【公設民営学校】教育の規制緩和の論点◆国家戦略特区の規制緩和のメニューから

国家戦略特区法が成立し、規制緩和の内容が明らかになっています。
旅館業法、医療法、建築基準法、農地法、土地区画整理法、都市計画法などに加え、附則に、公立学校を民間委託できるよう自治体と協議のうえ1年以内に整備しなさいという条文が加わりました。
公設民営学校の論点はどこにあるでしょうか。 ____________________________________

  国家戦略特区の目的は、世界で一番ビジネスしやすい環境を作ることです。
国家戦略特区の政府の説明には、グローバル人材の育成等の多様な教育の提供のために、公立学校運営の民間開放(公設民営学校)と記されています
確かに、私立の学校の中には、公立学校には無い、さまざまな特徴をもった学校があります。公立学校以外のほとんどの学校は学校法人が運営しています。
それでは、公設民営学校とは、学校法人に公立学校の運営を受託させるための規制緩和でしょうか。
私は、公設民営学校を可能にすることは、株式会社が、広く、公私含めた教育という「産業」に参入する一つの段階ではないかとみています。
株式会社から見れば、「教育産業」参入には「学校法人」という一つの「規制」があります。
「学校法人」は、剰余金の分配や残余財産の処分をしないことをもって非営利とみなされ、法人税、固定資産税などの減免措置があるうえ、補助金などの財政支援も受けられます。 一方の株式会社は営利ですから、それらの優遇措置を受けることができません。
株式会社の学校運営は、すでに認められていますが、税財政優遇策をうけられないため学校法人に比べて不利になっているわけです。
たとえば、公設民営学校を求めている「新しい学校の会」とのヒアリングの議事録を読むと、そのあたりの問題がわかります。
以下、国家戦略特区ワーキンググループ議事録より
全日制の学校は学校法人ばかりであり、税金はかからないし、固定資産税もかからない のである。さらに都道府県によって違うのだが、高校だと一人30万円ぐらい補助金がもらえ る。だから、1,000人生徒がいたら3億円もらえる のだが、株立ではそれらが全くない。
ずっと頑張っていたのだが、5年ぐらい前に、借金が多くなり、もう学校は潰れるしか ない状態となったため、学校法人に移った。そうすると、まず法人税、固定資産税を払わ なくていいし、助成金も大きく、一応経営は軌道に乗った ということである。
だから、学校法人になりたかっだけではなくて、そういう制度上の必要性で株立から学 校法人に移行されたということで、実は私どもは15法人あるが、このうちの3法人ほどが 学校法人に移行しようかというようなことを検討されていると聞いている。どちらかとい うと多様性、ダイバ-シティを保持するというよりは、むしろ逆の方向に行っている、モ ノトーンな感じに行っているのかなと思っており、非常にそれは残念なことである。株立 12の学校が大多数になるということはないと思うし、その必要もないと思うのだが、10校あ ったら1校が株立の学校だったりする、もしくはNPOでもいいと思うのだが、そういうもの で大分風通しがよくなるということも間違いないと思う。 株式会社が学校を経営していたが、学校法人のように、法人税・固定資産税はかかり、補助金は受けられないので経営が厳しくなった。そこで、学校法人にしたところ経営が軌道に乗った。と言っているわけです。
そこで、税財政措置が受けられるまでの第一段階として、一定の売り上げ=委託料を確保できる公立学校への算入規制を緩和させようというのが、公設民営学校を可能にするための目的ではないでしょうか。

これは、保育園の民間委託の時と非常によく似ています。
認可保育園という厚い補助を受けられる保育園は、基本的に「社会福祉法人」でなければ算入することができませんでした。
大田区が、一番最初に区立保育園を民間委託したのが、平成16年4月ですが、西蒲保育園は、株式会社日本デイケアセンター、山王保育園はピジョン株式会社が受託しています。 大田区が、区立保育園の運営について、民間事業者に委託金(=受託事業者からみれば売上金)を定めて運営させるのが、民間委託です。
しかし、今では、厚い補助を受けられる認可保育園を、株式会社が運営するようになっています。
保育の分野に引き続き、学校という「教育産業」が民間に開放されようとしています。 まず、手始めは、公教育。引き続き、学校教育すべて。
公益法人は、医療や保育、教育など、命や安全、権力からの独立などを求められる分野において、一定の役割を果たしてきました。しかし、一方で、一旦運営を開始すれば、新規参入は容易ではなく、既得権といった見方も否定できません。
民間参入にあたり、株式会社は、競争相手となる教育法人についているハンデをなくしたいと考えています。
しかし、学校教育を民間開放するに際しては、
①公的分野における民間開放は、誰(学校法人、株式会社、NPO等々)にどこまで(民営化・民間委託・指定管理など)認めるのか。 ②税の優遇措置はどう考えるのか ③補助金はどうするのか
などの問題について整理する必要があるのではないでしょうか。
株式会社の教育分野への参入で言われる税の減免措置について、株式会社の保育分野への参入の時には、聞きませんでした。保育士の低賃金が問題になりますが、低賃金が株主配当を支えているのかもしれません。
特に、政治的中立性の確保が求められる公教育における民間参入は、消費者に受ける教育のみならず、「政府に受ける」教育へとはしる可能性があります。
国家戦略特区における規制緩和には、教育委員会の廃止という提案もあります。 産業界は、地域住民の意向を反映させるための教育委員会を無用な「規制」ととらえているとうことです。