韓国政権が変わって営利病院は必要ないと決めたとしても、ラチェット条項に抵触し、行った規制緩和を戻すことはできません。
こうした背景で韓国は、2007年に“経済自由区域法”が制定されました。
この経済自由区域法は特別法なので他の法に優先されます。経済自由区域特別法では、特区を定め、その地域では『教育・医療・環境・労働権』その他、様々な規制が例外とされました。
経済自由区域では、大統領や長官(日本の大臣にあたる)が単独で国会の許可を得る必要なく行政の告示によって地域を定め、規制することができます。韓国では、2006年以降、立法関連の問題について行政命令で定めるという形が強まっています。
日本の国家戦略特区も、国家戦略特別区諮問会議や区域会議、ワーキンググループなど、内閣総理大臣と一部の大臣、そして民間有識者が規制の改廃権限を持つ仕組みで、立法権が内閣府に移った形になっていて、似ています。
海外投資誘致を目的に、仁川・釜山・光陽の3箇所を特区としました。同時期に済州島特別自治法が制定されています。
経済特別区域法は、海外投資の誘致、済州特別自治法は済州を自治区域とすること、二つの法の内容はほぼ同じで、海外投資を呼ぶことを目的に制定されています。
経済特別自由区域は、現在仁川・釜山・光陽。当初は、そこに、外国人のための教育機関・外国人のための医療機関を外国人が100%投資する条件で許可しています。
また、韓国へ投資する企業の駐在員のための施設という説明で、外国人の医者が外国人を対象に治療すると説明されましたが、これは口実に過ぎず、その後5回に渡って改正されました。2007年というのはノムヒョン政権のときですが、その後のイ・ミョンバク政権では区域を6箇所に広げ、パククネ政権で2箇所増やし、全部で8箇所になっています。
特区は、ソウルを除外したすべてのドウに設置されました。広域市では、仁川・大邱・釜山市が含まれています。
当初は外国人対象、資本100%だったのが、パククネのときの最終改正で資本は50%で良いことになり、医師も10%が外国人であればよくなり、診療対象は外国人であれ、内国人であれ関係なくなりました。
構造改革特区では、地方分権だから地方に元の法の趣旨の範囲内で裁量権を与えよう、といった説明で始まりましたが、総合特区(東京都ではアジアヘッドクオーター特区)では、日本に来る外国人のためのということで、投資を呼び込む際の税財政優遇措置を始めます。
実際には、期待した雇用は生まれず、来ない外国人のためにと作られるインフラそのものが投資対象になり、そこに莫大な税金が投資家利益のために使われることになっています。
区域内に投資を呼び込み、そこで産み出された材は、海外へ売られていくというのが経済特別区の考え方ですが、特区の中で産み出されるサービスや財を買うのは、日本国内の住民と日本の政府や自治体(税金)です。
呼び込んだ投資により投資利益が国内に落ちるのではなく、特区が、呼び込んだ投資家のために、私たちが利益を提供する場になっているのです。
これも、同様のことが韓国でおきています。
韓国では、病院は、非営利病院でなければ設立の許可が下りませんが、特区では、医療法の例外措置により営利法人であっても設立できるようになりました。当初は、外国人相手に外国人なら金儲けしてよいという大義名分が、2017年、内国人に対象に金を儲けても良いとなってしまいました。済州島の自治法もほとんど同じ経緯を遂げ、韓国において3つの広域市を含めた10の医療病院が許可されています。
 
民営化は、大体3つの段階を踏みます。
第一段階が国家機関産業。
第二段階がネットワーク産業。電気水道鉄道。
第三段階が教育医療。
大体の国においてこの三段階を踏んで民営化が進んだと見て差し支えありません。
おして、韓国で、最後に残っている三段階が教育・医療です。韓国の場合1997年のIMF支援から2002年にかけて1段階の民営化が進み、2段階部分の1部が民営化されました。三段階を経済自由貿易法・FTAによって進めようとしています。
これも、日本と似ている部分があります。
どこまでを民営化すべきかは、その国のしくみや状況により異なりますが、水道、教育、医療という、公的分野の砦と言ってよい部分の民営化(営利化=株式会社化)がいま行われているところだと言っていいと思います。
これまでも、水道や教育や医療分野において、株式会社が担ってきている部分は少なくありません。しかし、サービス提供における、質や量などの意思決定は議会制民主主義の中で行われ、あるいは、非営利セクターが行ってきています。その結果、水道料金、医療費負担、教育費負担は、それでも一定程度の負担の歯止めになってきたという背景があります。
ここが営利化されるとどうなるか。
いま、私たちは、誰もが生きていくうえで欠かせない分野の意思決定(ガバナンス)を誰にゆだねるのか、という岐路に立たされていると言ってよいのではないでしょうか。
すべての民営化(営利化)が、外国の強要・圧力によって行われるわけではなく国内の政治によっても進むことがあります。韓国でもIMFが強要しましたけれど、当時の韓国政府がそれに応じもしました。
 
 
 それでは、全世界的に広がっている民営化・福祉削減・小さい政府という新自由主義による教育医療の産業化を防ぐことはできないのでしょうか。
 韓国政府は、教育・医療の営利化は、大変敏感な問題なので全国的に対応するのではなく地域的に扱う。それが韓国として経済自由区域として現れ、医療の分野で民営化が進められました。
なぜ特区という手法を使ったのか、という点で、ウソッキュン医師は地域の問題として取り上げることで、目立たないようにという指摘だと思います。
私も、各法律を国会で法改正すれば目立つから、特区でお試して行える意思決定の問題を指摘してきました。議会や官僚と言った政治に対する不信は根強いものがありますが、特区でそこの意思決定を逃れようとしたという現実から、私たちは、意思決定を議会や官僚機構に与えることの意義についてあらためて考える必要があると思います。
確かに、議会や官僚機構が十分に機能していない、改善すべき部分は多くありますが、その努力をせず、特区で決めれば、さらに悪くなるということです。
国家戦略特区を提案した竹中平蔵氏がミニ独立政府と名付けていることから、特区で何をしようとしているか考えるとこれほど恐ろしいことはありません。
 
 教育において外国人学校の設置に大きな抵抗はなかった。言葉は外国学校といっても実際は、内国人が通う学費の高い学校が全国の経済自由地域に創られたが、医療は抵抗運動が大変強かった。悔しいけれど2年前に一箇所だけ北京の国営企業が済州島に営利病院を設置することを許した。ところが、THAAD(サード:高高度ミサイル迎撃システム)のレーダーを韓国に設置することに対し中国が猛反発し投資せず、実際は1つもない状態。
 ほかにも、多くの営利病院設置の動きがありましたが、市民社会団体・労働組合・地域住民団体が強い連帯機構を作り、韓米FTA反対運動、アメリカBSE牛肉反対闘争と韓米FTAや医療民営化反対を結び付けたそうです。地域住民に対する学習も数多く行ったそうです。
韓国で株式会社立の病院設置の動きがあるたびに、市民と労働組合とが連帯して、学習会を行い、反対運動を行ってきたことで、今も営利病院は一つもない状況だそうです。
日本で、いま、株式会社立病院設置の動きがあったら、市民はどう反応するでしょうか。
韓国では、非営利分野の営利化が問題だということを10年かけて伝えていったそうです。

国家戦略特区で話題になっている加計学園、森友学園は、まさに、医療教育の分野で起きている問題です。
民営化ではなく、営利化という言葉で、もういちど、教育・医療などの問題について、あらためて考える時期にきていると思いました。