大田区立池上図書館を駅ビル内に移転、に反対の理由
大田区立池上図書館を駅ビル内に移転させるための条例改正案に反対しました。反対の理由についてご報告します。
第107号議案 大田区立図書館設置条例の一部を改正する条例
この条例は、現大田区立池上図書館を、池上駅上にできる駅ビルに移転させるための条例改正です。
池上駅の上に、鉄道事業者がつくるビルの中のフロアを大田区が借りて、内装工事が終わったあと、移転させます。
この移転も、他の施設整備同様、移転後の現池上図書館の後をどう使うか決まっておらず問題で反対です。
そもそも、私は、公共分野の民営化の中でも福祉や教育などとともに、この図書館も市場化にはふさわしくないと考えています。
池上図書館も民営化の一手法である「指定管理者制度」を前提にしており、反対です。
しかも、レイアウトからみて、さらに市場性を想定し、図書館の立地を利用して営利事業を可能にし、知性や文化や思考を消費ととらえる作りになっています。
図書館行政は、そのありかた、やりかたによっては、国民、区民の知性や思考のなかみまで、市場経済の望むようにゆだねることは可能であり、平成30年に出された「大田区立図書館の今後ありかた」の大田区の図書館の方針をみると、その余地のある仕組みになってきています。
加えて、今回の図書館施設の設計が、さらにその可能性を大きくするため、反対です。
そもそも、私は、池上図書館内装工事の発注の在り方に反対しています。
この池上図書館の書棚など内装のC工事も含まれる5億1,454万円という工事費用を
大田区が発注せず、ビル建設の施主に補助金を渡すことで、
・入札を行わないこと
・工事契約議案とならないこと
・結果、割高になったことから反対しました。
大田区は、「借りるより買うほうが安い」と平成19年(2007年)3月に
現池上図書館を9億1650万円でNTTから購入しましたが、今回、駅ビル内のスペースを
借りることで、図書館を新築したほうが安い計算になったからです。
2019年第二回定例会の報告で、内装工事費で5億1,454万円。家賃は月320万円なので、家賃を10年払うと内装工事費と合わせて9億円近くになります。
最近改築したほぼ同じ規模の六郷図書館の建築費総額が8億4,604万円ですから、10年で建て替えられれる計算になります。
工事費用を大田区が負担しますが、その金額は、今回工事を行った鉄道系の建築会社の「言い値で決めた」と聞きました。
大田区から(所管委員会では無かったため)個人的な説明を受けたときには、ビルのグレードがあるので、それに合わせてビル建設会社に内装もお願いしたいからといった説明でしたが、
当時の議事録を調べたら
「本体工事を行いながらの内装工事であること、線路の直上で行う工事であること、また、作業の進め方や搬入方法一つとっても様々な調整等が想定されるため、負担金による方法が望ましいとの判断に至ったものである」との答弁でした。
赤松小学校も線路脇だから鉄道系の建築会社にプロポーザルです。
過去にプロポーザルという仕組みが無かった時は、誰が工事契約をとっていたのでしょう。鉄道系の建築会社にしてもそうでないにしても、説明が成り立たないと感じます。
当時、これは、基本設計で、実施設計で詳細は決まる。その時には、建設業者と相談しながら金額を決めると説明していました。
実際、図書館の設計に際しては、守るべきことは、専門的な知識を持つのは、大田区で、17回にもわたる協議が行われたそうです。
それだけ手間がかかったという事です。
大田区が工事発注したのと同じだけ、あるいは、相手があることで、相手方の工事なので、交渉や合意が必要ですから、それ以上に手間がかかったのではないでしょうか。
しかも、できた池上図書館の図面を見せていただきましたが、疑問に思う部分が本当にたくさんありました。
これ以外にもたくさんあると思いますが、簡単な図面をみて説明をうけてもこれだけありました。
列挙しますので、今後、問題が生じないよう、これらの疑問や問題を解決してから、条例は作るべきだと思います。
- 現在92000冊の書籍数が8万冊と14%激減するうえ、開架の蔵書数がどれくらい減るか、池上駅上図書館の移転までに現池上図書館の書籍を除却し、見えないようにしている。
- 開架書籍がどれだけあるかが図書館の最も求められる機能だと思います。
インターネットで検索して借りることができるのは、頭の中で思い描ける本や、ネット検索で出てきた本、コマーシャルにのった宣伝された本などに限られる。ネット検索は、AIによるアルゴリズムで、ヒットする順序を変えることは可能で、ネットを運営するのは、公ではなく、市場経済である。そうなると、知識、歴史、思考などを、市場経済がコントロールすることも可能になる。
たとえば、コロナで図書館が休館の時に、テレビと新聞とネットが情報源になり、コロナの見方考え方も私たちはあの時に何を見たかで大きく分かれてしまったと思います。コロナは、マスコミやネット情報と、図書館、図書館の運営の在り方が、私たちの思考にどう影響するのか知らしめてくれたと思います。
- 図書館とテナントスペース間が仕切られていないだけでなく、テナントは民間のカフェで、静寂を保つ図書館の基本的な要件を満たせない可能性がある。
- 民間テナントのカフェに図書館の貸し出し書籍を持ち出して良いことになっているときいている。これは蔦屋図書館のようなレイアウトであり、図書館に市場性が入り込む。指定管理者がこうした事業者になれば、同様の運営が可能であり、ビルオーナーと大田区が共同で、指定管理者の形態ありかたまで想定して内装工事したことになる。
このような形態のスペースの賃料をどう評価するのか見えないが、そもそも区議会に示されてこなかった。
- ICタグの関知ゲートがビルの共有部分にある
- そのため、仮に持ち出しを感知しても図書受付から見えないほど遠く、持ち去り防止にならないうえ、図書館利用者でない方まで誤認する可能性がある。
- 受付が、入り口含め施設を見渡せる構造でない。
- そもそも、借りているスペースが、テナントとして立地と形状が悪い。しかも共有部分との間仕切りが無い。にもかかわらず賃料は特段やすいわけでもない。このことも設計の制約につながっている。
- カウンターが極端に狭く、ICタグ導入と対面での貸し出しが減ることから、機械貸し出しがほぼ中心になる可能性がある。無人のレジのようなものだと思われる。利用者の声を聴くカウンターが減れば、図書の知識も蓄積されない。そうなれば、レファレンス能力も下がり、単なる貸本屋になり、そもそもの図書館の機能がおちる。
など、問題は多岐にわたりますが、最後に平成30年に出された「大田区立図書館の今後ありかた」
についての基本的な姿勢の問題点についてしてきしておきます。
基本的な運営方針に
・レクリエーション等にしすることが区立図書館の基本的役割に入ってしまったこと
・人と人とを結びつけ地域活動の育成の役割が図書館の仕事になってしまっていること
・すべての区民が等しく充実した区立図書館サービスを享受できるよう充実した図書環境の整備につとめること、基準がわからないため、何をどこまで整備するか見えないこと
これらは、他の施策においても、基本的な成すべき役割を果たさず、市場経済でいるプラスアルファの付加価値を図書館の基本的な方針にいれてしまっているために、総花的で、予算ばかり投入され、優先順位がつかないことになります。
結果として、公的図書館に求められる、区民が情報・知識を得ることによって成長し,生活を維持していくことができる環境、文化的な,うるおいのある生活を営む権利を守る場としての役割が見えなくなっています。
付加価値をニーズと置き換え優先順位を問わず行政課題とすることは、図書館に限らない、あらゆる場面における大田区、そして日本の政治的な問題の部分だと思います。
方針への問題提起として反対いたします。