「I 女のしんぶん」掲載記事
アベノミクス第三の矢と位置付けられている「国家戦略特区」。大胆な規制緩和により、世界で一番ビジネスしやすい街を作ろうと、東京都が都心部を「アジアヘッドクオーター特区(AHQ特区)」として国に申請しました。特区で行われる規制は、経済効果の有無で評価され、全国展開するのが前提です。AHQ特区は私たちのくらしにどのような影響をもたらすのでしょうか。 
【特区でTPPを既成事実化】

 特区は、小泉政権の時に「構造改革特区」としてスタートした規制緩和による経済活性化政策です。その後、税制や財政の優遇策を盛り込んだ「総合特区制度」にかわり、今回「国家戦略特区」として大幅な規制緩和を行おうとしています。  私は、この「国家戦略特区」による規制緩和をTPPの既成事実化と位置付けています。TPPは国際条約ですが、この条約に批准しても、実効性のあるものにするためには、法整備が必要だからです。

TPPは関税の問題だけではありません。ありとあらゆる規制を取り払うことでヒト・モノ・カネの流れを自由にして経済競争力を高めようという条約です。秘密条約と言われ、その中身がなかなか表にでてきませんが、国家戦略特区ワーキンググループがまとめた、規制緩和のメニューから、都心部への更なる集中を可能にする開発規制の緩和、雇用規制の緩和、保険診療と自由診療との併用の拡大、公教育の民間委託、法人税率のさらなる引き下げなど、その中身がみえてきます。
【規制=悪か?】

規制は、自由な経済活動を阻害する障壁と位置付けられる傾向にありますが、それでは、すべての規制が悪でしょうか。規制は、私たちの社会秩序の維持し、生命の安全、環境の保全、消費者の保護といった行政目的のために作られています。経済活動にとって邪魔だと言われている規制は、一方で、私たちの生命や環境等を守るために存在しており、安易に規制を取り払えば、私たちの暮らしに与える影響は少なくありません。

AHQ特区では、外国企業を東京に呼び込むため従業員が自国にいるのと同様に医療・教育等が受けられるように、という名目で規制緩和を行おうとしています。先進的な抗がん剤や医療機器が一部保険負担で使えるようになることは、一見良いように思いますが、お金の有る無しで受けられる医療に違いが生まれるなど、公平性はじめ問題は少なくありません。安易に併用をみとめれば、医療保険会計が悪化し・制度が崩壊する可能性があります。

インターナショナルスクール整備の背景には、公立学校の民間委託や株式会社の教育産業への参入といった問題があります。特区は、規制緩和すればどう経済が活性化するかという視点だけでなく、規制緩和した後、私たちのくらしにどのような影響がうまれるかを見極めることが大切です。
【大規模資本に有利な優遇策】

試験的に、一部だけ行うから、と進められてきた特区ですが、特に、人口の集中する経済の中心東京で行われる規制緩和は、与える影響も大きく「特区」という範囲を超えています。  AHQ特区の区域では、既に、総合特区制度の優遇策を使い、大規模な施設整備が進められています。法人事業税・不動産取得税・固定資産税・都市計画税などの全額等の減免や利子減免といった極めて好条件の優遇策が、都心部選りすぐりの一等地、しかも、近い将来新駅設置やオリンピックなど需要が見込まれる地域を中心に展開されています。しかし、これを受けるためには、多国籍企業で事業実施期間に資本を5億円以上増加させる見込みがあるなどのハードルを越えねばならず、大資本に有利な条件になっています。 【都民の関与無き地方法人税減税など】   これらの減免策は、東京都や23区の税収が減ることを意味しますが、東京都や23区の住民の意見が反映される場面は無く、総理主導で進められています。景気が良くなり最終的に税収は増えるという理屈のようですが、試算は行われていないので、減税分がどう補てんされ増えるのか、都民は確認することもできません。

地方税法は、「地方税の税率などを決める際には条例で決めなければならない」つまり、条例による都議会の議決が必要としていますが、東京都は、これを議決の不要な局長の要綱で定めています。

 憲法第95条は、一部の自治体を対象とした法律を制定する場合には、住民投票が必要であると定めていますが、政府は、全国どこでも適用できる法律だから(一部では無いので)不要であるとしています。それなら、規制が全国的に変わるのだから、パブリックコメントなどの意見公募の手続きが取られるべきですが、それも行われていません。
【都民や国民の関与も無く】

 社会秩序を維持し、生命の安全、環境の保全、消費者の保護のために作られた「規制」が、経済活動にとっての「障害」だからという理由でいま取り払われようとしています。国民生活に大きな影響を与える制度改正は、憲法も法律も、きちんと住民の声を反映させる仕組みを定めていますが、「特区」というあいまいな概念によって民主主義の手続きが無視されようとしています。