大田区の認可保育園民営化にみる、日本の民営化と海外の民営化の違いについて
昨年以来、4月のこの時期に、イギリスに再公営化の事例を学びに行こうと計画をたてていました。
日本では、これから、さらに民営化を進めようとしていますが、欧米では、再公営化が始まっていて状況を知りたかったからです。
しかも、注意深く日本と欧米の民営化の状況を比較すると、
日本の民営化には(すべてではありませんが)
①限りなく不可逆的であること
②運営権という価値の評価なく民営化されていること、
という二つの大きな特徴があることがわかります。
大田区の区立認可保育園を民営化する際の契約を調べたら、期限がありませんでした。
大田区は、民間事業者に、認可保育園を運営できる権利、公定価格で保育園運営費を受け取れる権利を無償で譲渡したと言うことです。
パリの水道の再公営化は、契約満了の機会に、更新しないことで再公営化していますし、ベルリンの再公営化は、期の途中だったため、莫大な違約金の負担が生じたと聞いています。
大田区の民営化保育園は、再公営化できるのでしょうか。
民営化は、土地や建物という財産を譲渡する問題よりも、事業から継続的に生じる利益を受ける権利を譲渡するということで、
民営化という翻訳が、誤解を生んでいるのかもしれませんが、辞書で「Privatization」を調べると、政府が所有する企業や団体を民間投資家に売却する、ことだとわかります。(Cambridge Dictionary)
the process of selling companies or organizations that are owned by the government to private investors
事業を売却すると言うことは、その事業から得られる収益を「価値」でどう評価するか、ということです。
大阪市が最初に水道民営化について示した資料には、水道事業の運営権をどう評価するか、について書かれています。
投資はリスクを伴います。
投資をして、莫大な利益を得られることもあれば、思ったほどの利益にならない事業もあります。場合によっては、売り上げを見込めず、損失を計上し、事業から撤退しなければならないこともあります。
欧米の水道事業の再公営化では、水道設備の更新を怠り、売り上げを確保するために水道料金があがったため、不満が大きくなって再公営化が選ばれました。
大田区は、認可保育園の民営化に際して、運営権という考え方を入れていません。
そもそも、期間もありませんから、言ってみれば、タダで、保育という事業を民間投資家に譲渡してしまったと言えるのではないかと思います。
土地を買って建物を建設し、認可保育園を運営する事業者も、
区立保育園の土地や建物を借りて運営する事業者も、
保育園運営費として得る公定価格には、「賃借料加算」が含まれています。
大田区は、保育園事業者に、大田区の土地や建物を無償、あるいは、低額で貸して保育事業を運営させていますが、さすがに、無料で貸し出すのはおかしいと、最近、賃料をとるようにしたそうです。
世界は、民営化しても再公営化に舵を切っていますが、日本の民営化は、再公営化を想定していないどころか、正当な対価なく、確実に利益をあげられる事業を投資家に譲渡してきた、ということではないでしょうか。
コロナで延期になっている再公営化の視察ですが、収束したら、ぜひ、行って調査し、さらに日本と欧米の民営化の違いや、欧米の再公営化の流れについて、比較検証したいと思っています。
コロナ問題を利用して、さらに公的分野への営利企業の参入が進むのではないかと危惧していますから、間に合うと良いのですが。