未だに検証されていない自治体業務の外部化の効果~構造改革から10年、今こそ検証すべき時~

自治体外部化(民間委託・民営化)すれば経費削減効果があがり、その分を住民サービスにまわせるからと支持しているのが多くの住民の考え方ではないだろうか。ところが、数字からそうした効果は証明されていない、と聞いたらどう思われるだろうか。少なくとも大田区の場合には、検証されていないし、今のところ検証するという情報はない。

【外部化は財政悪化の解決策か】

平成23年、大田区で外部化の効果について議会質問したが、検証できていないという答弁だった。

国家戦略特区では、様々な公的サービスを「規制緩和」により民で担えるようにしようとしている。
①国家戦略特区による規制緩和は、経済政策だから、自治体財政やサービス向上が目的ではないということ。
②そして、実際民営化や民間委託による効果は検証されていないこと。

ここを抑えたうえで、国家戦略特区によりどのような規制緩和行われ、それが住民生活、サービス、費用負担にどのような影響を与えるのか確認する必要がある。

ところが多くの情報は、規制緩和を行うことで利益を得る事業者から発信されている。
信頼すべき行政は、コンサル頼みの政策立案が続き自分で考える力を失っているし、事業者の論調そのままだったりもする。場合によっては、事業者と一体化していると思わざるを得ない状況もある。

こんな中で、事業者主導の規制緩和による経済政策が進み、福祉や教育等々の住民サービスが経済政策の視点だけで変わろうとしている。誰かがきちんと考えてくれていると思っていると、大変なことになる。

【効果の検証】

話しは戻って、外部化の効果質問。

(平成23年9月決算委員会)
アウトソーシングの効果につきましては、相対的な検証の数値は持っておりません。
現在、事業所管課と連携し、検証準備を進めているところでございます。取りまとめ次第、お示ししたいと考えております。

外部化(職員はアウトソーシングと言っている)の効果を大田区では証明できていないと言うことだ。
しかも、この答弁から約3年が経過しようとしているが、検証結果は未だに示されていない。

この答弁を引き出した議会質問の主旨は以下の通り。

見えにくくなっている外部化の管理、効果についてみてみたい。

外部化すれば長期的には、人件費の減少という形で効果があらわれてくる。
しかし、委託費用が増えるので、実際に外部化した際の効果は人件費と物件費(委託費)の合計がどのように推移しているかを見ると、おおよその傾向がわかる。

平成15年に人件費と物件費(委託費)との合計は692億円だったが、平成21年には658億円。6.3%減額しているように見えるから、効果があると言いたいところだが、問題はそれほど簡単ではない。

【住民から見えにくい会計処理】

たとえば、指定管理者制度という公の施設管理の手法がある。
自治体直営だった施設に指定管理者制度を導入すると直営でかかったコストは減るが、その分の指定管理料は物件費に計上される。

ところが、指定管理者制度には利用料金制というのがあって、利用料金制を採用していなければ区財政に組み込まれる指定管理料だが、採用すると一般会計から外れる。
たとえば、指定管理者制度の利用料金制を採用した特別養護老人ホームに支払う料金は、利用料金制を採用すると大田区の一般会計からはずれてしまう。

同じように区民は負担しているのに、採用するしくみが違うだけで、あたかも経費削減が行われたかのような扱いになる。
大田区での経験から、意味の無い数字を比較し効果を演出していることが少なくないと感じている。

平成15年から21年の間に大田区では、アロマの駐車場、産業プラザ、区立特別養護老人ホーム6カ所、高齢者在宅サービスセンター10カ所において、利用料金制を採用してきているから、両年度を単純に比較することはできない。
平成21年度の658億円に見えなくなった利用料金をプラスしなければならない。

【減るどころか増える費用】

ボリュームの大きい特養と在宅サービスセンターが利用料金制になった平成21年度の影響額を、区は40億円と言っているからこれだけを加えても平成21年度の比較すべき費用は698億円になる。

平成15年692億円が平成21年に698億円だから減るどころか増えている。

これは、平成15年と21年の単純比較だが、その間の費用は単純に減っているわけではなく増えている年もあるから更に目に見える効果は乏しい。

【外部化で目に見えて下がる費用=人件費】

ところが、民間委託すると目に見えて確実に下がる費用がある。
それが、人件費だ。

直営の保育園と民間委託の保育園では、保育士の給与は雲泥の差だ。

この費用の差だけ自治体財政的に効果がもたらされているのか。
この費用の差はどこに行ってしまったのか。

働かない公務員が民間に変わるのは当然という考え方もあるが、コストが減っているかの検証が出来ていない、見えてこないとするならどうだろうか。

【外部化により減った若者の雇用機会】

この10数年の外部化により、働く者の雇用の場として「公務員の現業」は確実に減った。
そして、それは、今の若者の正規で働ける雇用機会を減らしてしまったことでもある。

議員になった1期目から、受託事業者の選考基準にCSRを導入すべきであると主張してきた。雇用の安定、障害者雇用、環境に対する配慮等々。
これを守る事業者のポイントを高くすれば、「民の良さ」を得ながら、経費削減ができるのではないかと考えたからだ。

大田区では、平成15年の区立保育園の民間委託の経験から、事業者選定の際の基準に保育士の勤続年数が加わったが、そこにとどまり処遇の向上まで進んでいない。

【公は誰がどう担うべきか考える時期に来ている】

「公」は利潤追求による経済競争では担えないというところから主に「官」が担ってきた。

ところが、ニーズの多様化、財政の悪化などにより、「官」だけでは担えないと「民営化」「民間委託」が始まった。

民営化・民間委託・指定管理者制度・コンセッション・・・外部化の手法は数々あるが、実は、その効果は、導入側のプレゼンでしかない。

①非営利 「官」 憲法遵守義務のある公務員
②非営利 非営利原則を守る 社会福祉法人、学校法人、医療法人
③営利 株式会社など企業
④非営利 非営利原則を守る市民セクター NPOなど

「公」の担い手も様々で、特徴や課題を知った上で、先行する必要がある。

小泉構造改革により外部化が急激に進んで10年が経過した。
外部化により何が得られたのか。
どのような分野に適しているのか、どのような影響があったのか。立ち止まり検証する時に来ていると考える。