災害後、どのように生活再建するかは非常に重要な課題です。しかし、大きな犠牲の上に、あるいは、災害だから、有無も言わさずというのは少し違うと思います。
条例案が決まると、もし、みなさんのお宅が、木造密集地域など防災に課題のある地域だと、区長の権限をつかい、元のように建て替えができなくなる都市計画案が提案できるようになります。
災害後、復興のために、同じ土地で家を建て替えられない、戸建が共同住宅になる、土地の一部が道路や公園にとられる、などの都市計画を【住民の合意形成を省略して】区長が提案できる条例案です。
どういう条例かというと、防災上の課題のある地域を、そのまま立て替えるのではなく、消防車などの救急車両の進入を可能にしたり、延焼を防止する、防災広場を設ける、最低敷地面積を大きくする、などの課題を、災害復興にあわせて解決しようとしています。
災害後に、区長が重点復興地域や復興促進地域と指定すると、地域住民の合意形成がなくても、最低敷地面積や道路拡幅案などを行政が決めて提案できるというのです。
もとの地域に防災上の課題があって、そのまま建て替えることが好ましくないということで、都市計画マスタープランなどに載っている区域などが対象になる、と東京都からうかがいました。
大田区の都市計画マスタープランをみると、たとえば、下の地図でいう斜線部分「防災上の向上を図る地域」(赤字で囲んでいます)などが、対象地域に当たるのではないかと思います。
下図の右羽田は地区計画の策定が始まっていますし、真ん中の大森中も一部地区計画の策定が終わっています。
しかし、大森中の一部や、左の西蒲田など、斜線の引かれた「防災上の向上を図る地域」に住んでいる方の中には、災害が起きたら、住み続けられなくなるかもしれないことを ご存知の方が何人いらっしゃるでしょうか。それだけでなく、区長が判断すれば、それ以外の地域でも、指定され、都市計画の網をかける素案が提出されるかもしれないのです。
*大田区都市計画マスタープランp32より

大田区は、この条例策定に際して、パブリックコメントを募集していました。
それだけ、区民生活に重大な影響を及ぼす条例だということです。
この条例は、大田区が、東京都が神戸市の条例を真似て23区のために作った標準条例に倣って策定したそうです。神戸市のまちづくり条例では、神戸市長に地区の指定を委ねるのではなく、「まちづくり協議会」という団体に合意形成にかわる地区の指定を委ねています。
神戸市長田区は、災害復興が比較的早かったと言われていますが、なぜかといえば、この「まちづくり協議会」があったからなのだそうです。

一方で、長田区の復興により、街へ戻れなかった方がたくさんいたという話も聞いており、素早い復興、それも、防災力を向上させる復興は、住んでいる全員に良いことにはならないようです。

仮に、神戸市長田区の事例に学ぶなら、大田区には「まちづくり条例」も「まちづくり協議会」もありますから、「まちづくり協議会」に委ねる条例改正をすれば良いと思うのですが、区長という一人の人に権限を委ねる条例を、東京都が23区に「半ば強制する形」でオススメしてくださっています。
委員会では、私一人がこれらの心配から条例に反対しました。
本会議場での採決までまだ時間があります。
区民のみなさまはどのように思われますか。

以下、委員会で条例制定に反対の理由を述べた、奈須りえの討論です。

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フェアな民主主義 奈須りえです。
第89号議案「大田区被災市街地復興整備条例」について反対の立場から討論します。
この条例は、「災害等により重大な被害を受けた市街地の復興に際し、被災市街地の計画的な整備について必要な事項を定め、大田区、区民等及び事業者が共同して被災市街地の整備にかかる対策を総合的かつ計画的に推進することにより、災害に強い活力ある市街地の形成を図り、もって安全安心な区民生活の実現を図ることを目的とする。」ための条例です。
早く言えば、災害後、速く復興させるための条例です。
確かに災害後、速やかに日常生活に戻れることは、誰もが願うことです。
しかし、規模の大きな災害になればなるほど、復興は簡単ではありませんし、復興を急げばそれでいいといった単純なものでもありません。復興、なかでも、この条例が対象としている住宅含めた建築物の復興には、個人の財産や、暮らしや、想いが密接にかかわってくるからです。
この条例の目的は速やかな復興、つまり、壊れた建物の区域に建築することです。
復旧ではありませんので、元通りに戻すのではありません。
この条例を読み、不明な点を議案上程時に質疑し、委員会で審議しましたが、どうしても理解できない部分がありました。委員会審議の後、東京都に電話して、ようやくこの条例の意図するところが見えてきました。
議案質疑の際に、なぜ、区長が点復興地区、復興促進地区、復興誘導地区を指定できるとし、区長に復興地区の優先順位をきめることを委ねるのか聞きましたが、大田区は、それにはこたえず、この条例が、東京都に倣って作った条例であると答弁しました。
東京都に、なぜこうした標準条例を作ったか、東京都市街地整備部企画課に問い合わせたところ、標準条例を作ったのは、次のような目的だということがわかりました。
大地震などの災害後、建物が倒壊した後、時間がかからないよう、
・まちを短い期間に復興させること
・木造密集地域など、元のまちに戻さないよう防災に強いまちづくりができるよう
このふたつの目的をかなえるために、この標準条例を作ったのだそうです。
その際に、参考にした事例が、阪神淡路大震災の時の長田区などの復興だそうです。
阪神淡路大震災の時、復興が速やかに行われたのは、神戸市において「まちづくり協議会」の活動が行われていたからで、「神戸市まちづくり条例」にもとづく協議会の多くは、復興に向けた取り組みへの立ち上がりが早く、日頃のまちづくり活動の重要性が再認識されることになったのだそうです。
 具体的には、震災後に、主に区画整理や再開発などの都市計画事業地区を中心にしてまちづくり協議会の活動が活発化し、 100以上のまちづくり協議会が被災地につくられ、 住民のまちづくり意向を集約し行政に提案する機関として重要な役割を果たしたそうです。
こうした、神戸市長田区などのまちづくり協議会がまちづくり条例に盛り込まれていたことを参考に、復興の手順を示したのが、今回の標準条例だそうです。
一般に、地区計画や区画整理事業など都市計画を進める際には、地権者が集い、勉強会を行い、アンケートを重ねて、まちへの問題意識を共有したうえで、一定割合以上の地権者の合意のもと、住民提案でまちづくりの素案を行政に提出し、それをもとに大田区の都市計画の素案が出来て、地権者の合意形成を行ったり、パブリックコメントを行って、都市計画決定をしていくことになります。
素案提案前までの、この合意形成に時間がかかるわけですが、仮に東京都のこの標準条例にならって、今回の被災市街地復興条例を大田区が作ると、区長が、重点復興地区などを指定すると、区域のまちづくりの素案を作るまでの住民の合意形成の部分が省略され、区長の指定が合意形成の根拠となって、都市計画を進められるというかたちになっています。
東京都の市街地整備部企画課が言っているように、木造密集地域などを、震災後もとのまちに戻すのではなく、防災力を高める形で建て替えられるようにできる。そのための復興条例なのだそうです。
この条例を使って復興させるということは、災害後に、防災機能の低い密集している地域や、防火構造になっていない地域に、そのことを理由にして都市計画の網がかかり、道路幅が広がったり、公園などの空間が作られたりしながら、防災に強い街としての復興が、事前の住民の合意形成無く始まることになります。
区画整理事業や都市再開発を行いたくない地域でも、区長が重点復興地区に指定すると、大田区が区画整理事業や都市計画の案を作り、合意形成を始めてしまうということです。
反対者が多く、再開発や区画整理の難しいと思われる地域も、行政権限でスタートさせることができます。始まってから、反対することはできますが、区域の住民は仮設住宅に住んでいて、それが長期化するかもしれない時に、必ずしも全員が反対にはなりにくいでしょう。自分の家が道路に取られてしまい、移転を余儀なくされる人もいれば、良い区画へ移転できる人もいるかもしれませんし、新しい集合住宅に入れることを希望する人もいれば、月々の管理費や共益費の負担ができず、移転を余技なくされる人もでてくるでしょう。
しかも、実際に反対の権限を持つのが議会ですが、都市計画の合意形成の要件が一般に8〜9割りという印象を持ちますので、それに比べれば、過半数で決められます。発災を機に良い街を作ることは悪いことではありませんが、元に戻すのではなく、通常行えば、何年も、場合によっては10年単位で時間をかける合意形成を、災害だからと、区長の地区の指定で省略するやりかたは、心配です。
東京都が成功事例として挙げてくださった阪神淡路大震災の時の神戸市長田区の事例では、復興は速かったかもしれませんが、多くの方たちが、元のまちに戻れなかったと聞いています。
条例は、復興の手順を示し、まちづくりの合意形成にあたるまちづくりの根拠を区長にあたえるもので、合意形成の省略にほかなりません。
木造密集地域など防災上の課題があり、被災後もとのまちに戻すべきでないと大田区が考えている地域は、すでにわかっているはずです。
こうした条例を作るなら、いまから、もとの町に戻すことが好ましくない対象区域はわかっているのですから、条例をつくに際し、災害後は、区長の強権で、大田区が強制的に都市計画の網をかけますよ。と公表すべきではないでしょうか。パブリックコメントの際に、そうした説明はありませんでした。
そもそも、東京都が標準条例を作ったのは、かなり前と聞いています。その時から区民に情報提供し、合意を積み重ねることもできました。
あるいは、そうした強制的な都市計画の網をかけられるのが嫌なら、いまから防災につよいまちづくりが必要ですと働きかけるべきです。
災害に乗じる形で、合意形成を省略して日ごろではできない防災のまちを作るというのは、個人の権利を災害時なら省略して良いということになり、問題です。
東京都も神戸市の復興とまちづくり条例を評価するなら、課題はあるものの、まだ、神戸市に倣い、まちづくり協議会にこうした防災時のまちづくりを委ねるほうが良いのではないでしょうか。あえてそれをせず、区長に委ねさせる東京都の標準条例も問題ですが、それにそのまま従う大田区の自治意識の低さに落胆します。
大田区や東京都は、一方で、一極集中をうながす都市計画を放置し、大田区内をさらに密集させています。
本気で防災に強い大田区を作るなら、人口を集中させない、人口密度を下げることこそが重要です。
災害時がおきて、区民に再開発や区画整理が進んで、なぜこうした強権的な条例を作ってしまったのかと必ず、大きな問題になります。
ところが、こうして住民の合意形成無く提案された復興事業に区民は責務として協力せよという条例で、声さえあげにくくするさらに問題のある条例です。
どの程度の被害が重大で重点地区復興促進地区になるかは、規則で委ねられるため、区長の裁量に、個人の権利に関わる重大な合意形成が委ねられる問題があり、反対です。