依頼を受け団体会報に掲載した記事です。

【自治体から見た財政構造と意思決定における日本の政治課題】

言うまでもなく、東京都は日本で最も税源の豊な自治体であり、都道府県の中では唯一国からの交付金をうけない不交付団体だ。

ほか、不交付団体は市町村で54。この地域に住む住民の割合は、日本の総人口のわずか11%にすぎない。

しかも、23区を除けば、今や交付団体は日本の総人口のわずか3.6%にしかならない。

この東京の区部をけん引役として人・物・金を集中させているのが今の日本の政策と言えるだろう。

しかし、不交付団体と言っているもののその中身をみれば、23区も決して楽観できるものではない。

国から語られる日本の政治課題は多いが、地方自治体からみた日本の政治課題と言えば、財源と権限という論調に終始しているが、ここでは、「地方自治体から見た日本の財政構造における政治課題」について私見を述べる。

 

【消費税増税分を社会保障制度に充てる際の不安材料=公共インフラの整備費】

平成23年度大田区一般会計決算審議にあたり、大田区の公共建物・道路・橋・公園・清掃工場等が適正に維持管理できていないことをデータから指摘した。たとえば、平成23年度に大田区が整備した区道は、区道総面積で割り返すと530年という気の遠くなる数字になる。大田区は、区立小中学校を毎年2校ずつ整備すると築75年以内に整備できると言ってきたが、財政悪化により1校ずつに変更した。これによって、築100年たっても改修できない小中学校が出ることになる。

消費税増税の際、政府は、その使いみちを社会保障制度の拡充と説明したが、国会答弁から、5%のうち1%強は社会保障制度拡充に使うが、それ以外は赤字国債発行抑制のために投入すると解釈できる。

この答弁がその通りだとするなら、消費税地方交付分がちょうど1%強にあたるため、国は、赤字国債発行を控えるために消費税増収分を使い、社会保障制度拡充の責務を担うのは地方自治体だということを意味する。

ところが、大田区がふたを開ければ、これまで整備してきた公共施設が財政を大きく圧迫しているわけで、これが、社会保障制度の拡充に使われるかは非常に危うい状況にあると言っていい。

大田区では、私の指摘に対応する形で施設整備計画を変更すると言っているが、変更は26年から。ちょうど、消費税増税の初年度にあたり、消費税増税を当て込んだ計画と指摘されてもおかしくない。

【自治体の縦割りが国の借金を増やす財政のしくみ】

現有インフラの適正管理に問題があるにも関わらず、大田区は、積極的に大規模な公共工事に取り組もうとしている。

JR蒲田と京浜急行蒲田の間を結ぶ新線蒲蒲線、羽田空港跡地の開発、蒲田・大森駅前開発など建設・土木公共工事計画が目白押しである。

これら大規模な公共事業は、自治体単独財源ではなく、都道府県、国の補助金が投入されることが多い。

たとえば、蒲蒲線の総工費は試算で1,080億円だが、国、都・区、事業者(鉄道会社を指すと思われる)各1/3の負担を想定しており、大田区は東京都とともに1/6ずつ180億円を負担する。

自治体がこの180億を負担できるかという問題もあるが、一方で、国負担が360億をどう考えるかである。

これまで、自治体は、大規模事業に取り組む際に、都・国の補助金を引っ張ってくることをもって自治体負担が少ないことをよしとして議会に同意を求めてきた。

都の補助金も国の補助金も国民の税金であるが、そこには自治体職員の縦割り意識しか存在しない。国はその財源を赤字国債にたよっているから、結果として、借金を積み増すことになる。国の財政赤字は国の税金の使いみちや地方交付材の問題だけでなく、自治体発意の公共事業において、自治体負担で無い国や都負担よしとしてきた縦割り文化にもある。

【財政規模が増えながら積み残される都市部の課題、保育園待機児・特養待機者など】

しかし、都市部における自治体財政の課題は公共施設整備の問題だけではない。

労働力人口の減少は国家的課題だが、特に都市部における子育て支援は経済状況悪化という側面によりさらに重要な政策課題となっている。特別養護老人ホームの待機者も、高齢化は突然始まったものではなく、従前から予測されていたことでありながら、解決できていない。

保育園の待機児も特別養護老人ホームの待機者も都市の人口が集中している地域ほど深刻な課題となっている。

日本の中でも最も財源の豊かな地域であると言われている23区において、保育所の整備も特別養護老人ホームの整備もニーズが追い付いていない状況だ。

財政的にいえば日本のけん引役と位置付けられている不交付団体のエース23区だが、施設整備の先送りと公共サービス支給抑制により、公共事業財源をねん出し表面上の「けん引役」を取り繕っているというのが実態だ。

それでも、この10年でみれば、自治体財政規模は拡大している。たとえば、大田区で1900億から2300億に約400億円も増えている。

民営化や民間委託によるコスト削減の効果が、団塊世代大量退職により最終的に表れてよい時期であることを考えれば、新規需要に投入できる実質増えた財源は400億を更に大きく上回っているはずだ。

 

【借金を消費税で賄えば税率25%という試算】

地価が高い、人が多いことを理由に23区民は多くの公共サービスを「我慢」させられてきているが、地価が高いということは、固定資産税の税収が多いということで、人が多いということは住民税の税収が多いということだ。地価が高い、人が多いは言い訳にすぎず、税金の使いみち、優先課題が違っていたということを指摘しなければならない。23区で提供できない公共サービスを他のどこの自治体で提供できるというのだ。

国は、消費税率5%は欧米に比べ低いと説明しているが、借金を消費税で賄うなら、平成23年度で税率は25%必要という試算になる。税率が低いからではなく、25%の税率でも優先順位を変えなければ、今の状況を変えることはできないのであり、優先順位の違いを指摘しなければならない。潜在的国民負担率は54.8%。累積債務1,100兆円まで含めれば、まぎれもなく日本は高負担の国である。

都市部に人と物と金を集中させ東京都をけん引役として日本の経済を引っ張っていくというのが、今の日本の政府の政策だが、ふたを開ければ、財源の豊かな地域で基本的な公共サービスを我慢させられた上に成り立っている虚構の豊かさで、住民生活はその恩恵をうけていない。

【地方税増税により取り繕われる制度の破綻】

この間、高齢化や経済悪化を理由に地方住民税を上げてきたが、税収増の恩恵を一番受けた都市部において、さらに待機児や待機者は増える結果になっている。増税の結果、23区は対面を保つ形で、表面上不交付団体となっているが、公共サービスの制限的給付によりかろうじて成り立っているというのが現実だ。

けん引役である23区の財政からみれば、日本の制度が破たんしていることは明らかだ。

今回の消費税増税も、税の使い道を変えないなら不交付団体を維持するための、延命策に過ぎず状況はさらに悪化する。

国と自治体が相互に依存する形で成り立っている日本の財政構造は、地方自治体の需要が国の需要を喚起し、足りなくなれば国からもらう、国が足りなければ国債を発行する。地方自治体の財政が悪化し、自治体すべてが交付団体になり制度上の矛盾が生じるとなれば地方税を増税し、地方自治体=特に23区を不交付団体にすることで維持している「上限(財政規律)」無き構造だ。

この構造における最大の問題は、自治体需要の優先順位をつけられないところにある。自治体の政策課題が福祉も教育も環境も産業もとなれば、優先順位もあいまいで、経済対策としての「公共投資」まで基礎的自治体で担おうというのだから、さらに住民生活は劣化する。

一見よさそうに見える「バラマキ」という名の「公共投資」を続け、ばらまく資金をねん出するために、子育て支援策、高齢者政策、住宅政策などの課題が放置されれば、不公平がまん延し、生活保護は増え、その後の財政を悪化させるばかりだ。   

しかし、今や、財政の機能は、お仕事を分配することになり下がり、そこに政策的位置づけは希薄だ。自治体では優先順位無き総花的なばらまき事業執行が常態化している。

【日本の変革は自治体から】

 日本は今すぐに変わらなければならないが、そのためにまず変わらなければならないのは国ではなく自治体だ。

現在の大田区の状況は、大なり小なり、日本の自治体の現状で、それは行政だけの責任ではなく、認めてきた議会の責任でもある。

国民にいちばん身近な基礎的自治体が区民に現在の区政及び財政状況を示したうえで、政策選択の一つ一つを転換するための理解を得ていくという地道な作業の向こうにしか変革はあり得ない。

*三位一体改革の影響の検証については後日