条例では、特に事業を限定していませんが、区は、現在東京都と協議中にある特定案件への貸し出しを前提に議案説明を行っていますが、条例は、区の規則であり、特定の法人の案件を前提とした議案説明には違和感を覚えます。
区は、
「協議が既に始まっている案件であっても、条例が制定されれば、貸付ける」
「根拠は、平成20年9月12日の『介護老人福祉施設整備費補助に関する基本方針』において、この貸付についても検討すると言及しているから
と説明しましたが、基本方針に示されているのは、利子補給・借地借り上げに対する補助であり、土地取得についての資金貸付けには言及していません。
区が説明した、地価が高いため都心部における特別養護老人ホーム設置が進まないという事情は理解できます。
この問題は、都心部において、共有する課題ですが、実際に、同様の条例を設置しているのは23区中渋谷区と足立区の2区だけ。しかもこの条例をにより、施設を作ったのは、足立区1区にとどまります。
一般に、特養建設に おいて、資金調達の際には、比較的低利の独立行政法人医療福祉機構(医療福祉機構)、あるいは、民間の金融機関を使うことになります。
土地が高額のため、借入金で、土地を購入すれば利子負担も大きいのでさらに低金利で区が貸そうということなのだと思いますが、貸すということは、貸し倒れるというリスクも区が負担することになります。
そのため、「貸付基準」「貸付・返済条件」などの大まかな方針を明らかにするとともに、「抵当権の順位」や「担保」などなについての考え方も条例改正のこの時期に示せなくてはなりませんが、何一つ文書で示されたものはなく、単に、条例改正により、社会福祉法人に対してお金を貸すことができるようにしますというのでは、余りにあいまいです。なんら基本的な融資の枠組みが示されていません。
医療福祉機構は民間金融機関に比べ、利率は低いものの、新規参入者への融資が認められていないなどの制約があると区は説明します。
大田区のこの制度が、新規参入者への参入障壁を取り外す役割としては、一定の評価をするものの、同時に新規参入でのリスクをどのように回避するかということが福祉事業を安定的に行う責務のある大田区として、また、区民の税金を貸付ける大田区としてもさらに重要であり、それらが十分に示されていない現時点での条例化には賛成しかねます。