次にTPPについて伺います。
2010年のAPECにおいて交渉参加に向け関係国との協議に着手することが正式に表明されましたが、その後の議論は、少なくとも市民の間では進んでいないように感じます。昨年12月の大田区議会4定において「国民の理解は十分になっているとは言えない」という答弁から区長も同様の認識であることがわかります。
大田区議会において、これまで取り上げられてきたTPPの問題も
①海外市場の開拓や国際競争力の強化、特に輸出をメインにしている区内企業にとってメリットといった論調と。
②アメリカの多国籍企業が何の制約も受けずに日本で企業活動を行うことによる、日本の食や農を始めとした分野への打撃=食料自給率の低下と就労が減るといった区民生活への影響というデメリットを対立軸に掲げたかたちでしか語られてきませんでした。
こうした状況の下、区長は、「今後どのように推移していくのかを注視し的確に対応してまいりたいと考えております」と答弁してきたわけですが、区長の意味する「注視」し「見極める」とはいったい何をすることでしょうか。
たとえば、大田区産業経済部は、内閣官房の資料を使い、「TPPの場合、特定のセクターの自由化を除外した形の交渉参加は認められない」とTPPがFTAのさらに例外なき貿易協定であると説明しています。
アメリカもTPPを米韓FTAをさらに厳しくしたものと説明していますので、TPPを知る上で米韓FTAの内容について特徴的なものをいくつか列挙してみます。
外国資本から訴えられる可能性があり、しかもアメリカに有利と言われているのが「投資家対国家間の紛争解決条項=ISD条項」です。
米韓FTAにおいて韓国では、国内調停機関よりFTAが優先されますが、アメリカでは国内法が優先されているそうです。仮に日本が同様の条件でTPPに加盟した場合、日本の法令ではアメリカ企業を規制できなくなります。
米韓FTAには、ラチェット条項と呼ばれる規制緩和したら二度と元に戻すことができない不可逆条項があります。
仮に、米韓FTAと同じ条件でTPPに参加すれば、大田区民に不利益が生じることが判明しても、大田区が条例により、また政府が法令により規制をかけることはできませんし、国として規制緩和をもとに戻すこともできません。
米韓FTAには「未来最恵国待遇」と呼び、FTA締結後に韓国がアメリカ以外の国とアメリカより有利な条件を締結したら、自動的に、アメリカに対してもその恩恵を与えなければならないという条項もあります。貨幣価値も制度も文化も異なる国同士の取引において、国内状況は全く配慮されずに経済取引ルールが構築されることになります。
また、米韓FTAでは知的財産権を巡る紛争に対してアメリカが直接規制することができるようになっています。このことは、音楽、映画、ゲームなどデジタル著作物の利用への規制などとして取り上げられていますが、仮に、同様の条項がTPPに盛り込まれれば、著作権侵害が疑われる品目の自動搬出停止などの条項もあることから、すぐれた技術を武器に競争力を確保している区内企業への影響も無視できません。
また、米韓FTAでは、NVC条項(Non-Violation Complaint)という、米企業が利益を得られなかったら米政府が韓国政府を提訴できる条項があります。ルールを守って韓国が利益を上げ、米企業が負けたら、米が韓国を提訴し賠償金を求めることができる。という条項です。仮に日本が同様の条項をTPPに盛り込めば、大田区の企業が競争力をつければつけるほど、国がその賠償責任を負わなければならないという矛盾した条項になります。
・しかも、米韓FTAには、アメリカの車が売れなくなった場合には、アメリカだけ関税を戻せるスナップバックという条項があります。この権利は韓国にはありません。仮にTPPが締結されたとき、日本の自動車産業を支えている区内企業が頑張って競争力をつけても、最後に、アメリカが関税を大幅に引き上げてしまえば、その努力が泡になる可能性があるのです。
しかも、これらは、交渉に入るまで中身を提示されません。交渉に入る前に、最初に提示するとそれがネガティブリストとして除外されますが、はたして、除外項目をすべて列挙することは可能でしょうか。何をネガティブリストにすればよいのか国に提言さえできないのが大田区の現状ではないでしょうか。そのうえ、いったん交渉に参加したら、90日間発言することはできず、その後、抜けることもできないのが米韓FTAと聞いています。