TPPや国家戦略特区などの規制緩和が大田区の施策・入札・契約などを通じ、 区民生活に与える影響と大田区のなすべき役割について
「TPPや国家戦略特区などの規制緩和が大田区の施策・入札・契約などを通じ、区民生活に与える影響と大田区のなすべき役割について」質問しました。秋の臨時国会で国会承認を得ようとしているTPPが地域経済や住民に与える影響について、今回は特に公共調達を事例に質問しています。
下線部が質問部分。
答弁は正確を記すために、議事録速報が上がってからとします。
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フェアな民主主義 奈須りえです。
大田区とは一体何をすべきところなのでしょうか。最近の大田区が行っていることは、本当に基礎自治体である行政が、子育てや介護などが足りていない中、最優先課題として行うべきものなのかと疑うものが目につきます。新しい大田区のイメージキャラクターを作り区歌があるのに区政70周年でイメージソングを作り、予算には全国初という文字が踊り、決算資料として出される「主要施策の評価」はいつの間に分厚い冊子になり、まるで民間企業のPRのようです。行政は宣伝しなければならないところだったのでしょうか。区民が毎日の暮らしの中で必要なセーフティーネットを張り巡らせる地道な事業こそが大田区の最優先課題ではないのでしょうか。
その一方で、長い歴史的な経緯の中で大田区民とともに行政大田区や、大田区議会が守り、積み上げてきた数々の区民生活を守るための法令などを「一部の経済利益」のために、緩和し、なかったことにしようとしています。羽田空港飛行ルート変更は、安全と区民の快適な生活を確保できない限り空港を撤去するとした空港撤去決議など大田区の歴史的経緯をからみればあり得ない話です。その撤去の決議があったから羽田空港は沖合に移転し空港跡地ができました。跡地開発さえできれば何のために沖合移転したかを忘れてしまうことの無いよう、区長には首都圏の空を守る気概をもって取り組んでいただきたいと思います。
この規制緩和のランドマーク的な施策が「国家戦略特区」です。
区長自ら手をあげ、主体的、積極的に進めていますが、国家戦略特区が何かといえば、区域を限定した規制緩和による経済政策です。
法治国家日本において、法令で作られた多くの「規制」は、私たちの権利=基本的人権を守るために存在しています。それを緩和すれば、法で守られている私たちの権利は無防備になります。規制緩和が進めば進むほど、無法地帯が広がり、弱肉強食で自己責任の範囲が広がる構図です。
大田区において旅館業法の適用除外を認めている「民泊」は、国家戦略特区のしくみを使っています。民泊で、大田区内では、旅館業法の適用を除外されるため、大田区は、民泊条例を設置した際にガイドラインを定め、消防への届け出や一人当たり床面積など、法が守ってきた安全や衛生、住環境が守られるよう努めています。
法令が求める安全、衛生、環境、雇用などの基準は、経済活動にとっては、コスト負担を強いられる邪魔な存在かもしれませんが、規制を緩和すれば、それまでその規制によって守られてきた区民に影響が及ぶということです。
特区といえば、一般には開発途上国の経済政策ですが、国家戦略特区は先進国日本の首都東京含めた、大阪、名古屋、福岡など大都市圏がほぼ網羅されていて影響が大きく、「特区」とは言えない状況です。ILO(国際労働機関)は経済特別区を「外国投資を誘致するために特別な優遇策を付与された産業地区。地区に輸入された財は再輸出のために程度の差はあるが加工される。」と定義していますが、小泉構造改革特区以来、日本に設置されてきた特区は「規制緩和」に考え方が偏っている傾向があると郭洋春立教大学経済学部教授が指摘するように、規制を緩和し外国投資を呼び込むことが目的になっていて、特区内に輸入された財が加工されたのち再輸出されるといったことにはまったく触れられていません。
しかも何のための規制緩和かといえば、2013年の日本再興戦略に「規制改革の突破口として国家戦略特区を使って世界から投資を呼び込む」と記されているとおり外国投資を呼び込むことが目的です。「日本再興戦略」改訂2015では「投資家の目を意識した経営が幅広く浸透し、企業の自己資本(株主資本)に対する当期純利益ROEの割合が10%を超える上場企業は、2年前の4社に1社から3社に1社になった。」と特区を評価しています。
そこで質問させていただきます。
多くの規制は国民・区民の権利を守るために存在しますが、区長は、国家戦略特区が、その規制を外国投資のために緩和する政策であることを認識したうえで手をあげているのでしょうか。
規制を緩和して外国投資家は利益を上げることができるかもしれませんが、権利を守ってきた規制を区民が失えば、区民生活に影響を及ぼします。
2014年4月の国家戦略特区ワーキンググループにおいて、民間有識者の「羽田空港の近くで『雇用ルールについての特例措置』や『医療サービスの提供』はあり得るのか。あり得るなら、外国人医師や病床規制もあり得るのか具体的に相談を」、という申し出に対し、松原区長は「ぜひお打ち合わせというか、そういう協議をさせていただければありがたい」とこたえています。
松原区長は、「雇用規制をさらにゆるめることや医療圏ごとに定められているベッド数を増やすこと、外国人医師に日本で医療行為を行わせること」について是非協議したいと答えているのです。
雇用規制の緩和で企業は経営の効率化をはかれますが、区民の雇用は不安定になります。空港の近くでベッド数を増やし外国人医師の診療を可能にすれば、高度医療、先進医療の拠点を作り、外国の医薬品や医療機器の売り上げを伸ばすことができますが、医療費が高騰することが予想されるだけでなく、周辺の病院経営にも影響を及ぼすでしょう。
国家戦略特区は、経済政策のため、通常の法改正であれば行われる規制緩和の影響についての検証が無いばかりか経済利益をあげれば、雇用が不安定になっても、安全性が低下しても、効果があるとされ全国展開するしくみになっています。
そこでうかがいます。
・区長は、特区による規制緩和が、一部の投資家の利益のための経済政策であり、同時に、区民をはじめとした投資家以外の人たちの不利益につながるかも知れないことについてどのようにとらえ、国家戦略特区を区長の目玉の政策としているのでしょうか。
・また、区長は、特区の規制緩和によって区民の雇用や医療、安全や環境が守られなくなることについてどのように考えていますか。少なくとも、国が規制緩和の影響について事前に検証していない以上、大田区として規制緩和による影響を検証したうえで、区民生活に影響を及ぼす規制緩和策は行わない、必要な対抗策を講じるなどが必要だと考えますがいかがでしょうか。
こうした規制緩和による外国投資家のための経済政策は、区民生活だけでなく、経営者にも大きな影響を及ぼすととらえています。 そこで心配しているのが政府が今年の秋の国会承認を目指しているTPPです。TPPはモノの関税だけでなく、サービス、投資の自由化を進めるアメリカ、カナダなど太平洋12か国で結ぼうとしている国家間の経済協定です。
アメリカでは、いずれの大統領候補もTPPに反対の姿勢ですから、そう簡単にTPPが批准されることにはならないと思われますが、だからと言って、こうした国を超えた投資利益拡大政策がそう簡単にストップすることにはならないでしょう。同様の自由貿易協定は、TPPだけでなく、ヨーロッパを含めたTisaや二国間協定など様々な可能性があるからです。
今年2月に署名が行われたTPP協定について協定文の公開以降、日本、アメリカはじめ各国でも、国会議員や市民団体が分析と問題提起を続けています。それをみると、TPPが大田区内の事業者に与える影響が、いかに深刻か、規制がいかに区民生活を守っているのかがわかります。
今日はその中の政府調達と言われる物品購入や入札の影響について取り上げたいと思います。
たとえば、大田区では、建設工事や物品調達などにおいて、大田区内業者に限定した制限付き一般競争入札や指名競争入札を行っています。大田区内に限定しているのは区内産業育成の視点であり、その事業者が競争力を持った企業に成長発展していただくことが期待されるからです。区内の景気向上、雇用や受発注の確保という経済波及効果も狙っています。今回の補正予算に計上されているリフォーム助成もそうした視点で計上されているのでしょう。
ところが、TPPはこうした国や地域に限った制限も経済障壁とみなし、外国資本含め誰もが入札や契約に参加できる状況をつくるためのしくみです。一般原則として、外資と国内企業を区別し「現地調達」や「自国物品の購入や利用優先」をしてはならないとされています。
内閣官房のTPPについてのQ&Aでは、国と都道府県および政令市に限ると説明されていますが、協定文書には「協定締結後3年以内に適用範囲の拡大を達成するため地方自治体も含んだ交渉を開始する」「交渉開始前でも地方自治体を対象とすることについて合意できる」書かれていますから、当初から自治体を対象としているとみるべきで、国の説明のニュアンスとは、大きな温度差があります。しかも、批准後は政府調達に関する小委員会をおいて、対象機関の拡大、基準額の改定、差別的な措置の削減と撤廃を議題にしていくとしていますから、大田区の契約や入札は熾烈な競争にさらされる可能性が大きいということです。
大都市として一体的にみられることも多い23区が対象に加わる可能性は、他の自治体に比べれば高いとみるべきでしょう。
現時点での対象金額は物品で3300万円。建設で24億7000万円。建設技術サービスで2億4000万円。その他サービスで3300万円となっています。
今後のTPPの交渉で、地方自治体が対象になれば、今回の議案の防災毛布購入は消費税込みで9000万円を超えますから制限付き競争入札ができなくなり、たとえばアメリカ防災毛布という外資系企業が落札するかもしれません。大田区は、可燃ごみの民間委託の受け皿として一般社団法人を設立しようとしていますが、対象機関が拡大すれば、そこでの契約にも制限なしの入札をといった競争性を求められるようになるかもしれません。
対象が広り金額が引き下げられれば、区内事業者への影響は拡大し、区民生活にも影響を及ぼすでしょう。
受託会社が変わっても、現場で働く人は同じ、という話を聞きますが、外資が大田区の契約をとっても、働く人は同じで、賃金が下がったり下請け、孫請けの利幅が少なくなったりするのかも知れません。
今後は、水道、道路、建物などあらゆるインフラの施工・管理について民営化も視野にいれた外資との競争がおきる可能性が高いのです。TPPなど自由経済貿易で経済障壁が無くなったとき最も大きな影響をうける分野の1つがこの公共調達であると私はとらえています。
そこで、うかがいます。
日本政府は、TPPについて、秋の臨時国会での承認を目指していて、仮に承認されれば2年以内に発効する可能性があります。
私は、TPPは批准すべきではないと考えています。区長はこうした区内産業への影響を考えれば政府に対し、TPPに異を唱えるべきと考えますがいかがでしょうか。
異を唱えることをしないのであれば、少なくとも、TPP批准前までに、区内産業育成のために、制限付き競争入札などを行ってきましたが、それらをルール化条例化して、区内産業を育成するとともに区民生活を守るべきではないでしょうか。
準区内と言って大田区に机と電話を置いている事業者も区内ですから、外資も区内になりえます。
そこで重要になるのが、大田区という行政がなぜ区内事業者を優先しているのか、してきたのか、ということです。
区内で安定的な雇用を支え、区内調達で循環経済に資する。法令順守は当然のこととして、環境を守り、障害者雇用を支えるなど社会的責任を果たす。こうした事業者だからこそ、大田区民の税金を投入する意義を持つのではないでしょうか。
いま、規模の大きな事業者が大田区の仕事をとる。契約そのものの規模が大きくなっている。ように見えます。今回、解体と建設の一括発注議案が送付されていますが、最近の究極の一括発注といえば、点検を行わせ見つかった必要な個所の修繕までゆだねている本庁舎の耐震補強工事でしょう。大田区がTPPの対象になれば、契約金額の引き下げも気になりますが、こうした大きな契約が増えている状況は、大田区自ら外国資本に対して有利な契約を用意する形になっていると見ることもできます。介護保険の単価の改正により小規模事業者が厳しい経営を迫られているのも大規模資本優遇とは見られないでしょうか。
今や日本の大企業も大株主は外資というところが少なくありませんが、政府や大田区の外国資本優遇がこうしたところにも表れているのかもしれません。
しかし、日本の7割の雇用を支えているのは中小企業です。こうして大きな事業者に集約されたり、契約規模が大きくなれば、公共調達に限ったことではありませんが、淘汰されたり、下請けや孫請けが発生し、下請け孫請けの利幅が小さくなる可能性もあります。
日ごろの維持管理を怠り、まとめて大規模工事を大規模事業者に発注するより、手間がかかっても、地域の中小事業者にこまめに発注することで、長く大切に区民の建物の維持管理をすべき。物品調達すべきというのが私の基本的な考え方です。
グローバル化の潮流の中で、区民生活を守り、区民の雇用を守るのは大田区の責務です。
TPPという一つの危機を機に、少なくとも公共調達については、区民の税金で区内雇用を安定的に支える。区内調達で循環経済に資する。法令順守。環境配慮。障害者雇用。などを評価する政策入札・公契約条例のしくみを導入するなど、大田区の契約の在り方を見直すべき時期にきているのではないでしょうか。
TPPなどの貿易自由化により入札や契約を自由化すれば、税金の一部が外国投資家に流出し再投資される保証はありません。区民からお預かりした税金をどう使うべきなのか、区長の見解をお示しください。