2021年度大田区予算から見える、大田区政の問題、国政の問題

2021年度大田区予算が、昨日(3月25日)賛成多数で成立しました。

住民税が減り、法人住民税を原資とした特別区交付金が減ると予測しているのは、リーマンショック以来のことです。

歳入から、区民の所得が減ることも、景況が悪化することも明らかなのに、福祉事業を廃止、縮小します。
人口や労働人口が減り、鉄道駅利用者数が減り、テレワークで更に減ることも予測できるのに、新空港線整備や、蒲田、大森駅周辺の開発を行ないます。

この予算を執行すれば、格差はさらに拡大するでしょう。予算案に反対した理由をご報告します。


フェアな民主主義、奈須利江です。

 

第1号議案 令和3年度大田区一般会計予算

第2号議案 令和3年度大田区国民健康保険事業特別会計予算

第3号議案 令和3年度大田区後期高齢者医療特別会計予算

第4号議案 令和3年度大田区介護保険特別会計予算

に反対の立場から討論いたします。

 

2021年度予算は、コロナの影響により、今後3年間で580億円の財源不足が見込まれることが判明してから初めて編成された予算です。

 

580億円の財源不足を見込みながら、前年度2020年度予算に比べ、2.2%、64億円増の2938億円と過去最高規模になりました。

 

予算の編成にあたり、予算案の概要には、4つの重点課題が示され、

それぞれ、

【1】  新型コロナウイルス感染症や自然災害から、区民の生命、安全を守ります

に42 億 4,614 万 1 千円

【2】安心した暮らしに向け、区民の生活を支えます

に3 億 4,648 万円

【3】  学びを保障し、子どもたちの未来を切り拓きます

に60 億 1,049 万 1 千円

【4】SDGsに貢献し、まちの魅力と産業が世界に向けて輝く都市をつくります 

に92 億 2,168 万 3 千円

 

の、合わせて198億2479億円の2021年度予算の目玉がが示されています。

はたして、この予算で、大田区が言う、

①   感染症の危機を乗り越え、

②   誰もが安心して暮らし、

③   活躍できる地域づくり

を進めることはできるでしょうか。

そもそも、活躍するしない、には他者の目が入りますが、他人に評価される生き方を、行政が強要することにも違和感を感じますが、、

 

さて、

実際に税金投入される主な事業を拾い上げたところ、

・新型コロナワクチン35億円

・水防拠点整備3億円

・職員のテレワークの機器購入数百台2億円

・校舎の改築23億円

・教科用システム28億円

・民営化保育園の施設整備費4億円

・公共施設整備48億円

・燃えないまちづくり14億円

・公園の整備9億円

・創業支援施設開設2億円

・オリンピック1億円

・羽田空港跡地9億円

・鉄道事業7億円

で、予算案概要に示されている2021年度予算案の目玉施策、198億円のうちの187億円が、物や都市基盤や箱モノに使われていて、そこでサービスを提供する人への税金投入はほぼありません。

 

 

2020年度予算に比べ、2021年度予算総額は2.2%増えていますが、

納税義務者数が同等程度にも関らず、特別区民税収が約15億円減っていて、区民一人当たりの所得が下がったことがわかります。

リーマンショック以来はじめて、区民一人当たりの税負担額が減り所得が減ったことを私たちは深刻に受け止めなければならないと思います。

ところが、それでも、大田区は、民営化をやめず、指定管理者制度や、清掃の委託の拡大を進め、安定した所得の雇用を確保する取り組みをしません。

格差と貧困は、所得の確保が何よりの解決策ですが、大田区自らが低賃金雇用を拡大し続けているのです。

加えて、テレワークによる転入減や労働人口の減少と区民一人当たり所得の減少で、大田区の特別区民税収は、大田区も予測している通り、今後も、減るでしょう。

 

そのうえ、固定資産税、法人住民税などを原資とする特別区交付金も固定資産税収はわずかに増えるものの、法人住民税は企業業績の落ち込みにより、28億円の減収を見込んでいます。

2021年度予算において、特別区民税と特別区交付金という大田区の二大一般財源とも言うべき二つの税収がともに減収になっているのもリーマンショック以来のことです。

区は、特別区交付金の減収は、令和4年には回復するとしていますが、奈須りえが、質問でも取り上げた通り、コロナの自粛要請や時短による飲食店の売り上げ減とそれに伴う卸売りへの打撃などの景況をみると、私は、早期の元通りの回復は難しいと見ています。

 区は、一時的な給付や融資をもって、中小企業を支援していると言いますが、融資の返済には3年の猶予があり、企業買収や合併など、大企業、大資本に統合される動きも加速していて、コロナによる影響はこれからあらわれる部分も大きいと思います。

「行動時間の制限」と「密を避けるための収容率」という行政からの制約により、売り上げが確保できない事業者が求めている支援は、事業規模に応じた売り上げの確保です。

制約をかけるなら、補償すべきですが、そこが出来ていない予算は、その後の影響があまりに大きく、賛成することはできません。

大田区に限ったことではありませんが、経済と生活に重要な役割を果たしている中小企業への日本の支援策は海外に比べても十分ではありません。

大田区、東京都、経済産業省、中小企業庁、財務省、国税庁に聞いて見つからなかった中小企業と大企業の税収の資料ですが、その後大田区が答弁で、総務省の「地方法人課税のあり方等に関する検討会」に日本商工会議所が提出した資料を示してくださいました。

そこから、雇用の7割、地方法人税2税の約4割を中小企業が担っていること。税引き前利益に占める固定資産税など租税公課の1社あたりの割合は、中小企業で23%ですが、大企業はわずか9%だということもわかりました。

このままいけば、合併や買収や廃業で、中小企業が大資本に統廃合されるなどして、大企業のシェアが広がるのではないかと心配しています、そうなれば、仮に税収が戻っても、税収の構造も金額も変わってくるわけで、それを防ぐためにも、中小企業や個人事業主への支援をすべきです。

 

税収は民営化も関係します。

大田区は羽田空港跡地を区民の税金165億円で買って大企業に貸し出していますが、借りている企業体は、借地なので固定資産税の負担が要りません

大田区の産業支援施設、プール、図書館、公園、伊豆高原学園などの管理運営は、指定管理者制度やPFIなどを採用していますが、コンセッションと言って、不動産を所有せず固定資産税負担なしで営利活動できるしくみです。区立保育園を民営化すると、安い賃料で大田区の施設を貸し出しますが、これも固定資産税の負担は不要です。

行政の仕事を受けている事業者は、お金儲けしながら固定資産税の負担をしていないのです。

これらの管理・運営は、NPOや社会福祉法人や地元の企業が担っていましたが、最近では大企業が増えてきています。

 

民営化における、こうした、雇用や、税収や、地域内循環経済などのデメリットをしっかり評価・検証をして、民営化は限定的にすべきです。

 

特別区民税や特別区交付金が減っている一方、増えているのが、歳入の中の最も大きな割合を占める国・都支出金です。

増えた51億円のうち、35億円は新型コロナワクチン接種事業ですが、地方分権で財源権限が大田区に移譲されましたが、実際には、より、国や東京都に依存する財政構造に変わってきていると言えると思います。

私たちは、区長会同様、不合理な税制改正で、ふるさと納税、消費税の清算基準の変更、法人住民税の国税化などにより、特別区民税、消費税地方交付分、特別区交付金の原資である法人住民税を、国が吸い上げていることを問題視しています。

国は、「地方創生の推進」と「税源偏在是正」「地方交付税の原資」などと説明してきましたが、実は、不交付団体であるにもかかわらず、大田区に入る国庫支出金の歳入に占める割合は増えているのです。

特別区に使途の自由な一般財源として入るべき特別区民税や法人住民税が、いったん国に吸い上げられ、色がつき、使途が限定されて戻ってきたと見ることもできます。

不合理な税制改正は、必ずしも国の問題だけでなく、たとえば、新空港線、蒲田駅東口再開発、大森駅西口広場や道路拡幅事業ほか、国・都の財源に依存した開発事業を進めたい大田区のような都心部の自治体の要請が招いた結果でもある、とは言えないでしょうか。

 

特別区民税も、特別区交付金も減る見込みであるにもかかわらず、大田区は、第一回定例会に同時に出した補正予算で、コロナほかで生じた執行残30億円を新空港線、公共施設整備の2つの基金に積み立てました。

コロナを理由に、都市計画審議会など重要な会議を開催せず、持ち回りで済ませ、コロナで経営悪化した区内事業者のための融資窓口の受付を中止し、環境基本計画策定業務委託を中止し、こども若者計画策定の区民説明会を中止し、乳幼児健診を延期し、防災訓練を延期・中止しています。大田区にとって、区民や専門家の声を聴き、合意形成のため説明責任を果たし、コロナ感染防止策が区民生活に与える影響を知り、乳幼児の健康を守るより、新空港線や公共施設整備の方が、優先順位が高かったということです。

また、これら30億円を積み立てなければ、15億円がこの2021年度予算に繰り越されていましたから、廃止のリフト付き福祉タクシーは1900万円ですし、心身障害児者の緊急一時保護事業の減額は3000万円ですから、十分事業を継続することができました。

 大田区は、障害児者の生活を維持するための事業より、新空港線や公共施設整備を優先したということです。優先順位が違います。

 

 しかも、大田区駅別年間乗降人員の推移をみると、半数くらいの駅で、2018年をピークに、鉄道利用者が減りはじめています。

 国土交通省は2021年1月20日「羽田空港アクセス線」のうち空港新駅と東京貨物ターミナルをつなぐ約5kmの新規区間を事業許可し、「2029年度開業」のスケジュールを示しました。

そのうえ、埼玉から多摩川線を経由する新空港線の需要はどれほど見込めるでしょうか。

 

高度経済成長期に公共施設が集中的に整備されていて、既存の公共施設だけでも、更新が困難だと言ってきたはずですが、人口減少に転じたこの局面で大田区は、国土強靭化と言い始め、新空港線、蒲田駅東口再開発、大森駅西口広場や道路拡幅事業など、さらに新たなインフラを整備しようとしています。

 

そのうえ、鉄道・都市づくり部を新設しましたが、ダウンサイジングを目的とした部署ならまだしも、いまある大田区の建物、道路、公園、橋などの維持管理更新が困難なのに、鉄道利用者数減のなか、事業を推進する必要があるでしょうか。

大田区民の住民福祉を圧迫するのは明らかです。

 

 特別区民税の減収や特別区交付金の減、国都支出金への依存体質、財政基金からの莫大な繰り入れ、区債発行などは、やむをえないからではなく、いま国、東京都、大田区で進めている施策に大きな原因があります。

区民の雇用や所得を守り、地域内経済の循環を充実させ、税収の落ち込みの要因となる、公民連携、民営化で税金の一部が投資家利益に流れる非効率な税金の使い方を見直し、少なくとも、区でできる範囲から少しずつでも政策転換をはかるべきと問いましたが、大田区は、東邦大学という非営利学校法人との連携のみを取り上げ、営利企業への税金投入や議会制民主主義の外での意思決定という本質的な問題への評価を避けました。

大田区は、民営化や公民連携の弊害を直視し、責任を自覚すべきで、気づかぬふりは通用しないと思います。

 

税負担が大きく、可処分所得が少なくても、社会保障が整っていれば、安心して暮らしていくことができます。

最低限のセイフティーネットがあり、可処分所得が大きければ、その分のリスクは自己責任になりますが、そういう社会モデルもあると思います。

ところが、今、そのどちらでもない、所得は少なく、社会保障も脆弱な社会へ突き進んでいます。

それでは小さな政府かと言えば、国債発行や基金取り崩しで莫大な金額が、インフラに投入されていて、これを止めないまま、コロナ対策の不備で低所得者をさらに増やそうとしています。

更に税収が減れば、大田区の公共施設の複合化で無理やり作った「未利用地」を売却したり貸し付けたりしなければならなくなるでしょう。

この間、企業に土地を貸し付けることでの財産収入が増えていますが、先ほどの租税公課の事例にもあるように、区民の財産をほんの一部の投資家が使い投資利益をあげているわけです。

格差の拡大も、自然に起きるわけでは無く、行政の一部事業者つまりは、その投資家への優遇が招いた結果です。

これが公有財産の適正な使い方でしょうか。

 

ベーシックインカムの議論が始まっています。今の状況から、対症療法的な視点で、お金がもらえることを歓迎する声もありますが、このまま、政策の方針転換をしなければ、区民・国民の多くが低所得者層に陥り、税や雇用を支えてきた中小企業などが減って税収がさらに落ち込むでしょう。Sのまま国土強靭化を続ければ、究極の社会保障費削減で、ベーシックインカムしかとるべき途がなくなる日が来ると思います。ベーシックインカムは、働く主権者の要請ではなく、公共分野の市場拡大を狙い、税でお仕事をうけ利益をあげようとしている投資家からの要請であり、行うべきは、安定した十分な所得の雇用の創出です。

 

今、地方議会が反対の声をあげれば、国の政策転換に影響を及ぼせるかもしれません。

 

ところが、いま、改定を進めている大田区地域防災計画では、区長が緊急事態を発令すると、災害対策本部が立ち上がり、区長のもと、「危機管理監」に情報と権限が集中するしくみになっていて、議会さえ無力化する様に見えます。

 

しかも、これまで、危機管理室長があて職でいた「危機管理監」のポストに、民間が入ることも可能なしくみに見えて大変驚きました。指摘したところ、誤植なのだそうです。 

地域防災計画には、多くの民間企業や団体が入っていて、ただ一つ議会がありませんでしたが、こちらは誤植ではないそうです。

 

選挙で選ばれた区長は緊急事態を発令すると、情報と権限は危機管理監が掌握するため、ほとんど役割を持ちませんし、もう一方の選挙で選ばれた議員で構成する議会も、組織図にありませんので、無力化するように見えます。

緊急事態になると、二元代表制の区長も議会も不在の意思決定に見えるのは、大変に恐ろしいことです。これで民主主義と言えるでしょうか。

 

2007年に産業経済部が行った大田区の産業に関する実態調査で、「プラザ合意を契機に1980年代後半から産業活動の国際化が本格化した」と産業構造を分析しています。

それ以降、民間市場だけでなく、公共分野も、外国資本への市場開放が進み、営利企業の福祉分野への参入が許されるようになり、莫大な税金が、民間事業者の投資利益・株主配当に流れるようになっています。

それを構造改革、規制緩和、グローバル化、民営化などと呼んできたわけです。

さらにそこから、国家戦略特区やスーパーシティや、公民連携や、この地域防災計画で、大企業、グローバル資本の株主利益のために、意思決定と合意形成の仕組みまで、変えようとしています。

 

多くの区民は、何かが起きるその一瞬前まで、セーフティーネットの必要性を感じないのだと思います。そして、家族に介護が必要になったり、失業して収入が途絶えたり、病気やけがで医療費が必要になったり、働けなくなったり、障害を持ったり、何か起きて初めて、政治が十分なセイフティーネットを用意していないことに気づくのだと思います。

感染症法等の改正で、新型コロナは、期限の定めなく、恒久的に、エボラ出血熱、ペスト、ラッサ熱、結核、SARS、鳥インフルエンザ、などと同等の、

・隔離

・検査

・入院の勧告

・就業制限

・建物の立ち入り制限・封鎖

・交通の制限

・健康状態の報告要請

・外出の自粛の要請

と言った基本的人権の制約を可能にしています。

しかも、これらは、

・無症状病原体保有者への適用も可能で従わなければ、過料などの行政罰も科されます。

全国保健所長会が法改正に際し、「病原性・感染性の高い、かなり恐怖を抱かせる疾患であるという概念が、一般市民の方々のみならず医療従事者にも誤解をつのらせる懸念がある。」と指摘した通り、私は、マスコミやネットの過剰な報道や情報により、コロナによる私権の制約が、過剰になることを心配しています。

コロナに乗じ、社会の仕組みを急激、急速に変えようとする動きがあります。マスコミやネットの情報の中には、そうした、一部の利害関係者の意図で、世論をつくろうと流される情報もあると思いますが、それらに、行政や議会が振り回されてはならないと切に願います。

 

元気な区民のための、国土強靭化や便利や快適や楽しいだけでなく、病気やけがや、就労や、失業や、出産や、高齢や障害や、貧困その他にあっても、当たり前の人間らしい暮らしを継続できる区民生活を提供できる予算と仕組みを優先すべきだと主張し、それができていない2021年度予算の反対討論といたします。