図書館の指定管理者指定に際し、図書館行政に民営化は相応しいか点検しました
2003年の地方自治法改正で、営利企業である株式会社含む団体に運営させることが可能になりました。
それまで、公の施設の管理運営は、地方公共団体やその外郭団体に限定されていました。
指定管理者制度は、裁量権が限定的な委託に対し、自由度の高い「民営化」の一つの手法です。大田区では、現在140の施設で指定管理者制度を採用しています。
大田区は、図書館にも、この指定管理者制度を採用していますが、指定管理者制度は、図書館には相応しくないという意見もあります。
私が、大田区の図書館に指定管理者を指定することに反対した意見を報告します。
第112号議案大田区立図書館の指定管理者の指定について
反対の立場から討論いたします。
図書館への指定管理者制度の導入について国は「公立図書館にはなじまない」と言っています。
2008年6月3日に可決した「社会教育法等の一部を改正する法律案」に対する附帯決議にも
●図書館等の社会教育施設における人材確保及びその在り方について検討するとともに、指定管理者制度の導入による弊害についても十分配慮して、適切な管理運営体制の構築を目指すこと。
と、図書館に指定管理者制度を導入することで弊害が生じると国も認めています。
私は大きく3つの点から図書館に施設に指定管理者を導入することは問題だと思っています。
① 図書館行政に市場原理が入ること
② 現場で働く方たちの賃金が下がること
③ 住民の意向ではなく事業者の株主の項で運営されること
実際、日本図書館協会の調査によれば、公立図書館における指定管理者制度の導入は2016年の数字ではありますが、
意外にも、あまり、多くの自治体で公立図書館に指定管理者制度を導入していません。
・日本図書館協会「図書館における指定管理者制度の導入の検討結果について 2015 年調査(報告)」 導入数 430 館、導入率 13.2%
・文部科学省「社会教育調査」2011(平成 23)年度調査(2011 年 10 月 1 日現在)
導入数 347 館、導入率は 10.7%
・総務省「地方行政サービス改革の取組状況等に関する調査」(2015 年 4 月 1 日現在)
導入数 501 館、導入率 15.2%
です。
少し前の数字ですから、その後増えていると思いますが、指定管理者制度を導入し、直営に変更した館が 12 館あることは注目に値します。
また、今回、指定管理者の指定に際し、評価に必要な労働条件審査報告書の提出を求めたところ、ご提出いただきました。議決のためとはいえ、迅速な対応に感謝いたします。労働条件審査報告書は、法令の遵守に視点がおかれているため、最低賃金や休暇の取得、制度の説明や、健康診断の受診など、が行われていれば、適正と評価されAの高い評価がほとんどでした。
公務労働が低賃金労働に代わったことの評価は、議会が行わなければならないことがあらためてわかりました。法令を守っていれば、高い評価が出やすい評価ですが、それでも、一部に、余りたかくない評価の事業者が更新されていたことこそ、注目すべきではないでしょうか。
2008年の社会教育法改正の際の付帯決議には、
●図書館が自らの運営状況に対する評価を行い、その結果に基づいて運営の改善を図るに当たっては、評価の透明性、客観性を確保や、地域住民等の意見の反映についても求めています。がそこも付帯決議通りには、なっていないということです。
大田区は、図書館を民営化し指定管理者を採用したことで、
企画展示や集会行事とレファレンス機能を評価していますが、企画展示や集会行事が図書館本来の業務でしょうか。
レファレンス機能が充実したということは、司書が増えたということで良いことですが、インターネットで求人検索したら、今回4館から5館に増やしたTRCは司書スタッフで募集していて、時給 1,030 ~ 1,060円。今回1館から4館に増やしたヴィアックスは司書の契約社員を18万5千円で募集しています。今回も前回に引き続き1館のブックチェーンの募集金額時給1013円は最低賃金でした。
確かに司書資格をお持ちのスタッフは増えたかもしれませんが、この賃金体系で、長く働き続けていただけるでしょうか。
能力を適正に評価できる賃金体系でしょうか。
大田区は、指定管理者制度は、委託に比べて裁量権があり、単年度ではなく複数年度事業を任せられ、自立的判断知見に基づいたサービスでき、利用者満足度の高いサービスを提供できるが、直営に戻せば、人員を確保できないと説明しています。
しかし、直営であれば裁量権をスピーディーに発揮できるうえ、5年に区切られない長期的な図書館行政を維持できるうえ、ノウハウを蓄積することができます。
直営に戻せば人員を確保できないと言いますが、大田区は直営から指定管理者にするときには、どこの自治体より早く導入していますから、少しずつ育成して今日があるということです。直営になれば、司書として働きたい方は大勢いますから、今まで他の民営化図書館で働いていた職員が希望してくるかもしれません。
安定した雇用の下でこそ、ノウハウが蓄積され、良質なサービスを提供できるのです。
平成30年の大田区立図書館の今後の在り方についての有識者懇談会のまとめを読んでいますと、
老朽化した施設、蔵書、開館日時、収集方針など、外形的、表面的な切り取り方ばかりが並んでいます。
指定管理者制度を導入してから、大田区の図書館は、蔵書数が増え、一人当たりの貸出冊数も増えました。しかし一方で、利用登録者数登録率とも大幅に減り、レファレンス件数も減っています。
これは、指定管理者制度という仕組みだったからというより、大きな社会の流れを象徴している問題ではないでしょうか。
放課後、こどもたちは、図書館に行く時間も無く、お稽古や塾に行くようになったこと。
図書館で本を借りる余裕も無く、ネットで情報収集したり、読んだりするようになっていること。そもそも、読まなくなって、ユーチューブなど動画や音声で情報を得るようになっていること。
逆説的ですが、そうした根底にある、経済利益最優先の新自由主義の流れが民営化や指定管理者制度を導入させ、私たちの暮らしからゆとりをうばい、結果として、一部の図書館を利用する人たちとそうでない人たちとの差を広げているように感じます。
どうか、図書館の管理運営をまかせていることで、図書館行政そのものを手放すことなく、誰もが等しく知見を得られ、文化や教養を身に着けられる場を守るため、一時のイベントや集会や貸出冊数や来館者数競争という商業主義に走らない図書館行政を望み、反対といたします。