大阪市が水道事業を民営化するためのパブリックコメントを募集している。(5月30日まで)

大阪市が水道事業を民営化するためのパブリックコメントを募集している。大阪市が民営化により、何をしたいのか、結果として私たちに何がおきるのかみてみたい。

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◆大阪市がいう6つの民営化のメリット

(1)水道管の耐震化を1.5倍のスピードで進められる
(2)受益と負担を明確にした水道料金体系に変える
(3)いっきに来る老朽化した施設更新の負担を平準化できる
(4)都心の一等地の浄水場を廃止して再開発に活用できる
(5)ペットボトル事業や海外進出などビジネス展開できる
(6)公務員から民間企業職員に身分移管し、必要な人材は委託して人件費を削減できる

(1)水道管の耐震化を1.5倍のスピードで進められる

大阪市は、民営化により耐震化を1.5倍のスピードで進められるとしている。
直営の場合、70キロメートル/年しかできないが、民営化だと80キロメートル/年。しかも民営化しないと赤字になってしまうという。

そこで、設備投資という観点から、官民シミュレーションを比較してみた。

論点その①耐震化など付加価値をどこまで求めるか
 ◆ダウンサイジングが求められる水道事業に「民営化」は適当か

下の図は、民営化期間30年のコストを総額で比較したものだ。(示された年度から5年間は同じコストが続くものとして試算した)

★図1(水道事業民営化基本方針(運営計画編)P92をもとに作成)


損益(黄色) 913⇒1733 =+820億円
人件費部分(青) 9595⇒8916=▲679億円
減価償却費(ピンク) 5842⇒5735= ▲107億円

すると、黄色部分の損益820億円のほとんどが、人件費により捻出されていることがわかる。

気になるのが、減価償却費がほぼ変わらないことだ。
減価償却費は、直営で5842億円、民営で5735億円。その差107億円とほとんど変わらない。(桃色網掛け部分)
設備投資費用が変わらないと言うことだ。

民営化したら発注単位の大型化により工事費用を5%程度少なく出来ると見込んでいるが、耐震化のペースを上げ、70㎞/年⇒80㎞/年にしているためだ。

給水収益から水需要を予想すると、586億円⇒440億円 25%ダウンしている。
にもかかわらず、30年後の減価償却費は、官民ともに増えている。

水需要は1/4も減る。
そもそも、民営化の問題意識の発端は、減る水需要に対し過剰な水道施設だったのではなかったか。

民営化案は、現状の課題 

1.高齢化や人口減少で、⽔需要(収⼊源)が減る需要増が見込めない。 
2.需要に対し、施設規模が過剰になっている。事業エリアが市域に限定されるため、成⻑が⾒込めない。

を耐震化ペースアップにより解決しているかたちだ。

すると気になるのが、水道料金だ。人口は減って、人口にふさわしい施設整備をしなければならないのだが、水の使用量は減るものの、水の供給に際し、「耐震化」という付加価値がついたため、少ない人口で多額の施設整備費用を負担しなければならないスキームだからだ。

課題、
3.水道管が古くなっているし耐震化しなければならない から、更新に多額の費用が必要 

を民営化案は、どう解決するのだろうか。

(2)受益と負担を明確にした水道料金体系に変える

論点その②水道料金は下がるか:家計負担増の新料金体系

◆橋下市長の「値下げで取りまとめてほしい」

思いだしたいのが、橋下市長が民営化の議論の中で、市長は、値下げでとりまとめてほしい と言っていることだ。

民営化すれば、経営が効率的になり、値下げにつながるのでは無い。要は、どういう絵を描いて提示するかという話が、この値下げでまとめてほしい ではないか。

水道局の民営化をなぜやるのかという市民の方への説明について今朝問われたが、施設更新については今後市民負担が増える。それを抑えていくというのが82ページに書かれている。年内にまとめる料金案も値下げの方針でまとめてほしい。水道局としては大変かもしれないが、僕は値下げを求めるので、しっかりとりまとめてほしい。

ここで、市長は、施設更新の市民負担は増えると言っている。

今後、老朽化した施設の更新を一気にむかえるからだ。

確かに市長が、値下げで取りまとめてほしいといったように、当初は値上げにならないし、新しい料金体系は一部の大口利用者に値下げになるように設定されている。

◆水道料金見直し素案

しかし、大阪市の官民収支シミュレーションは、受益と負担から、他自治体に比べ回収率が低い20~50㎥/月の利用者の水道料金を10~30円/㎥に程度引き上げようとしている。
将来は、赤の点線にしようとしているのだ。
しかも、1001㎥以上の利用者の料金を下げ、その後さらに、201~1,000㎥も下げる。

青線の時には、少量の家庭利用負担を減らし、事業負担は比較的多めという料金体系だったが、それが、家計への負担を大きくする料金体系に変わっている。消費税や各種法人関係税減免の流れと同じだ。

水道料金見直し素案について
http://www.city.osaka.lg.jp/suido/page/0000248284.html

★図2 水道事業民営化基本方針(運営計画編)P46

◆国庫補助金頼みの水道料金アップ回避

しかも、管路耐震化ペースアップに伴う事業費増は年間30億円程度。本来なら、1㎥あたり、8円の値上げに相当するが、国の補助金を受けることで値上げを回避している。

補助金を受けて値上げが回避されれば良いのだろうか。国庫補助金も私たちの税金だ。日本全国このペースで水道の耐震化が行われる場合、いったいいくらの国庫補助金が必要だろう。
そして、管路耐震化は、他のどの施策よりも優先されるべきだろうか。
社会保障拡充のための消費税が、水道管耐震化ペースアップのためにまわされ、福祉が目減りしてはたまらない。

水道事業の国庫補助金は、高度成長期当時の水需要の確保など施設整備の誘導から、施設整備に伴う高料金対策的なもの(*水道法逐条解説を参考に)に変わってきている。過剰な施設整備による料金負担を緩和する役割を担ったことが、過剰な施設整備を国民から見えにくくしてきてしまったと言えないだろうか。

人口減少。ダウンサイジングが求められているこの時期、民営化してしまうことで、防災対策という名の過剰な施設整備を招くことになりはしないか。

そもそも、右肩上がりを命題とする民間企業に施設規模の縮小が課題の水道事業を売り渡し、フリーハンドでダウンサイジングできるのだろうか。

(3)いっきに来る老朽化した施設更新の負担を平準化できる

★図3大阪市 今後の施設整備負担水道事業民営化基本方針(運営計画編)P54

今後、老朽化した水道施設が一気に更新の時期を迎える。
民営化は、この一気にむかえる施設更新(青の山)を平準化(桃色の山)する効果があると言っている。

ところが、民営化しなければ平準化できないわけでは無い。
債権の発行やPFIなど様々な手法がとられるようになってきた。

これを、平準化という桃色の低い山にするのが民営化だが、負担の先送りをしたということだ。

論点③負担の先送りで老朽化した水インフラ更新は解決できるか
◆人口減少社会における水道インフラの適正規模とは

問題にすべきは、減る人口で、山をどう支えるか、社会全体が今後、どの程度の水道インフラを支えられるかの検証だ。しかし、ニーズ(施設更新・耐震化)ありきの施設更新が前提になり、住民間での問題意識の共有さえされていない。

課題の先送りは、更に課題を大きくすることでもある。

(4)ペットボトル事業や海外進出などビジネス展開できる

課題は先送りしながら、ペットボトルや海外進出など、あらたな事業展開は、かなり具体的、明確に絵をえがいている。
民間企業の新事業展開は、リスクが付きものだが、住民のライフラインを担う事業者が海外進出し、失敗したら「ライフんラインだからつぶせない」にはならないだろうか。

論点④ライフラインである水とビジネスリスクは両立するか

(5)都心の一等地の浄水場を廃止して再開発に活用できる

減る水需要に対し、施設の縮小として唯一提案されているのが、柴島浄水場の廃止だ。
★4

しかし、この提案は、水需要に対する適正な施設規模という観点から提案されていると言うよりは、土地の利活用に基づく再開発の要請のように見える。

水需要の予測が民営化は30年でありながら、水需要の予測が平成42年と中途半端であること。編時点での水需要132万㎥/日に対し、129万㎥/日とわずか2.3%程度の削減しか見込んでいない。★1図の給水収益25%ダウンの収支シミュレーションからみても予測値の想定の仕方には疑問が残る。

しかし、この施設廃止も、民営化でなければ出来ないわけではない。

確かに水道施設は廃止になるが、再開発による公的負担が増す。
日本の再開発は、公的負担を伴うからだ。
柴島浄水場の廃止は、水道会計にとってメリットになっても、大阪市一般会計にとってマイナスなら、全体での市民への影響も検証すべきだ。

論点⑤ダウンサイジングは十分か


(6)公務員から民間企業職員に身分移管し、必要な人材は委託して人件費を削減できる

いちばん、明確に、具体的に示せているのが、職員数削減計画だろう。
損益820億円の大部分は、人件費削減による679億円。1年あたり23億円。

技術の継承が課題としながら、肝心の技術力が必要な部分は業務委託によるコスト削減が優先され、技術は研修所を建設することで保持すると言う提案だ。

公務員の非効率性をターゲットに、正規職員が派遣社員におきかわり、社会全体でみれば、子どもや孫の世代の就労の場が縮小されるという構図だ。

確かに、非効率的な部分は改めなければならないが、技術の継承を課題にしながら、派遣社員が水技術を支えることで問題が解決できるだろうか。

水道民営化の課題は、対人口としても、また、財政的にも過剰になってきている水事業をどう維持管理していくのかと言う問題だ。そして、それは、水事業だけでなく、他の施策も含めた優先順位の中で、考えるべき問題だと思う。
今、日本が抱える多くの問題は、個々の是非が非常に小さな利害関係の中で語られ、結論に導びかれている。
それが、結果として問題を矮小化させ、課題の先送りを招いていることが少なくない。

公務員を辞めさせて溜飲を下げ、水道の民営化などということだけは避けたい。

論点⑥公務員ターゲットが本題の本質か

★5図