ビラを配っただけで罰金?警察に通報?「大田区客引き客待ち行為等の防止に関する条例」案に感じる杞憂
「(仮称)大田区公共の場所における客引き客待ち行為等の防止に関する条例」案のパブリックコメント募集は明日(12月15日)中。読んでみたら気になる個所がたくさん出てきた。
大阪市が客引きに初の罰金条例という報道が取り上げられたが、大田区が作ろうとしている条例は、その一歩先を行っているかもしれない。
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「(仮称)大田区公共の場所における客引き客待ち行為等の防止に関する条例」(案)への意見を募集しています
「(仮称)大田区公共の場所における客引き客待ち行為等の防止に関する条例」案
大田区は、「(仮称)大田区公共の場所における客引き客待ち行為等の防止に関する条例」案をつくり、
区内公共の場所における風俗営業店等による客引きや客待ち行為等を防止して、区民生活の平穏を保持し、安全で安心な地域社会の実現をめざす。
としている。
区は、条例制定の背景を以下のように説明する。
【条例制定の背景】
蒲田駅周辺など、区内の繁華街には、以前から風俗営業店等による客引きが目立って
いますが、当区地域振興部の調査によれば、蒲田駅周辺では最も多い時間帯で約100 人
の客引きが道路上で通行人に声を掛けたり、客待ちをしている状況がみられました。
大田区でも、平成23 年から地域団体等と連携して、蒲田駅周辺の夜間パトロールを
実施しているほか、警察においても取り締まりを強化するなどの対策をとってきました。
しかし、執拗な客引きが後を絶たず、蒲田のイメージを悪化させるだけでなく、通行す
る区民が不安を感じたり、迷惑がかかっている状況が続いています。
昨年に比べ客引きに関る110番が、増えていることや、営業者では同程度なものの、客引きの検挙者数が、増えているデータなどが条例制定必要性の根拠となっているようだ。
風俗の客引きや客待ちは目に余るものがあるが、この条例の対象は必ずしも風俗だけに限らないと読める。問題のある客引き客待ちとそうでないものとをどう区別するのだろうか。
その証拠に、風俗営業店等とあるように、公共の場所における禁止事項をよく読むと、どんな営業に関するのものでも、公共の場所で人の通行の妨げとなるような方法で客引きをしたり人に呼び掛けたりビラ等を配布又は提示したりして客を勧誘してはならないし、相手方を待ってはならない と読める。しかも、客引き客待ち行為等となっていて、相手方を待っていてはいけないので、立っていることが禁止事項にふれて条例違反になってしまう可能性がある。
以下が、大田区が禁止しようとしている内容だ。
【公共の場所における禁止事項】
(1) 何人も、公共の場所における客引き客待ち行為等をしてはならない こととします。
(2) 何人も、金銭や財産上の利益を供与し、又はその供与を約束して、人に(1)の行為を
させてはならないこととします。
(3) 何人も「風俗営業店等」のほか、居酒屋やカラオケ店など、どんな営業に関するも
のでも、公共の場所で人の通行の妨げとなるような方法で客引きをしたり、人に呼び
掛けたり ビラ等を配布又は提示したり して客を誘引してはならないこととします。
また、公共の場所で人の通行の妨げとなるような方法で、こうした客引きや誘引の
相手方を待ってはならない こととします。
加えて、以下のような警察との協力や情報提供なども規定されている。
・区長(大田区?)が違反者に氏名等を質問しても、答えようとしない場合でも、警察が情報を把握している場合には、違反者の同意なしに、違反者の氏名の情報をとり、条例に基づく指導や警告等の措置をとれるようにする。
・当該違反者から暴行・脅迫等を受ける危険性があるような場合には、警察官同行の
協力を求める。
・(大田区が?)他の法令違反と認めたような場合に、警察にその事実やその者の氏名等の情報を通知する。
「警告」、「勧告」、「公表」に加え「過料(罰金)」まで区長が行うが、最初の「指導」はボランティアがすることになっていて、区民間の監視体制を作るようで非常に怖い。
しかも、禁止するのは、「区民生活の平穏を保持し、安全で安心な地域社会の実現」のためだ。
平穏や安全安心を実現できないと、罰金や、警察に名前を調べられたり同行されたり通報されたりする条例にならないか。
特定秘密保護法が、何が秘密かわからないということが問題になっているが、この条例も、風俗営業の客待ちや客引きだけでなく、公共の場において、立ってい るだけで相手方を待っているととらえられてしまえば、条例違反となり、罰金。氏名を警察から聴取したり情報提供できたりするように読める。
自民党の憲法改正案Q&A を読んでいると、現行憲法で、生まれながらに持っている基本的人権が、国が認めた範囲でしか認められなくなり(p13,Q14)、人権相互の衝突においてしか制約できなかった人権を国が制約できるように(同Q15)変えようとしているのがわかる。
区民生活の平穏や安全安心を乱されたとボランティアが感じれば、「指導」が行われることにはならないだろうか。公共の場で「風俗営業店等」や居酒屋、カラ オケ店以外だけれど営業している人がいて、誰かの体にちょっとふれてしまったり、進行方向をふさいでしまうことで安全や安心を乱されたと感じ、指導しても やめなければ・・・・。
まさか、この条例で、政治活動のためのチラシ配りや集会の案内配布が条例違反になることは無いと思うのだが、それらとの線引きはいったい誰がどのように行うのだろうか。
とりあえず、自民党の憲法改正は、解釈改憲と法改正に方向転換したようだが、様々に解釈が可能になる条例ができるとするなら慎重になる必要がある。