大田区から検証する三位一体改革・地方分権で増えた財源のゆくえ 区民の生活課題より土木建設物品購入➡だから拡大する格差

小泉構造改革で行われた三位一体改革は、地方分権に必要な財源を確保するためという名目で行われました。

その地方分権は、住民の生活課題を解決するには、国ではなく住民に最も身近な区市町村(基礎自治体)だという理屈がありました。

国民は、政治が国民を向いていないのは、権限を中央省庁の官僚が握っているからで、その権限が地方自治体に「分権」されれば、政治が良くなるという地方分権のストーリーを信じて地方分権を支持しました。

しかし、現実に大田区に大きくなった財源は、増える待機児、高齢化、雇用の低賃金化と流動化などの「地域の生活課題=住民福祉」のために使われず、社会保障課題は放置され、優先順位の低い・効果の曖昧な土木建設・開発・イベント・物品購入に使われてきました。  

第一回臨時会の大田区の補正予算総額約18億円も、コロナ対策と言いますが、ほとんどが国や東京都の補助金頼みの事業で、大田区の独自財源は使われていません。それどころか、コロナの感染防止策で困窮する大田区民の生活課題は放置され、経済対策という名目で行われるのは、土木建設や物品購入に特化していて、そこに、大田区の一般財源が使われています。   

三位一体改革で区市町村、中でも東京都との財源配分割合が変わり、特に自由に使える財源が特に大きくなった大田区の、補正予算総額約18億円について、その使途を分析・検証しました。 

以下は、補正予算議案への奈須りえの討論です。    


 

第38号議案 令和3年度大田区一般会計補正予算(第一次)について反対の立場から討論いたします。

 

今回の補正予算は、総額で17億9234万7千円。

コロナウイルス感染症対応で、補正予算の約半分の8億円。残りの約9億6906万2千円は区内産業への経済対策として計上されていて、この二つで全体の99%を占めています。

常態化する生活困窮(コロナだからではない)

コロナウイルスに係る事業は「感染症対応」と位置付けられていますが、例えば、「低所得の子育て世帯に対する子育て世帯生活支援」5億8156万7千円は、

・昨年に引き続き2年続けて行われる事業で、しかも、2人目は3万円から5万円に給付額を引き上げています。コロナにより所得が減ったなどの要件もありませんコロナだから給付するというより、児童扶養手当受給世帯の所得階層の方たちの生活困窮が常態化しているとみるべきなのではないでしょうか。

常態化する生活困窮で
働けるけれど仕事が無い。仕事はあるが低所得の方たちを放置する大田区政

日本の社会保障制度は、ひとり親家庭などもそうですが、働けるけれど仕事が無い。仕事はあるが低所得の方たちを支える仕組みがありません。

そうした視点からとらえれば、この国が行う、「低所得の子育て世帯に対する子育て世帯生活支援特別給付金」だけでなく、大田区自ら、そうした低所得世帯への支援を考えるべきだと思います。

ところが、大田区の今回の補正予算をみても、経済的な困窮に対応する補正予算はありません。

大田区に財源は本当に無いのか

財源負担が大きくなるので、国に頼っているのだと思いますが、果たして大田区には、こうした低所得者や困窮者を支える財源は無いのでしょうか。

 

地方分権で、大田区のような基礎自治体は、社会保障の責任主体となり、三位一体の改革で、財源権限が自治体に大きくなりました。特別区では、一般市町村同様、住民税が10%と定率化したことでの税収増だけでなく、都区財調割合が52%から55%になったことで、それまでに比べ、大田区の財源は増え、大きくなっています。その後、社会保障のためという理由で消費税も増税れています。

大田区の社会保障費負担はどうなっているか

しかも、大田区が負担する社会保障費は、

国保介護の一般会計からの繰り出しと保育障害福祉が中心ですが、

下図のブルー部分が大田区が負担している財源を見ると、東京23区(特別区)は、東京都が負担している構造のため、一般の市町村より負担が小さい部分があるだけでなく、その後の制度変化などで負担が小さくなってきています。

左から
①生活保護:23区は生活保護は東京都の負担分有り
②児童手当:
③児童・障害福祉:民営化で解消すると東京都と国が負担してくれる。幼児教育無償化で国負担
④国民健康保険:健康保険の加入要件が引き下げられた結果、短時間横用でも健康保険に加入できるようになり(週20時間)国保加入者が減ってきていて、その分自治体負担が減っている。(自治体負担があるのは大田区にも確認済み。書かれていない理由は財務省に確認します。)
⑤後期高齢者医療
⑥介護保険

・保育は待機児を民間保育園で解消すると国都の負担金でまかなえるため、民営化して一般財源の負担を縮減してきていますし、

・幼児教育無償化で、保育の大田区の負担が減りました。

・また、週20時間働くと社会保険に加入できるようになり、社会保険の加入対象が広がったことで、国保加入者数が減って国保特別会計への繰出し額が大幅に減っていて、ピークと比べ約30億円ほど減っています。来年度から対象となる従業員数などの要件が引き下げられて、さらに一般会計からの繰出し額が減る可能性があります。

その後の制度変化で、減ってきている大田区の社会保障費負担

三位一体改革で、財源権限が地方に移譲され、支出が増えたという風に言われてきましたが、実際に大田区の国保、子育てなどの負担は、減っていて、その分、一般会計に余裕ができたということです。

補正予算の福祉費と衛生費に占める大田区負担はたった17%

ところが、今回の補正予算で、福祉費と衛生費のコロナ感染症対応の

全ての事業が、国や東京都の事業で、大田区独自で自発的に行っている事業は一つもありません。その上、財源の一部または全額が、国や都の支出金で賄われていて、コロナウイスル感染症対応に占める大田区の一般財源負担は、1億3746万7千円で、全体の17%に過ぎません。

三位一体改革で増えた財源
区民の生活課題に使わない大田区

三位一体改革で、社会保障の責任主体となり、財源が増えていながら、大田区自ら、子育て世帯に限らない低所得困窮世帯の実態把握や必要な支援の検討もせず、大田区は、基礎自治体としての責任を果たしていると言えるでしょうか。

外部化により低賃金労働・不安定雇用を自らつくる大田区

一方、今回の補正予算で行われるコロナウイルス感染症対応で自宅療養者支援は、訪問看護ステーションへの委託で

新型コロナウイルス感染症対応支援員は、月18万9千円の任用職員です。

本来大田区の職員が行うべき仕事を切り分け外部化しています。

 

こどもが生まれても働き続けられる職場が公務労働で、ひとり親世帯も公務員だったら、これほどまでに困窮することはなかったと思います。

矛盾するマッチポンプ政策 ~低所得者支援と不安定雇用創出~

一方で、低所得者支援をしながら、他方で、安定した公務労働を分業化し、さらに、不安定雇用へと切り分けているのが今回の補正予算ではないでしょうか。

矛盾していると思います。

残り半分の経済対策ですべての区民が支援されるか

一方、今回の補正予算のコロナ感染症対応以外がほぼ、区内産業への経済対策です。

小中学校のトイレ様式化、跨線人道橋上の照明灯(LED化)更新工事、平和島の道路舗装工事、多摩川児童館屋根補修工事、社会福祉センター照明更新工事(LED化)、そして、商店街プレミアム付き地域商品券です。

区内産業と言えば、ものづくりも、卸売りも、飲食もあり、感染防止策により、理不尽な営業制限を受けている業種はほかにもあると思いますが、土木建設事業と商業に特化されています。

一部の産業に特化した経済対策には、大田区の一般財源が55%

しかも、補正予算増額17億9234万7千円のうちの、約9億6906万2千が区内産業への経済対策費で、そのうち、5億3856万9千円が大田区の一般財源からの支出です。

福祉・衛生に1億、土木建設ほかに5億のアンバランス

福祉衛生に使われた一般財源1億3746万7千円と比べると、土木建設工事費には、その3倍以上の5億3856万9千円が使われているのです。

アンバランスな経済対策としても、また区独自財源の投入の在り方としても問題だと思います。