水道民営化における最大の論点は、公共性の担保だろう。

水道事業が株式会社に売却されると聞けば、儲けのために使われてしまうのではないかと心配になるのは当然だ。生死に関る水が、儲けのために使われたのではたまらない。

だからこそ、「公共性の担保」が重要だ。

ところが肝心の「どう公共性を担保するか」に大阪市は、ほとんど力を注いでいない。
というか、お願いすることで公共性は担保されると考えているのではないかとさえ思える。

明確な基準を設け事業者を縛るのは、施設整備の在り方ばかり。住民のくらしに関る価格や品質や提供体制と公共性の担保は希薄で、価格は上限を条例で定めるだけ、品質や提供体制は、ミネラルウォーターのペットボトル程度にしか見えない。

【水も電気も鉄道も総括原価主義】

水は電力と同じ総括原価主義。
人件費、動力費、薬品費、受水費、修繕費、材料費、減価償却費など(*1)が計上される。
かかった費用が料金に転嫁される仕組み。施設に投資しても必ず水道料金で回収できる仕組みと言ってもよい。
・・・?どこかで聞いたことが・・・・そう、電気と同じ。鉄道もだ。ちなみに、水道民営化で国鉄が民営化されJRになって良くなったじゃないかと指摘する方がいらっしゃるが、鉄道は一応同業他社が存在し場合によってはバスもあるので競争性の余地がある。消費者庁はヤードスティック方式 で競争性を確保していると説明している。
http://www.caa.go.jp/information/koukyou/railroad/ra04.html

大阪市の出してきた民営化案は、公務員で担ってきた水道事業を、民間の正規非正規職員で担うことによりコストを削減するとともに、「耐震化」という高付加価値のついた水を提供しようとするしくみだ。

民営化により、水道インフラが民間投資の対象になる。売上は、総括原価主義だから必ず水道料金で回収され、しかも、水だから呑まない人はいないので取りはぐれがない。
しかも、地域一社独占の競争の無い市場だ。

場合によっては、民間だけの売り上げで足りなければ、国庫補助というみちも選択肢にある。現に大阪市は耐震化を国庫補助で乗り切り値上げしない絵を描いている。

水事業を民間の経済活動にゆだねれば、水は儲けの対象だ。
既に、水事業を行政は「投資」の対象にしているくらいだから、儲けの対象くらい当たり前なのかも知れない。

水道が民営化されることにより、
1.民間事業者が、売上や収益のために付加価値をつける可能性がでてくる

2.海外への売り込みやペットボトル事業など、新たな事業展開によるリスクを抱えることになる

3.人口に対し過剰な施設整備は民間投資を活用する。出資は議決権を誰に与えるかということだと大阪市も言っている。水道事業における議決権が住民が選挙で選んだ議員から投資家になる。

4.結果として、水道料金、国庫補助などの税金負担が増えるが、中でも家計への負担が大きくなる

これらのリスクを回避できていたのは、水道事業を公共で行ってきたからだ。

【公共性の担保】

公営企業であれば、予算案や料金改定を含む条例改正などに際して、その都度議会の関与がある。市が直接の事業主体であり、持続性が確保され、国等の財政措置制度の対象となることから、公共性が担保される。

民営化されれば、基本的に市(公)が事業運営に関与しないため、現行法制度を前提とした場合には、公共性を担保するための措置が必要だ。

民営化の形態によっては、担保することも可能だが、大阪市の民営化案に、肝心の、どう公共性を担保するのかという議論は余りにも希薄だ。

大阪市は公共性担保として次のようなことがあげているが、必ずしも公共性の担保につながらない部分が大きい。

・条例による料金の上限設定
条例による料金の上限設定は、設備投資の要件に縛りをかけない限り、電気料金と同じ総括原価方式を採用する水は、供給が需要を喚起するため、既成事実化し後付けで議会の議決が求められるといった可能性もある。複数の事業者参入がある鉄道事業は上限設定があるがヤードスティック方式 も採用している。

・完全民営化まで市が関与
民営化後の公共性担保のルールを法整備しなければ、無いに等しい。
東京23区は、清掃工場の運営受託と清掃工場で発電される電力の売買を行うPPS事業者を作っている。民間事業者と23区共同出資で株式会社を設立。23 区は共同で59.8%を出資している。設立の際に、自治体が三セクを作ることの是非や、自治体の関与等が議論になり、透明性、情報公開などとよさそうな言 葉が並べられそのまま可決した。結局、株主総会の報告さえ行われず、議会での区長答弁を示し、情報提供を求めても、「民間」をたてに、23区との事業関係 についてすら情報公開を拒んでいる。
59.8%の出資割合でも、自治体の関与が及ばないなら、完全民営化の際、公共性の担保をどう確保するかは、民営化の必要要件として示すべきではないか。

・モニタリング制度
感想文程度で何ら拘束力を持たない。

・国庫補助のしくみを残す
安易な国庫補助は無駄な設備投資を促しかねない。国庫補助は、最終的に国民の負担になる。設備投資の発意が民間会社うつれば、民間会社にとってのメリットにこそなる可能性があるが、必ずしも国民のメリットにはなりえない。

・所有権を自治体に残した上下分離方式
地主が関与できるのは、法令の範囲内と契約期間後の時期更新でしかない。
むしろ、上下分離方式は、固定資産税等の負担を回避できるとともに、老朽資産を抱え込むこと無く、投じた費用を確実に回収できるため民間事業者にとってメリット。

【行政と議会の責任のとりかた】

確かに、今の行政や議会は必ずしもほめられたものではない。
水道施設は行政では支えられないほどの「過剰」になってしまい、民営化するしかないと情けないことを言っている。
しかし、行政や議会にやり逃げさせ、民間に丸投げでいいのか。
それでは、更に悪くなってしまうじゃないか。

橋下市長は、水道事業の課題について他人事だ。
給料の高い公務員の二重行政が諸悪の根源だとそれしか言っていない。

ホントにそうだろうか。人口は減るのに、水道施設は一気に古くなる。人口で支えられないくらい「過剰」な施設は、長期的展望なしにそれを許した議会と首長の責任だ。
いくら自分の任期中にしたことじゃないといったところで、行政の継続性という視点から当事者としての責任は逃れられない。そこの責任を橋下市長はどうとる のかと民営化案を見でも施設廃止はほんの少しだけと問題を先送りし、耐震化は1.5倍と更に新たな問題を上乗せしようとして、民間丸投げ。これでは答えに ならない。

私たちは、非常に厳しい時代を生きている。
社会は、公的分野の民営化に誘導されてきたが、苦しいからと言って民営化を選べば更に厳しい状況に陥るだけだ。

民間に渡したら一気に解決なんてそんなお手軽なことが有るはずがない。

(*1)その他の営業費用と営業外費用のうちの支払い利息以外の費用の合計額から給水収益以外の収益を控除した額