国家戦略特区は、そもそも「特区」という枠組みを超えているのではないか。
国家戦略特区の最大の論点は、ここにあると考えています。

国家戦略特区は「特区」か
国家戦略特区により、
「特区内の」雇用が変わり、医療が変わり、教育が変わり、公共調達が変わり、税制が変わる可能性があります。
本来、制度を変える必要があれば、法改正をすべきところですが、構造改革特別区法以降、「特区」は、特別区法で対応してきました。
(日本全体ではなく)「特区」という限られた区域だから、試行的に変えるだけだから、とこれまで、「構造改革特別法」や「総合特別区法」という新しい法律を作り、いくつもの規制に一括で対応してきた「特区」ですが、国家戦略特区にその理屈があてはまるでしょうか。
国家戦略特区は新法「(仮)国家戦略特区法」で対応可能か
「(仮)国家戦略特区法」での一括改正でなければ、それぞれの規制緩和に必要な、各法律を改正する必要があります。
先日の内閣府とのヒアリングにおいて、担当は、根拠法の無い国家戦略特区について、新法一括か、個別法の法改正で対応するのか検討中であると言っています。
しかし、8月18日に提案募集が始まり、9月11日に締め切ったうえで、その提案の決定と法改正がほぼ同時期の10月というるタイミングから考えれば、各法律の改正ではなく、一括新法で対応する可能性が高いのではないかと私はみています。
新法一括と各法改正の違い   ~経済発展の目的に見えなくなる特区における医療や雇用等への影響~
それでは、(仮)国家戦略特区法による新法一括で対応するのと、規制緩和に関る各法律を個別に改正するのとでは、何が大きく違うでしょうか。
新法一括で対応となると、たとえば、総合特別区域法に基づく総合特区の場合、
第一条の【目的】に、我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展を図るため、・・・・もって国民経済の発展及び国民生活の向上に寄与することを目的とする。
と記されているように、経済発展のために適当な法律かどうかという部分が注目されます。
私たち国民も、国民健康保険法が変わるとか、労働契約法が変わる、学校教育法が変わる、固定資産税が変わるとなれば、気になり注目しますが、(仮)国家戦略特区法となると良く分からない。経済が活性化するのだから良いんじゃないか。その程度の意識ではないでしょうか。
審議する国会議員も、規制緩和が医療や雇用や公教育や税制だとしても、景気が良くなる「経済発展」の法律なら賛成。になってしまう可能性は無いでしょうか。
個別の法律改正であれば、その法律本来が持つ目的に照らし合わせ、健康保険はどうなるか、最低賃金はどうか、学校はどうか、税負担は?税収は?議論が高まりますが、新法をつくり、一括で議決することになれば、規制緩和の国民生活への影響は見えにくくなります。 あるいは、あえて、その部分は見えなかったことにして、通してしまうかもしれません。
国家戦略特区がTPPの既成事実化だという理由
私は、かねてから、国家戦略特区が、TPPの既成事実化ではないかと言っているわけですが、それには、いくつかの理由があります。
条約は批准しても執行されない
TPPは条約ですが、条約は、法律の上で憲法の下になります。
当然、条約に批准すれば、それにしたがった法整備が必要になります。
しかし、日本の実態はどうかと言えば、ほめられたものではありませんが、必ずしもそうはなっていません。
たとえば、「子どもの権利条約」は批准していますが、現在の日本が「子どもの権利条約」の主旨にのっとり法整備がおこなわれ、子どもの権利が守られているかと言えば、残念ながらそうなってはいません。
条約に批准していながら、その条約が守られる状況を作るための法整備が進んでいないのが今の日本です。
ここでのポイントは、たとえ
条約が批准されたとしても、法律が無ければ執行されない
ということです。
これは、非常に重要です。
米韓FTAで60もの法律を改正した韓国
米韓FTAの批准に際し、韓国は60もの法律を改正したそうです。
仮に、TPPに批准したとしても、日本の国内法が整わなければ、TPPはこれまでの条約と法律の関係でいえば、即、施行とはならないのです。
批准してそのまま放置されないよう、条約という外枠への関与だけでなく、内政に深く影響を与える企業が国を訴えることのできるISD条項があるという見方もできるかもしれません。
国家戦略特区における新法の役割  ~TPPに必要な法整備を「国家戦略特区に関る新法」というかたちで整備する。それが、国家戦略特区までの「特区」の本質ではないか~  
こうした状況において、国家戦略特区の新法は、どのような役割を持っているでしょうか。
◆必要な法整備の本質を私たち国民に見えないように行えるという役割
◆そして、それを補完する役割が「ラチェット条項」
【ラチェット条項】いったん規制を緩和すると、もとには戻せない約束
たとえ、それが、国家戦略特区という施行施策であったとしても、いったん法律で担保されれば、日本の制度上は、「効果が認められれば全国展開」だとしても、【ラチェット条項】により、もとには戻せなくなるのではないでしょうか。
この秋に、TPPに必要な法整備を「国家戦略特区に関る新法」というかたちで整備する。 それが、国家戦略特区までの「特区」の本質ではなかったのでしょうか。
国家戦略特区が「特区」を超えている理由
共産圏における香港であれば、「一国二制度」という「特区」の考え方もありますが、自由主義経済における「規制緩和」は、「法の下の平等」といった論点からも、なじまない考え方です。
「特区」が最初に導入された「構造改革特別区法」制定時に、当時の小泉総理が答弁した通り、「地方の自主性」「地域主権」に基づく考え方でスタートしたのが「特区」でした。
結果として、「構造改革特区」は、区域もぼ限定されており、現行制度への大きな影響をあたえるような規制緩和もほぼなかったと言っていいと思います。
ところが、「総合特区」から、特区の意味する内容が大きく変わってきます。
総合特区になり、 区域が大きく、大都市で展開、都道府県内の複数の自治体にわたる、あるいは、都道府県を超える指定が行われるようになりました。
   都市と地方の格差が叫ばれている現状で、どちらかと言えば、良い7地域が国際戦略総合特区に指定されています。
しかも、日本の経済のけん引役と言われている東京、その中でも中心の23区が、アジアヘッドクオーター特区に指定され、税制優遇により外国企業を呼び込もうとしています。
23区は、人口にして全国の6.9%。経済規模にして、小売販売額で9.9%事業所数で9.6%を占めています。
国際戦略特区における目的は、外国企業の誘致ですが、現時点でも日本全体の7割を大きく超えていますから、東京で行おうとしている特区の規制緩和は、ほぼ日本全体の制度を変えることだと言っても良いと思います。
区域も広く、バーチャル特区という物理的区域に限定しない考え方も積極的に提案されている今回の国家戦略特区は、すでに「特区」という範疇を超えているのではないでしょうか。
東京23区内で展開されている「アジアヘッドクオーター特区」で行われている固定資産税、法人税、都市計画税などの10割減免は、今後5年間続くことになっています。このままTPPが批准されたとき、ラチェット条項が発効し外資系企業は、未来永劫これら地方税の減免の恩恵を受けることになるのでしょうか。