区民の声=陳情を円滑な審査のため省略して大丈夫?大田区議会 今こそフェアな民主主義を

「民主主義は、住民(国民)の声を意思決定に反映させるための政治システム」です。

そのためには

・「住民(国民)の声を聴く」
・「意思決定の過程を住民(国民)のみなさまに見ていただく」
・「意思決定の根拠を明らかにする」

ことが必要だと考えています。

ところが、大田区議会は突然、結果のでた請願と同趣旨の陳情を審査除外としてしまいました。いったん結果の出たことは「状況が変わらなければ」1年間取り上げない、というのです。
これは、「いったん多数派が決めてしまえば、住民の要望の声が大きくなったとしても変えられない」ということになりはしないでしょうか。


決めたのは、下記の議会運営委員会。
議長の大森昭彦議長(自民党)と勝亦聡副議長(公明党)もオブザーバー出席しています。 

議会運営委員会(定数13人)
委員長 押見 隆太(自民)
副委員長 大橋 武司(公明)
委員 松原 秀典(自民) 鈴木 隆之(自民)
長野 元祐(自民) 松本 洋之(公明)
岡元 由美(公明) 清水 菊美(共産)
黒沼 良光(共産) 黒川 仁(民進)

 

非公式の秘密会(傍聴できない)幹事長会(自民党、公明党、共産党、民進党幹事長)から、意見を求められていたので、下記のような意見を出していましたが、各会派の意見など何も情報提供のないままに、3月24日、第一回定例会最終日の議会運営委員会で決定してしまいました。

私は、
①現在の請願と陳情を大田区議会は、どのように位置づけ運用しているのかの確認
②そのうえで、今回、なぜ、変更が必要なのか(運用上の問題点、変更による改善点など)提案者からの説明
③この問題についての、議会運営員会に所属していない少数会派含めた各会派の意見の確認
④他議会、地方議会国会等の運用事例
⑤議会改革の方向性

などについて議会運営委員会において明らかにされるに違いないと思い傍聴しましたが、いっさい明らかにならず、議論の深まらないままに審議が集結してしまいました。非常に残念です。

文末に私が結果の出た請願と同趣旨の陳情を1年間審査除外することについて提出した意見を添付します。

請願は憲法に保障され地方自治法で規定された国民の権利です。しかし、請願は、紹介議員を必要とするという非常に高いハードルが設けられています。
議員は、かならずしもすべての請願について紹介議員になるわけではありません。個々の議員の考え方が大きく影響するのです。
ですから、区民が請願しようとしても、紹介議員を得られず、要望することができないことも考えられます。

しかし、それだけでなく、議会は紹介議員を必要としない陳情で住民・国民の声を聴くということを行ってきました。

私は、陳情は、区民が要望、要請できるだけでなく、議会が広く区民の声を聴くと言った側面も大きいと思っています。聞きたい声だけでなく、ということです。

そうした意味で、陳情を受けるというのは、実は請願と同様に、場合によってはそれ以上に重要なことです。

「状況の変化がなければ」というのは非常に主観的です。
誰の主観かと言えば、議会の多数の議員の主観になります。
ですから、多数決で、いったん決めたら、住民の声が大きくなったとしても、状況が変わっていないから受け付けないということが起きる可能性があります。

その間に、既成事実化されてしまうこともあるかもしれません。

しかし、多くの区政の課題は、区民が知らないことが多く、状況が変わったのではなく、多くの区民が知ることで「区民の声」が変わることがあります。

紹介議員を得られる議員の近くにいる住民(国民)の声を聴いた後は、それ以外の声は聴かないといっているようにも受け取れます。

請願がある、結果が出ていると省略することは、区民の権利を大きく阻害するものです。

しかもその理由が「円滑な審査」というのですから驚きます。
議会の審議を効率性で省略してよいのでしょうか。

区長は区民との合意形成を省略し、区議会は、住民からの陳情を審査除外して意見聴取や審議を省略する。
これが民主主義でしょうか。

「フェアな民主主義」が今こそ必要です。

 


今の陳情審査基準は以下の通りです。

私は、現在の審査除外基準の運用にも問題があると考えています。
たとえば、下記の変更前の審査除外基準にも改善の余地はたくさんあると考えています。(黄色マーカー部分)

・郵送は受け付けない。
  ⇒まずは、広く陳情を受け付ける姿勢が必要です。
・同趣旨の陳情は一年経過しなければ受け付けない。
  ⇒同じ問題でも、求める区民が異なれば同意見・反対意見ともに受け付けるべきです。反対・賛成理由なども含め議会は詳細に住民の声を聴くべきで、区民個々人の意見表明を制限すべきではありません。
・マンション紛争など私人間で解決すべき問題として除外。
   ⇒災害がれきの広域処理の際に、NIBY(not in my backyard=うちの庭に)といった論調がありました。「公共のために必要な事業であることは理解しているが、自分の居住地域内で 行なわれることは反対という住民の姿勢を揶揄していわれる概念(EICネット環境用語集より)」。これは、住民の意見を、政策判断ではなく「わがまま」ととらえています。しかし、どんな問題もはじめは個人の困った、嫌だ、なんとかしたい、から始まります。それが、多くの共感を呼んだ時、政治問題になり、合意形成の過程で政策につながることもあるわけです。
それを最初から門前払いするなら、政治は、「住民発意」を拒絶することになります。
・いずれの問題も、審査に馴染まないと議長が判断。
   ⇒議長は議会の代表として、公正中立に判断すべきですが、議会運営の判断が多数決になってはいないでしょうか。今回の審査除外基準も議長ではなく議会運営委員会が多数決で決めてしまいました。
 審査するかしないかは、陳情のぜひに左右されず審査するかしないかを決めることが重要です。各陳情において、何を同趣旨ととらえ、状況の変化とみるかも「多数」の考え方にゆだねられる可能性があり心配です。

 

大田区議会陳情審査除外基準

(1)著しく個人、団体等を誹謗、中傷をし、その個人、団体等の名誉毀損、信用失墜のおそれがあると判断した陳情。
(2)脅迫、恐喝等、公序良俗に反する用語の使用がある陳情。
(3)郵送分の陳情。
(4)住所・連絡先が不十分で連絡のとれない陳情。
(5)同一期内で概ね一年を経過していない同趣旨の陳情で、状況の変化がないと認められるもの。
(6)マンション紛争等私人間で解決すべき内容を含む陳情。
(7)既に願意が達成されていると思われる陳情。
(8)その他議会の審査になじまないと議長が判断した陳情

ただし、(1)、(2)については、既に公表された事実、社会的に周知された事実等については除くものとする

 

 

2017年3月21日

 

大田区議会議長 大森 昭彦 様

 

フェアな民主主義

奈須 利江

陳情書の取り扱いについて

3月16日の幹事長会において、陳情書の取り扱いの改正案が提示されました。

今回の改正案は、陳情書の審査除外基準として、「すでに審査結果の出ている請願」を加えようというものです。これにより、審査結果の出ている請願と同趣旨の陳情を受理した場合、①趣旨が同一②同一期内に受理したもの③一年を経過していないこと④状況の変化がないという条件を満たした場合、審査除外しようというものです。

 私 フェアな民主主義 奈須利江は、下記の理由から、「すでに審査結果の出ている請願」を陳情の審査除外基準とすることに反対いたします。

  「請願」は、文書により希望や要望を申し出ることのできる、日本国憲法第16条に認められた国民の権利の一つで、地方自治法にも定められています。一方、区民は、請願だけでなく「陳情」により、国または地方自治体に対し、実情を述べ、適当な措置を要望することができます。

「陳情」も同様に要望を受ける手段の一つです。請願のように憲法に保障された権利ではなく、一般的な手続きや形式が法律に定められているわけではありませんが、大田区において、今どのような問題が起きているのか区議会が区民の声を聴く手段の一つであると言えます。
 「陳情」と「請願」は、似た制度ではありますが、そもそもの憲法や法的な成り立ちや形式など、異なる意味合いがあるため二つの制度が存在しています。「陳情」は、請願のように紹介議員を必要とすることもないため、大田区民が区政などについて直接区議会により要望しやすい手段になっていると言えます。

そうした意味で、今回、「すでに結果の出ている請願」を陳情審査の除外基準とすることは、大田区民の側からみれば要望できる権利としての一手段を失うことになるばかりか、大田区議会にとっても、大田区民の声を聴く機会を失うことになります。

よって、「すでに結果の出ている請願」を陳情審査の除外基準としないよう望みます。

 

 

1.大田区民が、要望できる権利としての一手段を失うことになる。

2.大田区議会にとって、大田区民の声を聴く機会の一つを失うことになる。

以上