特区民泊がこわす地域のコミュニティ、大田区民の声を無視して進む規制緩和について

特区民泊について相談を受けるようになっています。
外国人旅行者のための施設だと印象付けられてきた特区民泊ですが、やはり、規制緩和でものすごいスピードで増えている外国人労働者の住まいとしても使われそうです。
特区民泊の問題について質問しました。

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フェアな民主主義 奈須りえです。

2年海外で暮らしていた友人が、それまで住んでいた大田区に戻り、まちに外国人が急激に増えたことに驚いていました。

厚生労働省が公表した平成27年10月末現在の日本全体の外国人労働者数は90万7896人。前年に比べ120,269人、15・3%の増加で、平成19年に届け出が義務化されて以来、過去最高の数値を更新しているそうです。しかもそのうち約30%は東京都ですから、増えたなあという実感は数字にも表れています。

しかも、このデータは、事業者から提出のあった届出件数を集計したもので、「外国人労働者全数とは必ずしも一致しない」と書かれているように、実際の外国人労働者数はもっと多いと思われます。

増えた理由について厚生労働省は、留学生の受け入れが進んでいることに伴う留学生の「資格外活動」の増加、(留学生は、1週間に28時間以内で風営法対象外の職種ならなんでも就労できます。)や、「専門的技術的分野の在留資格の外国人労働者が増えている」ことをあげ、政府が進めている「高度外国人材」の受け入れが着実に増えている政策的な結果、であるとまとめています。

しかも、「高度外国人材」と言いますが、実際、政府は、国家戦略特区などにより入国審査要件、在留資格要件を緩和していて、かつては高度な技能を要する職種に限られていた外国人の就労分野は広がり続けています。しかし、高度外国人材の対象を恣意的に変化させることで当面の人手不足を乗り切ろうとする動きには危機感を覚えるという専門家の指摘もあります。

「骨太方針2016」には、永住権取得までの在留期間を世界最短とする『日本版高度外国人材グリーンカード』の導入が盛り込まれました。平成25年9月の国家戦略特区のワーキンググループの議事録には「日本に在留する永住権をとるためには、今なら10年ぐらい必要。専修学校の留学経験者は日本に渡ってきてそれから日本人学校、専修学校で4~5年、終わってそれから5年くらいすると永住権の条件を満たしてくるが、その間の5年をうめる制度を希望している」といった発言があります。仮にこの希望を満たす形で在留資格要件を緩和するなら、『日本版グリーンカード』の創設で日本に留学する外国人は永住権を取得できることになり、さらに外国人労働者が増える可能性が高まっている状況です。

数で見れば、日本の外国人旅行者数が2015年で1974万人、それに対して外国人労働者数は90万人ですから、旅行者の方が圧倒的に多いように見えますが、旅行者は一年中日本に滞在しているわけではありません。観光庁の出している外国人旅行者平均滞在日数6日〜7日の数字で評価してみると、街を歩く外国人のうちの旅行者数は、1日に換算すると32万人~37万人程度ではないでしょうか。

この数字からも、私たちが日頃接する多くの外国人が、旅行者ではなく、住み働く外国人であることが見えてきます。

イギリスのEU離脱も、アメリカのトランプ氏の当選も、厳しくなる国民生活の矛先が移民や外国人に向けられた結果であると評価している専門家もいることを考えれば、今後、私たちが考え取り組むべきは、訪れ、また帰っていく外国人旅行者だけでなく、働き暮らす外国人労働者の問題であることは明らかです。

区長は、自ら手をあげ国家戦略特区を進めるなど、規制緩和による外国人労働者の受け入れにも積極的ですが、外国の方を労働力として受け入れることは、その生活や人生を受け入れることです。厚生労働白書の平成24年度版は、産業資本主義が地縁・血縁を希薄化し、社会保障が地縁血縁を代替する形で資本主義社会や国民国家を支えてきたと指摘しています。今、国は、その希薄化した地縁の中で地域包括ケアなど社会保障を支えようとしているわけですが、外国人の方を受け入れるということは、さらに異なる文化や習慣を持つ方たちとコミュニティをどう作り上げるかという新たな問題を抱えることであり、言語、住居、教育、医療、子育て、介護、生活保護、年金といった責任を、社会保障の責任主体である大田区が、どのように果たすかという問題です。

そこでうかがいます。

来日し大田区に住み働く外国の方々に対し、大田区として、どのような問題意識をもっていますか。また、大田区として、東京都として、国としてなすべきことをどうとらえ、何が課題であると考えていますか。

2.外国人旅行者のための施設だと印象付けられてきた特区民泊ですが、やはり、外国人労働者の住まいとしても使われそうです。

昨年、8月27日、日本経済新聞が外国人の家事代行解禁で、パソナなど人材派遣事業者が外国人労働者を雇うとともに、労働者の勤め先での住み込みを禁じ「企業側が住居を確保する規定」を盛り込んでいると報道していたので、特区民泊が、この外国人労働者を住まいになるのではないかと心配していました。東京都のHPの解禁になった外国人家政婦の宿舎の説明には、「一戸の住宅を複数の外国人家政婦が宿舎として使う場合の費用負担」や「一人あたりの占有面積が社会通念上相当とされる程度の面積になるよう配慮しなさい」といった、住宅費を取りすぎないよう、宿舎に詰め込みすぎないよう懸念する記述も見られ、心配していた通りになっていました。

外国人労働者は、母国に送金するために、家族の元を離れ日本にまで来て働きます。いくら貨幣価値の差があって母国よりたくさん稼げても、日本は物価が高いので送金分残らなければ、働きに来る意味がありません。日本人と同等額以上の報酬額とありますから、最低賃金程度を支払えば良いということでしょう。高い家賃の東京でも、特区民泊を使えば、日本で働いて住んで送金が可能になるというわけです。

特区民泊は、低賃金労働力の確保ありきで、一人あたり居住面積や衛生基準など人権を守ってきた規制を取り払い、低価格の賃貸住宅を作ってしまったことになります。

政府が、簡易宿所をさらに劣悪な環境にした特区版ドヤを作ったと言えないでしょうか。

規制緩和せず、十分な居住面積の確保された住宅を外国人労働者に提供すれば、空き家対策にもなるはずですが、詰め込むのですからそう効果は期待できません。給与や年金の低下などに伴い、特区民泊が低所得者の住まい化されるのではないかと心配です。

内閣府は、ご丁寧に、「特区民泊があたかも外国人に制限されているような誤解が広がっているが、日本人でも外国人でも利用できるものなのに活用促進に支障が出ないか懸念している」と言っていますが、「簡易宿所より大人数の詰め込みで安く住める特区民泊」を日本人の住まいとして使って欲しいということでしょうか。誤解を与えたとするなら条例名「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例」に外国人といれた大田区にもその責任があると思います。

この、特区民泊で困っている区民の声をあちこちで聞くようになりました。ゴミ出しで困っている、何人もが出入りするがどのような人がいるのかわからない、事業者から十分な説明を得られず、大田区は「トラブルは民民で解決して、何かあったら警察を呼べ、苦情を事業者に言え」など不誠実なので、さらに不安が募るようです。区長は問題は違法民泊にあるという認識ですが、問題の一つは、区内の第一種住居専用地域以外のほとんどの用途地域で設置可能なことです。たとえば第一種住居地域は、3000m²までのホテルの建設が可能です。しかし、果たして、特区民泊を、「フロントがあり、消防や衛生の基準を守り、一人あたりの居住空間も確保された旅館業法を守る宿泊施設」と同等に扱って良いでしょうか。

第一種住居地域といえば、住居の環境を保護するための地域です。不特定多数の人の出入りがあるにもかかわらず、フロントもなく、防犯、防災、衛生規制も緩和されている施設で地域の住環境を保護できるでしょうか。

大田区は、「近隣住民への周知や説明、ごみの適切な処理、苦情対応窓口の設置、緊急時対応等、利用者だけでなく、周辺住民にとっても安全・安心な滞在施設となるよう、各ルールを設けていると答弁してきましたが」、私に聞こえてくる住民の評価は不安と不満ばかりです。しかも、特区民泊がドラマやマスコミなどで身近になったことで、「違法民泊」への抑止力となるどころか違法民泊を誘導するのではないかとも心配しています。

そこでうかがいます。

特区民泊を利用する外国人について、大田区は旅行者とみなしていますが、現実には賃貸借契約で、区内に滞在する旅行者とも住民とも位置付けられない外国の方たちが地域でともに生活する場面が増えることになっています。設けたガイドラインでは大田区民の安全安心さえ守られているとは言えないのが現状です。

これは、特区民泊事業者への大田区の指導が足りないからでしょうか。民泊事業者が指導に従わないからでしょうか。

そもそも、作ったガイドラインに不備があり、ガイドラインを改正すれば状況は改善されるのでしょうか。

防災や環境、地域コミュニティを維持し守ることについて、現状のガイドラインで、対応することは可能でしょうか。

大田区としての改善策についてうかがいます。

3.区長は、問題は民泊にあるという姿勢のようですが、特区民泊の問題の本質に目を向けるべきです。それでは、どうして、こうした住民生活を大きく脅かすようなしくみができてしまったのでしょうか。

この間、地方分権、地方分権と言われてきましたが、いまや、政治は政府主導、内閣主導の中央集権で進んでいます。

区民から不安の声が高まっている特区民泊は、国会で議決された国家戦略特区法に基づくしくみです。

これを全国の中でも大田区だけ、やると決めたのは大田区長です。大田区が、この規制改革項目を活用する事業を公表し、2015年10月の第四回東京圏区域会議で区域計画を決定、その1週間後の第16回国家戦略特区諮問会議を経てこの事業が全国初のケースとして認定されています。

大田区議会で条例案が可決したのが2015年12月7日ですから、この認定までの間、大田区議会は関与していません。法は、滞在日数の下限を条例で7日から10日の間で定めることを自治体に求めていますが、大田区で特区民泊することを決めたのは大田区長です。

大田区長は、全国の中で大田区だけ旅館業法の一部を無法状態にするという非常に大きな独断をしたわけですが、その責任と重みを認識しているのでしょうか。

こうした国主導の制度変更に大田区長だけが加担する形になっているのは国家戦略特区だけではありません。

羽田空港の現飛行ルートは、一朝一夕に出来上がったものではなく、戦前戦後を通じた長い歴史的な経緯の中で、区民と行政と大田議会とが国や東京都と、ある時は一致協力しまたある時は対峙し、作り上げてきたものです。

大田区も国も飛行ルートは、国が決めることだと言いますが、それでは、これまで、国が独断で決めてきたかといえば、そうではなかったことは大田区の歴史が証明しています。国が、区民と区議会と大田区との対話や歴史的経緯を尊重してきたから、沖合移転事業は始まり、海から入って海へ出るルートで飛んでいるのです。

ところが、松原大田区長は、今回の飛行ルート変更について、任意団体の長である23区長会会長の発言を重く受け止めると言います。区長は、信託を受けている大田区民より23区長会の会長の意思を尊重するのでしょうか。

区長は、政治家であると同時に、行政の長でもあります。行政はその継続性を守らなければなりません。区長が変わるたびに、歴史的経緯を軽んじれば、独裁が始まります。選挙で選ばれたからといって何をしてもいいわけではないのです。仮に変える必要があるなら、そこには、歴史的経緯と議会制民主主義に基づく適正な手続きが必要です。

そこでうかがいます。

教室型説明会もせず、騒音・落下物・大気汚染などについて心配な住民の声をきかず進む羽田空港飛行ルート変更、区長がやると決めて大田区だけが旅館業法の適用除外となってしまっている特区民泊の規制緩和など、住民の声ではなく、大田区長の独断で進む事例が目に付くようになっています。

① 区民への情報公開や説明責任、

② 区民との合意形成、

③ 万が一の責任の所在

についてどのように考えているのかこの場で区民に説明してください。

地方自治は、民主主義の学校と言いますが、特区民泊も羽田空港飛行ルート変更も大田区民の声を聞かず、国主導、区長の独断で進められ、主権者は不在で自治が行われていないのです。

4.特区民泊は国家戦略特区法に基づいたしくみです。日本国憲法第95条は一の地方自治体に適用する法律は住民投票しなければ無効であるとしています。しかし、国家戦略特区法は、手をあげれば全国の自治体が適用可能なので、憲法第95条の住民投票は不要であるとして住民投票していません。ところが、評価し、全国展開する段階では、法改正の手続きをとっています。

全国に法を適用するには法改正が必要であるなら、全国の自治体への適用が可能というのは矛盾しているのではないでしょうか。このことについて国家戦略特区担当の参事官にも確認しましたが、明確な説明はいただけませんでした。

大田区長として独断で決めるのではなく、住民投票して住民の声に耳を傾けるべきではないでしょうか。お答えください。