保育園を迷惑施設にしたのは誰ですか」大田区の保育園建設に関る近隣住民の陳情から奈須りえはこう考える

保育園建設について相談を受けることがあります。
大田区議会第二回定例会においても、保育園建設に係る陳情が出され審議、その結果不採択になっています。
待機児童が深刻なため、時に住民が我慢すべきといった論調で取り上げられることもあるこの保育園建設、なかでも住宅地に建設される保育園について、奈須りえは以下の理由から、陳情は採択すべきと考えました。

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この陳情は、静穏な第一週低層住居地域内に建設予定の認可保育園建設に際し、安全や環境対策など7つの要望を求めています。

これに対しておおむね大田区は要望に応える姿勢であることを確認しています。

であれは、この陳情を採択することで、大田区の住民との約束を確実に履行できるようにすべきです。

そもそも、行政が責任をもって整備してきた認可保育所ですが、行政改革で民間委託が始まり、三位一体の改革で保育が自治事務化されて、国から基礎自治体である大田区の責任になりました。
そのうえ、国は、民間事業者へ補助金を支給することで、公立保育園ではなく民間事業者での待機児対策へ誘導してきました。

こうした制度の変化とほぼ同時に、雇用の流動化や経済状況の悪化に伴う所得の低下と、年金・医療・教育といった社会保障などの希薄化で、男性も女性も働かなければ暮らしを維持できない時代に入り、保育園入園希望者が増えてきています。これらは、言ってみれば、経済・雇用・社会保障政策が招いた結果であり、保育園の需要の増加は政治が作り上げてきたものと言っていいと思います。

そのうえ、本来であれば、減っていた人口ですが、税制や金融による優遇策や再開発などにより、マンションや戸建て住宅建設で、都心部への人口流入が続いています。結果として、人・物・金が、東京に一極集中し、人口減少社会における東京の右肩上がりが作られてきました。

女性の社会進出を促したのは政治による政策が理由ですし、待機児が特に、東京や政令市など、特に都市部に現れる原因を作ったのも政治です。

にもかかわらず、行政による計画的な保育園建設をせず、民間事業者任せの待機児対策を選んできたのも政治が招いた結果です。

今回の陳情は、必要な待機児対策のための認可保育園建設を、周辺住民が反対する構図ですが、そもそも、都市に暮らすうえで必要な住まい・学校・公園・道路・上下水道・鉄道、そしてこの保育園など、社会基盤を計画的に配置することをしてこなかった政治にこそ、その責任がある問題です。

保育園建設に適当な土地がないからと住宅地での保育園建設を余儀なくされるケースが増えていますが、園庭不要の規制緩和を行っているため、敷地いっぱいに建設された保育園は隣地との距離が近くなりますし、公園などへのお散歩は必要ですが、園庭の無い分、その頻度は高くなりますから、お散歩の経路の安全性や周辺住民の生活との調整は必要になる場合もでてきます。

民間事業者の保育分野への参入は、速やかな保育園定員の増加を可能にすると大田区は説明しています。
しかし、そうした速やかな対応を可能にするための施策は、営利目的の事業者からみれば、規制緩和で事業者にとってのコストを削減できるようにしてきた、という風にもとらえることができます。事業者から見れば、園庭の不要な保育園は、より少ない初期投資費用で新規参入できたという見方もできるわけです

園庭、保育士の資格や配置、公園が園庭の代りどころか、公園に保育園を作っていいというまでになっています。しかし、こうした規制緩和の弊害は、今日の陳情もそうですが、保育園の利用者や周辺住民や区民などが、保育環境の悪化や、住宅環境への影響、低賃金の保育士、税金の株主配当への流出などという形で負担しています。

住宅地に保育園建設は、待機児対策のため仕方がないとされていますが、別の角度から見ると、この間、事業者は一貫してコストを引き下げ、その弊害やリスクが、区民に転嫁される構図が浮かび上がってきます。

あるいみ、大田区も国の施策の影響を被っている被害者的立場にありますが、それでは、まったく何もすることが出来なかったのかといえば、大田区が待機児童対策を最優先課題の一つとして行ってこなかった、反省すべき点も多々あります。

大森北一丁目開発の土地を民間事業者に50年の待機借地権で貸し出しをはじめ、土地が無いと言われてきましたが、土地はあっても民間に貸し付け、駅前であれば、様々な人たちの選択肢となりうる保育園を作ることが出来たかもしれませんが、取り組みませんでした。

いま、学校施設の複合化に大田区は積極的に取り組んでいますが、仮に複合化が可能であれば、保育園を複合化することこそが、最もふさわしい施設なのではないでしょうか。

そもそも、区立幼稚園廃園の時に、保育園でなくても、せめて認定子ども園という選択肢もあったはずですが、行ってきませんでした。

老人いこいの家も文化センターも児童館も条例上設置されている施設でありながら、この先どうなるか不透明ですが、こうして住民間の問題が生じるなら、保育園への転用こそまず検討してもいいのではないでしょうか。

こうした、前提での大田区の姿勢を指摘するとともに、今回のような事例においては、まずは、保育園新設における、土地の取得や周辺住民への説明の順番をかえ、公立保育園の建設同様の手順ですすめるべきで、大田区もそのように取り組むと言っていますので、改善を求めます。

そのうえで、進められてきた民営化の弊害にいまこそ向き合い、児童福祉に営利目的は馴染まないという姿勢にたって、区民のためのあるべき保育へと改善するべきであると主張し、採択といたします。