大田区議会を二分する大きな議論になった大田区役所の移転問題。その際の論点の一つが、耐震強度でした。耐震強度を満たすため、現地で建て替えるくらいなら移転したほうが税金を有効に使えるとされ移転に大きな根拠となったのです。それが、移転後10数年を経過し、24億円もかける耐震補強工事をしようとしています。
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この陳情は、大田区役所の耐震性向上のための計画の一時中断を求めるための陳情です。

現在、24億円を上限に受託事業者募集が始まっていて、今年度中に受託事業者を選定し、平成28年度に設計を行い、平成29年度から工事開始が予定されています。

大田区は、耐震強度が足りないのではなく、11階を中心により大きく揺れ天井板や物が落下するので、その揺れを和らげ物が落ちてこないようにする工事を行うとしています。

しかし、陳情者も指摘するように、揺れを減らすなら、OA機器や事務機器の固定や、机上の整理を行うべきであり、もっと区民や議会が議論を重ねるべきというのは当然です。

現在の区役所は平成8年に大田区が買い取りました。移転が平成10年。陳情者も指摘するように、新耐震基準になってからの建物です。

そこで、どのような議論で区役所購入に至ったかを調べてみたところ、平成7年12月11日の議事録に次のような発言を見つけました。

「万一、阪神の大地震のような震災の場合、区民の生命・財産を守るべき行政が、庁舎が破壊されたために救援本部も設置できず、その使命を果たしえないなどといった事態になったら、それこぞ、いったい誰がその責任をとるのだということであります。
 この点で、今の区役所、KBKビルは、耐震性において現行法を完全にクリアしているだけでなく、その最上階に大きなスイミングプールを設置できる設計でその重度に耐えるように、この建物の基礎は、建築基準法が求める強度の二倍の強度で建設されているとのことであり、一たん緩急の際は、対策本部として、すべての区民の救援のために、現庁舎より遥かに優れていると考えます。」

これは、当時の自民党の張替議員の発言です。

区役所は、単に耐震強度において優れているだけでなく、二倍強いから、中央から移転すべきと自民党議員が主張していたのです耐震強度の問題についてはKBKビル調査特別委員会の調査報告として永井議員も、移転することで耐震上の不安を解消し、防災本部機能が果たせるなど問題点が解決できるといった発言をしています。

区役所移転のひとつのメリットがこの本庁舎の耐震強度だったわけです。

莫大な金をかけて旧区役所の耐震性を高める金があるなら、それを、他の区民施設に回すべきだという発言もみられました。

こうした議論を経て区役所移転の合意をとりながら、なぜ、本庁舎より耐震性の低い区民施設に優先して本庁舎の耐震性向上工事なのでしょうか。

区役所移転の議会の議論は区民との約束であり、安易に覆すべきではありません。

11階の揺れを防ぐといいますが、区役所は11階建てで、高層建築でもありません。この税金投入をよしとすれば、同程度の耐震強度の建物への税投入のおすみつきになりかねず、税投入の優先順位が大幅にくずれ、財政規律が乱れます。

しかも、大田区が、耐震安全性目標設定として掲げた構造体Ⅰ、非構造体部材A、建築設備甲という評価のもととなる文書「官庁施設の総合耐震計画基準」とその根拠である「国家機関の建築物及びその付帯施設の位置、規模及び構造に関する基準」は平成6年に告示されています。

これが本庁の耐震強度基準であれば、仮に耐震強度を満たす必要があったのであれば、なぜ、区役所移転当時の議論の中で情報提供され、補強工事を行なわなかったのでしょうか。
もともと存在していた公共建物における基準を、あたかも、東日本大震災で必要になったとでもいうように今になって持ち出す大田区の情報提供の在り方に大きな不信感を覚えます。

これでは大田区が提出している根拠を簡単に鵜呑みにするわけにはいかず、陳情者の指摘するように十分な議論を重ねるためにも一時中断が適当です。

 

しかも、大田区は、老朽化した公共施設の更新という大きな課題を抱えています。

私たちは、どのくらいの利便性、快適性をいったいどの程度の負担で担うまちを作ろうとしているのでしょうか。

私たち議員や公務員は、憲法第九十九条    天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負っています。そして、憲法の保障する基本的人権を守るための施策を確保する義務を担っています。

保育園や特別養護老人ホームを会っている区民が大勢いる現状で、大田区民誰もに健康で文化的な最低限度の暮らしを確保することとは、この地震になっても物が落ちてこない建物を建て替えることでしょうか。

限りある財源の使い道として、また、現在の区民生活の状況からみても陳情者の主張はもっともであり、採択すべきです。