入新井第一小・赤松小など、学校複合化の問題点【入一小を事例に】
余裕のある容積率を使った小中学校の複合化ですが、効果が無いどころか、施設整備の財政負担をさらに重くし、教育や福祉にかける費用を圧迫する恐れを決算委員会で明らかにしました。
*およその答弁を赤字で書いています
確定したら、全文を掲載します。
老朽化した施設更新の財政負担が大田区の課題
老朽化した大田区の施設の更新時期が集中していて、莫大な財政負担になり、どう更新していくのかが、課題になっています。
平成28年4月現在の大田区の公共施設は569施設で、延べ床面積は123万㎡です。
老朽化した施設の8割弱が学校施設
大田区の公共施設の中でも、築40年以上の建物の延べ床面積64万㎡のうち、約76%の48万4600㎡は、小中学校などの学校施設がしめています。
大田区の公共施設の老朽化は、老朽化した小中学校をどのように更新していくか、という問題でもあるのです。
大田区は学校施設を複合化で更新する方針
大田区では、平成21年に策定した公共施設整備計画(前期)の時から、公共施設、中でも小中学校の複ふたん
合化が示され、既に、10年が経過しています。
複合化は、施設数・床面積減、建て替えコスト減、毎年の建設費を均等にする効果
複合化は、
●施設数を減らし、床面積を減らす、あるいは、増えないようにする。
●建て替えや維持管理費を減らす。
●負担の平準化
建て替え時期が集中しないよう、年度ごとの建設費の負担を均等にする
といった効果を期待して進められてきました。
特に小中学校は、公共施設の総床面積に占める面積も大きく、容積率にも余裕があることから、複合化と言われてきました。
そこで、今日は、現在、施設の改築を複合化により行っている入新井第一小学校を事例に、大田区が言っている複合化の3つの効果、
・施設数、施設面積が減る。
・建築コストが下がる
・建て替え時期が集中しないよう、年度ごとの建設費の負担を均等にする
について検証したいと思います。
減らない複合化
① 施設数や延べ床面積を減らすことを期待して行われている複合化ですが、この約10年で大田区の施設数や延べ床面積がどうなったか調べたら、減るどころか増えていました。
2008年12月に542施設、延べ床面積120万㎡だったのが、2016年4月には、施設が27増えて569。延べ床面積も3万㎡も増えています。
そこでうかがいます。
いま、入新井第一小学校は、複合化する前の延べ床面積は6938㎡ですが、複合化した後は、9090㎡、と約3割も増えています。
これは、どうしてですか。
A バリアフリーのためのスロープやトイレ、少人数学級に対応するため、そのまま建て替えても3割程度面積は増える
公共施設の約半数を占める小中学校は、バリアフリーのためにエレベーターや誰でもトイレ、習熟度に応じた学習などで、そのまま建て替えても、延べ床面積は、約3割も増えてしまうということです。
複合化すれば減らせるわけでは無く、周辺の施設を置きこむなら、かなり大胆に機能を縮小させなければ、総床面積を減らすのは、難しいということです。
安くならない複合化
② 一方、複合化のもう一つの効果として言われているのが、改築経費・維持管理経費の縮減です。
そこでうかがいます。
複合化することで、どのくらい、改築経費は縮減されますか。最近の事例で、㎡あたり単価でお答えください。
A 志茂田障害者センターと複合化した、志茂田小学校では、障害者センターの建築コストを㎡あたり8万円くらい削減できた。
建て替えの条件も施設ごとに異なりますから、すべての複合化で、同様の効果が出るとは言えないと思いますが、複合化することで、一定程度の経費削減効果があるということはわかります。
ご答弁いただいた事例は、たぶん効果の見られる、かなり良いほうの事例だと思いますが、それでもこの程度です。
しかも、コスト削減効果は、施設の規模が大きくなって得られる、スケールメリットによる効果だと聞いていますので、学校以外の施設の部分の効果です。
ご答弁いただいた事例でいえば、志茂田小学校に入った志茂田福祉センターが、単体で建て替えるより安く上がったということです。志茂田小中学校総面積約2万5千㎡のなかの志茂田福祉センター2千平米の1/10の部分のコストを削減できたということです。志茂田福祉センターの前の新蒲田障害者福祉センターが、大田区民センターと複合化施設なので、厳密に言えば、効果も疑問ではありますが。
いずれにしても、先ほどもご答弁いただきましたように、学校を建て替えるだけで、バリアフリーなどで、床面積は約3割程度増えていますし、
入一小では地下階も作っていますから、ここでもコストは高くなります。
複合化によるスケールメリットの経費削減効果もバリアフリーや地下階などの負担で、劇的な効果にはならないことがわかります。
複合化のホントの目的は?
そこで、今回の入新井第一小学校の複合化で、周辺のどんな施設が入っているのかをみると、
一番大きな変化があるのが、エセナ大田でした。
エセナ大田は、現在2440㎡ありますが、
入新井第一小学校の中に入ることで、375㎡に激減してしまいます。
現在男女平等推進センターのある建物は、1977年に建設された築40年と少しの建物で、大規模改修ののち2000年に再新規オープンしたばかりの施設ですが、入新井図書館と入新井出張所がラズ大森に移転した時には、いわゆるタネ地で出張所の仮施設として使われていました。
複合化で移転後、まだまだ使えるこの施設をどう使用するか決まっていません。仮に、解体したり、売却したりするなら、本末転倒で、最後まで使うべきです。複合化の機に乗じ、男女平等推進のための機能が大幅に縮小されることは、施策推進上も施設の有効活用の点からも問題があると思います。
また、適応指導教室つばさを置きこんでいますが、心因的理由などで登校できなくなった小・中学生が学校復帰するための援助をしているのに、学校に設置するというのも無理があります。大森西地区に再編される複合化施設に入るほうが良かったのではないでしょうか。
これ以外の、入新井小学校に置きこまれる施設は、それまで周辺にあった条例上の区民のための施設ではなく、区民活動、文化活動、子育て支援など、公共的なネーミングですが、市民事業なのか、民間委託なのか、条例上どのように担保されるのかさえ決まっていません。
これだけ見ていると、入新井第一小学校の複合化は、まだまだ使える男女平等推進センターの機能を縮小させ、エセナをあけるための複合化のように見えてしまいます。
複合化で良くならない教育環境
それでは、こどもの教育環境が良くなる複合化かと言えば、複合化したことで、こどもの教育環境が良くなったと言える部分は、ほとんどありません。複合化して、高齢者と交流するのがメリットだと言いますが、日常的に行き来できる構造ではありませんから、イベントを企画して交流することになり、離れていても、隣接していてもさほどかわりません。
大田区平均より狭い「入一小」校庭面積
入一小の建て替えを機に、校庭がさらに広くなる、様々な運動する場を確保できる、自然観察できる、などまず子どもの教育環境充実を考えるべきではないでしょうか。
大田区のような都心の学校は、今も、生徒一人当たりの校庭面積が狭く、2年前の数字ですが大田区平均で5.8㎡しかありません。
入一は、平均より狭く4.78㎡(41位)です。複合化しなければ、もっと広い校庭にできたのではないでしょうか。
複合化で長くなる工期
しかも、工期が長くなることで、その期間、こどもたちは落ち着かない学習環境の中に置かれます。ただでさえ、学校建て替え期間、校庭で遊ぶことが出来なくなることを心配される保護者はたくさんいらっしゃいますし、複合化で工期が長くなり、工事期間在学して、新しい校舎に入ることなく卒業する生徒も少なくありません。
学校の建て替え工期が長いことが、複合化の大きな問題だと思います。
複合化すれば、学校単体で建て替えるより、床面積も大きく、工事の工程も複雑で、期間も長くなります。床面積を確保し、地下階を作り、結果として、単体の建て替えより高くつきます。
入一小の工期は、当初の7年から保護者の要望もあり、5年に変更されました。2年も短縮できるなら、なぜ当初から5年で提示されなかったのでしょうか。学校の建て替えにおいて、こどもの教育環境をまもるため、工期をできるだけ短くするというのは必須だと思います。
③ そこでうかがいます。
学校施設における、建築工期の上限の目安を設けるなどすべきではないでしょうか。
A 短くする
複合化することで、建築期間は長くなりますが、出来た建物を改築するときには、さらに困難が予想されます。しかも、複合化であいた周辺の土地を売却したら、仮の移転場所すら確保することも困難です。
エセナがあれば、多目的ホールを体育館の代わりにしたり、タネ地にすることもできますが、なければ、将来の建て替えはさらに困難になります。
複合化した学校施設の将来の建て替えの困難について、大田区は考えているでしょうか。
エセナの場所は、過去に、地域の方が、小学校のための用地として提供していただいた土地だと聞いています。地域の方が小学校のためにと提供された土地が、万が一にも民間事業者に「未利用地」として売却されるようなことは決してしてはならないと思います。
施設数は減らない、
面積を減らせないのでコストも下がらない、
建て替えを機にこどもの教育環境を充実できない、
防災機能が心配、など、学校施設の複合化は、必ずしも、期待された効果を発揮できない一方で、私たちが、公共施設の整備に際して、最も、注目しなければならないのが、平成33年2021年に、建て替え及び、大規模改修にかかる費用が約255億円とピークをむかえることです。
2016年の⼤⽥区公共施設⽩書による試算では、「今後10年間の建て替え及び大規模改修にかかる費用の年額は、平成33年(2021年)に約255億円とピークをむかえます。
2016年からの45年間で要する公共施設の更新費⽤の総額は約 6,047 億円(年平均約 134 億円)が⾒込まれています。これは、過去10年の平均の1.4倍のコストです。
建て替え時期が集中しないよう、平準化するのも複合化のメリットと言っていますが、平準化どころか、複合化することで、ピークをさらに大きくするのです。
入一小なら、まだ使えるエセナが入り、新設の文化施設、子育て支援施設がはいり、赤松小なら、出張所、東調布中なら図書館が加わり、単体での建て替えより負担が大きくなります。
ピークのこの時期に安易に複合化すべきではありません。
学校という容積率に余裕のある施設での複合化は、まるで、学校単体でたてるより、さらに建設工事案件を増やすために行っているようです。
しかも、
エセナおおたも、千束出張所も複合化した施設の中に入ると言われていますが、移転した後どうするか、決まっていません。
区長は平成24年の第三回定例会で、複合化によって不要となる施設や土地について、「売却も念頭にいれて検討することも必要と考えるがいかがか」という質問に、「老朽化した施設の改築には時代にマッチした在り方を見直したうえで、施設の複合化などを進め、活用予定の無い財産については、売却も検討することが必要と考えております。今後も区民サービスの向上と区財政の健全経営を両立させてまいりたいと思います」
と答弁しています。
財政的効果のない複合化は、まるで、「未利用の土地」を作るために行われているようにみえます。
一方で、この間、大田区は、
・165億円で羽田の跡地を購入しながら、土地は破格の安値で貸出し、できた建物の床を借りる
・ラズ大森も、行政目的を理由に、大森北地域庁舎を置きこむからと、行政目的を理由に土地交換までしましたが、結局、民間事業者に定期借地で土地を貸し出し、図書館も、入新井集会室も、出張所も、借りている
・池上図書館も買うほうが借りるより安いからと土地・建物を取得したにもかかわらず、池上駅ビルの床を借ります
複合化で、施設の延べ床面積の縮減やコスト削減を行うと言いながら、施設数や延べ床面積を増やしているだけでなく、
施設を集約し、周辺の公共用地を未利用地にしている一方で、
民間の建物を借りて、公共施設を増やしていて、矛盾しています。
④そこでうかがいます。
大田区は、
・行政が財産を保有し、区民サービスを提供することと、
・民間の施設を借りて区民サービスを提供することでのコストの違いをどうとらえていますか。
A 民間の施設を借りれば、時間をかけずに施設を整備できる
明確にする時期に来ていると思います。
行政財産には、固定資産税がかかるわけではありませんから、いまある場所で、余裕をもった建て替えをすべきだと思いますし、売却という言葉を出す前に、大田区が行うべきことはたくさんあると思います。
そもそも、こうした施設整備に際し、住民サービスを提供するにあたり、どの程度の公共施設が適正規模なのか、大田区として区民に示すべきです
まるで、不動産屋のように、施設を一か所に集めて、できた土地を売ったり貸したりするほど、大田区の財政は厳しいのでしょうか。
売らなければ財政が維持できないのは、無計画な施設建設や財政運営が理由ではないでしょうか。
そうなると心配なのが、福祉や教育費が削減されるのではないかということです。
複合化でさらに重くなる建築コストが福祉教育財源を圧迫
⑤ そこでうかがいます。建設のピークを迎え、増える建設コストが、福祉や教育などの財源を圧迫するのではないかと心配です。
福祉や教育のサ―ビス を確保し、適正なサービスが提供できるように、公共施設整備をしていますか?
ここままの施設整備では、今も足りない福祉や教育財源をさらに圧迫することになりませんか?
A 財源は十分確保していて、増えてさえいる
⑥ 学校を建てても、福祉施設を建てても教育費や福祉費は増えますよね
A その通りです。
大田区は老朽化した施設の更新時期のピークに入っています。
ピークにも関わらず、築60年未満のまだ使える施設と複合化すれば、一時的な財政負担はさらに大きくなるばかりでなく、その分老朽化した施設の更新は先送りされます。
学校施設の複合化の方針をみなおし、
● こどもの教育環境を優先し
● 区民の福祉や教育サービスをしっかり確保していたずらに建設コストを増やすことなく
責任ある財政運営のもとの施設管理をもとめ質問を終わります