「新自由主義とパク・ウオンスン ソウル市政」にみる住民自治の可能性

グローバリズム、新自由主義に対抗するソウル市の取り組みに注目している。最近、ソウル市での取り組みについて相次いで耳に入るようになっている。そうした中、昨日、参議院議員会館に於いて、ソウル市政に詳しい金カ光男さんからソウル市の取り組みについて聞く機会を得た。

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パク・ウオンスン ソウル市長は、以下のような5大政治目標と3つの公約をかかげて市長選挙を勝ち抜いた。

目標
①堂々と享受できる福祉
②共に豊かになる経済
③共に創造する文化
④安全で持続可能な都市
⑤市民が主体になる政治

公約
①環境に優しい無償給食
②ソウル市立大学の授業料半額
③非正規職の正規職化
同時期に、日本では、橋下大阪市長が当選している。
同じ弁護士出身、既成政党に対する市民の不満を吸収する形で当選したが、政治方向は相反している。

◯同時期に市長選挙が実施された
◯二人とも弁護士出身
◯既成政党に対する市民の不満を吸収

橋下市長は労働組合を弾圧したが、。パクウオンスンソウル市長は、円満な労使関係を構築している。

【橋下市長】
労働組合弾圧

【パクウオンスン】
円満んな労使関係
・労働補佐官の新設
・法内労組と団体交渉・協定締結

非正規職の正規職転換について、パクウオンスン市長の日記には、以下のように記されている。
「いつ解雇されるかどうかわからないという不安な気持ちのまま、どうして仕事に情熱を傾けることができるでしょうか。最も厳しい仕事を最も大変な条件の下で行っている労働者に正当な対価を支払うことができなければ、正義を尊ぶ公正な社会とは言えません 。今回、私が行ったことは、極めて当然な労働の常識の見直しであり、社会の基本を回復したとに過ぎないのです。」

極めて当たり前のことだが、これを言える首長がいま日本にどれくらいいるだろうか。

非正規雇用の問題は、
雇用不安、賃金格差、福祉における差別、低い年金・健康保険加入率などの差別を生むことになるとして、ソウル市では、まず、公共部門日正規職の正規職転換計画を発表し、当選した2011年10月26日の翌年、2012年5月1日に直接雇用の非正規雇用の正規職に転換している。(ちなみにソウル市の新年度は1月から始まる。)

これにより、ソウル市では、2012年5月1日直接雇用の非正規職1,133人、2013年1月1日236人を正規職に転換している。
待遇は、平均年1,500万ウオンから1,860万ウオンに変わると共に、年次休暇、昇進、退職金、福祉などの待遇が改善された。
転換対象から外されたものも、福祉や蒼月などの手当てとして一人当たり年246万ウオンの待遇改善が行われるとともに、最低限の人間的な生活を教授できる水準の賃金体系である「生活賃金制=最低賃金+26%」を導入している。

ほかにも、上下分離民営化をした市営地下鉄の運賃があがり、市が後者に戻そうとしたが、買い取ることができなかったところ、市民が買おうという動きが起き、市民が買ってソウル市の地下鉄が動いている。
韓国は、金の匙、土の匙と言われるほどに、生まれながらの不平等が存在している。
正規職の平均賃金は319万4,000ウオン(29万7千円)
非正規職は平均137万2,000ウオン(12万7千円)
非正規職は全体の32.8%になるそうです。ちなみに、日本の非正規雇用は全体の37.5%ですから私たちは日本の状況がいかに深刻かいい加減に気づくべきです。

しかも韓国では、賃金上位10%男性のキッコン比率は下位10%の12倍であるという調査もしています。
20〜30大男性労働者の賃金上位10%の既婚比率は82.5%。下位10%は6.9%。

OECDが発表した加盟国の自殺による死亡率は、人口10万人当たり韓国は29.1人で、OECD加盟国のうち、最も高い。
2番目はハンガリー(19.4人)だが、3番目が日本(18.7人)。

ソウル市では昨年末(2016年12月21日)「格差社会解消のための不平等と闘う宣言(Weconomics)」を発表している。
また、労働組合組織率が高い国は経済的不平等が少なく国民の福祉水準が高いので、労働組合の組織率を30%まで引き上げるべきであると言っている。

日本と韓国は似た状況にあるが、社会的な問題意識の共有はまだまだ日本は低いのではないだろうか。

私自身、2005年にソウル市ソンミサンの協同組合型の子育て施設に視察に訪れている。

当時、韓国の法制度が、理想として掲げ整備され、それに向かって市民が取り組んでゆくといった印象をうけたのに対し、日本は、社会の理解がほぼ浸透した頃に法改正が行われるといった感想をもった。
韓国の市民は、形はできても理解はなかなか進まないといった問題意識をもち、意識の高い(当時の韓国に比べてか?)日本の市民社会に対し評価をしていたのが印象に残っている。私は、韓国の市民の評価ほどに日本の市民の意識が高いのだろうか、過大な評価ではないかといった気持ちで、お互いにたりないところがあるが、がんばりましょう。といいあった記憶がある。

現ソウル市の幹部には、ソンミサンの出身の幹部もいるそうで、すっかり追い越されてしまった感がある。

しかし、ソウル市のこうした取り組みは、自治体や国に波及していて、給食の無償化は広がっている。
また大学授業料半額は、実現できていないが、イミョンバク大統領の公約だった。

私は、金光男氏の講演を受け、自治体議員として一言求められたため、以下のような発言をした。
地方自治は民主主義の学校と言われる。
国は地方分権一括法、国家戦略特区法など、日本はすでに、TPPのための法令整備はほぼ終わっているととらえるべきです。
しかも、国は地方分権といってきたが、飴と鞭で地方を誘導するなど、いま、さらに中央集権化している。
多くの人たちは、国の政治には関心がありますが、自治体で何が起きているのか興味関心は薄い。
そのため、法律が理念だとすれば、実体として影響を及ぼすのは条例や規則、契約や予算や議案など、自治体レベルでの話が大きく影響する。

格差の拡大、貧困の増加、ワーキングプア、、、といった問題の背景には、最低賃金や派遣法や各種の労働規制の緩和がありますが、ソウル市のように、自治体が雇う非常勤職員の処遇を変える、委託をやめ直接雇用にする、など、自治体として取り組むことのできることがある。

ソウル市で、委託を直接雇用にかえたことにより、賃金が増え、行政コストも増えない。むしろ削減できるといったことを可能にしているのは、会社への経費がなくなるからだ。

大田区でも、平成15年のひとりあたり認可保育園運営会費が約180万円だったのに対し、委託や民営化を進めた後の平成27年のひとりあたり同経費が私立認可保育園で182万円に上っているという計算結果が出た。

民営化が進み、約4割強が私立認可保育園になっているにもかかわらず、すべての年齢ごと園児一人当たり保育経費も増えている。

延長保育、アレルギー対応など、取り組む事業が増えているからという見方もありますが、私立認可保育園の保育士の処遇が問題になっていることを考えると、公立保育園の保育士さんとの賃金の差額はいったいどこへ流れているのだろうか。