羽田空港飛行ルート変更で都心低空飛行が始まれば、その下のビルやタワーの高さ制限をかけなければなりません。

財産権の制限に係る重要な問題なので、国もパブリックコメントだけでなく、公聴会も開催し、広く国民の意見を聴く機会を設けています。

今回の制限水面の改正の、奈須りえの意見です。


大田区に住んでおります奈須りえです。

本日は、羽田空港の立地自治体の住民として、また、全体の奉仕者である地元選出区議会議員として、2020年3月29日からの羽田空港における新飛行経路の運用の開始・国際線の増便に向けて、制限表面(円錐表面及び外側水平表面)の変更につきまして、反対の立場から、意見を申し述べさせていただきます。

いま、羽田空港を離発着する飛行機は、原則内陸を飛んでいません。

これは、たまたま、そうなっているわけではなく、長い歴史的な経緯の中で、大田区民をはじめとした、多くの住民の運動により、勝ち取ってきた結果として飛んでいないのです。

空港のあるまちにくらす大田区民は、戦前、戦後を通じ、長い間、騒音や排気ガスや安全確保の問題に悩まされてきました。戦前には、航空機同士の衝突事故により、多くの方たちが亡くなる痛ましい事故も起きていますし、敗戦後、GHQが羽田空港とその周辺を接収したことにより、「48時間強制退去」と言って、多くの住民がほとんど着の身着のままで家を追われる、つらい経験もしています。

高度経済成長期に、航空機の大型化により騒音や大気汚染の影響がさらに大きくなり、多く住民が声をあげ、その声に後押しされる形で1973年10月9日大田区議会は、

「航空運輸事業の公共性のみを重視し、地域住民の生活環境を無視した当局の、この計画には絶対反対するものである。現状において、区民生活の安全と快適な生活環境が確保されない限り、当区議会は、東京国際空港の撤去を要求する。」

という羽田空港撤去の決議を行いました。

この空港撤去の決議が後押しとなり大きな住民運動により、羽田空港は沖に移転しました。

当時の運輸省、現在の国土交通省は、羽田空港の沖合移転の際、住民に配った1986年3月作成のパンフレット「羽田空港沖合展開のあらまし」の中に「海から入り海に出るという運用方式を100パーセント採用することにより騒音問題を抜本的に解消することができます。
羽田空港の沖合展開は、いわば音の沖合移転ともいえます」

と書いて、沖合移転という莫大な公共事業が住民の騒音問題を解決するためだということを自ら積極的に説明しています。

長い歴史的経緯を経て、今の海から入って海へ出るという飛行方法は、この沖合移転の時に勝ち取った住民運動の証なのです。

その後の第四滑走路完成後の運用についても、国と大田区が取り交わした覚書に基づき、単に「海から入って海へ出る」離着陸方法で大田区上空を飛ばないだけでなく、使用する滑走路をできる限り、羽田など住宅地域から遠いCD滑走路を使うよう配慮したり、離発着の向きを考えて設定されています。しかも、この覚書には、変更しようとする場合、大田区と協議することまで定められています。

こうやって国交省は、空港立地自治体である大田区と大田区民の意見を尊重してきているのです。

ところが、今回の飛行ルート変更は、丁寧な説明という言葉を繰り返しながら、住民の声も大田区の声もほとんど聴きません。

8月8日の記者会見で国交大臣が「2020年3月29日の夏ダイヤから新飛行経路と増便の手続きを進めていく」と言ったことで、増便が決まったかのような報道が広がりました。これまで十分な説明も報道も無かったのに、この国交大臣の記者会見と、そのころ電車や新聞に流れた広告で知ったと同時に、決まったのか、とあきらめのムードさえ漂ってきています。

しかし、決まっていないのは、今日締め切りのパブリックコメントとこの公聴会からも明らかです。

横田の空域の報道もそうですが、手続きの順番をかえ、マスコミを使い、世論を誘導したことは、公僕、全体の奉仕者である行政として決して行ってはならないことだと思いますし、執行者である行政が税金を使って自ら進めたい施策の宣伝を始めることは、独裁に近くなっているようで、怖くなります。

しかも、国交省は大田区との覚書の協議も、この8月8日の曖昧な決まった報道のあとに行うと言いました。決まった後行う協議にどれほどの意味があるのでしょう。

住民、国民の意思の反映なく、大臣が独断で決め、地方自治の侵害をしています。
しかも、透明性と説明責任を果たさず住民を圧倒的な情報不足の中で国がどんどんと進めています。

騒音影響や落下物、安全性確保のための具体的な方策は、今もって示されいません。合意が取れた、と国がいう各自治体の意見にも安全や騒音対策、国と自治体との協議連絡方法の構築などの要望が並んでいます。課題を積み残したままの見切り発進であることは、明らかです。

空港に隣接する大田区の騒音の数値さえ出していない国が、大田区民にパブリックコメントや公聴会を行い、意見を聴く状況にはありません。

しかも、国は、さらなる飛行ルートの変更について記者会見で「白紙」と答えています。第五滑走路の報道もあり、最終的な航空行政の在り方すら知らされていなくて、私たちは、その場しのぎの約束で小出しに権利を奪われていきます。

今回「海から入って海へでる」を失った後の国との覚書も無く、どんな案だとしても、それが、どうなるのか明らかにされていないので不安で賛成などできません。

今回、行おうとしている制限表面の変更で、現在制限がかかっている部分に加え、目黒区、渋谷区、港区、千代田区、新宿区などの一部が新たに円錐表面(黄色部分)に、渋谷区、新宿区、文京区、豊島区、北区、板橋区、練馬区、中野区、杉並区の一部が、外側水平表面(青色部分)に指定され、高度制限がかかります。

高度利用できるできないは、経済的な利益に直結する問題なので、規制を取り払ってほしいと地権者は望みますが、一方で航空機の運航に係る安全は守らなければなりません。

これまでも、大田区は、空港に近いため厳しい高さの制限をかけられてきました。羽田空港の第四滑走路ができた際平成18年12月の告示で、標点が約1キロ程度沖合方向に動き、それにより、蒲田の西口に100m弱の高層ビルが建ちました。
大田区は空港に近いので、規制が厳しくて、高層ビルが建たないことが議会で議論になります。

今回新たに規制がかかる地域には、高層ビルも多く、現在円錐表面の端の渋谷区で239mですが、その外側に、円錐表面を広げ外側水面表面を広げれば、その区域には、東京都庁をはじめ高層ビルが並びます。

特に、今回、気になるのが、新たにA、C、滑走路の着陸経路を設定しているにも関わらず、より厳しい高さ規制である「進入表面」「延長侵入表面」を設けていないことです。

航空法第49条には進入表面、同第56条3には延長侵入表面における既存の物件について、その権原を所有する者に対し、政令で除去を求めその損失を補償するとされています。

本来、航空機が頻繁に着陸する経路の下の構造物は、航空機の安全確保の点からも、また、下で生活する者の安全と環境の確保の観点からも、厳しい規制をかけるべきです。

ところが、BD東からの着陸経路とAC南からの着陸経路は、海の上がほとんどですが「進入表面」「延長侵入表面」の規制がかけられているのに、密集し、多くの高層ビルが建つ、AC滑走路北からの着陸経路に規制をかけず、円錐表面、外側水面表面の規制のみです。

そこで気になるのが、この間、騒音対策として、降下角度を通常の三度から三・五度に引き上げる方針です。

角度を変えると騒音は1デシベル軽減されると言われていますが、航空評論家で元日本航空機長の杉江弘氏は、角度が〇・五度上がると「操縦席からの外の見え方は別世界」「世界のパイロットは経験しておらず、羽田は世界で最も着陸が難しい空港になり、尻もち事故などが多発しかねない」と警告しています。

仮にこの角度の引き上げが、進入表面、延長侵入表面の引き上げになり、A滑走路C滑走路着陸時の進入表面、延長侵入表面を作らず、結果として、飛行経路下に高層の建築を許すなら、着陸時における安全はさらに低下するため、問題です。

しかも、法は、延長侵入表面における既存の高層ビルを除去させ、その権利者へ損失を補償することを求めています。補償を逃れ、あるいは、今後の開発を制限することをさけるため、今回進入表面、延長侵入表面の規制をかけないなら、さらに問題です。

成田空港の制限表面が、標点から360度円を描くように高さの制限がかかっているにもかかわらず、それに比べ、羽田空港は一部欠けているのは、おかしな話です。

私は、そもそも、守るべき安全や環境より、経済利益を優先することや、増便と内陸飛行には反対ですが、安全確保のため、飛行経路下の建築の規制さえ、十分に行うことができず、新飛行ルートでの飛行を始めようとしていることは、危険極まりなく、到底認められるものではありません。

法は、国交大臣に空港の附近の土地の所有者その他の利害関係を有する者の利益を著しく害することとならないように配慮しなければならない。と定めています。確かに、新飛行経路上には多くの高層ビルが建ち並びますから、そこに制限をかければ、土地の所有者その他の利害関係を有する者の利益を著しく害することになるでしょう。

しかし、今回の高度に規制をかけないことは、3.5度の危険な着陸を許すことになり、主権者である国民の安全を脅かすことになります。

このことは、いかに新飛行ルートが、国民の安全と環境を大切にせず犠牲にしているか、国民の権利を犠牲にしてまで行う無理な飛行ルート案で行うべきではないことを、明確に示しています。

経済政策と言っても、投資家のための経済と働く私たちのための経済は、100%利害が一致するわけではありません。私たちは、仕事の安定を望み、高い賃金を望みますが、働く私たちは、投資家にとってはコストに位置づけられるからです。

経済のための増便は、日米二国間の自由貿易協定、日米オープンスカイ、以遠権で、日本の市場と、アジアの航空輸送・市場まで手に入れようとしている、アメリカの投資家のために莫大な利益をもたらす増便かも知れませんが、私たちの騒音と落下物と大気汚染で快適な住環境が壊され、安全が失われ、そして、経済利益までもが国外に流出します。

新飛行ルートを認めることは、主権を奪われることに等しいことです。

国土交通省の皆さまには、こどもやその先の世代に恥じない判断を心より求め、新飛行ルートを可能にする制限表面の変更への反対意見といたします。