CO2 排出削減を指標にした環境政策とSDGsの問題点

CO2排出削減を指標にした環境政策は、その根底にある社会経済システムの課題を見えにくくし、場合によっては、放置してしまいますが、私たちが、今、問い直さなければならないのは、大量のエネルギーを必要とする経済活動や開発であり、それを前提とした社会や暮らしのあり方だと思います。

これまで、折りにふれて、SDGsに問題があるとお話ししてきましたが、出された陳情を機会にフェアな民主主義 奈須りえの考え方を討論しました。


 


 

陳情書 2021年第二回定例会 3第30~41号 

 

3第35号 2030年CO2削減目標引き上げに関する陳情 P8~10

3第36号 大田区ゼロカーボンシティ宣言に関する陳情 P11

3第37号 政府へ「再生可能エネルギーの更なる活用促進を求める意見書」等の提出を求める陳情 P12~13

の委員会審査結果、不採択に賛成の立場から討論いたします。

 

これらの3つの陳情は、内容に違いがあるものの、CO2排出削減を環境改善の指標としていて、

35号は、CO2削減目標を対2000年度で50%以上とすること

36号は、CO2排出削減ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」を区長が表明すること37号は、CO2排出を抑制する手段として

・再生可能エネルギー電力目標の上乗せ

・石炭火力発電の段階的廃止

・原発の最終的な廃止を視野に再生可能エネルギーへの転換

を求めています。

 

フェアな民主主義 奈須りえは、ひとたび事故が起きれば、不可逆的かつ深刻な悪影響を長期的に広範に与える原子力発電は廃止すべきだと考えていますし、自然エネルギーへの転換や、再生可能エネルギーの利用について発言することもあります。ですから、これらの陳情に、フェア民主主義が不採択の立場をとることに、違和感を覚える方も少なくないと思います。

陳情者の環境悪化に歯止めをかけたい、という想いは一致するもので、共感いたします。

 

しかし、陳情者の求める、

・CO2を減らすことや

・再生可能エネルギーに転換すること

だけで環境悪化に歯止めがかかるとは思えないのです。

そればかりか、CO2排出量を環境悪化の元凶ととらえ、CO2排出量を減らす事業や再生可能エネルギーに転換することが目標になれば、CO2排出の背景にある、根本的な環境悪化要因は放置されたままで、さらに環境改善への道を遠ざけることになる可能性があります。

個々のビルや住宅が省エネになっても、沢山の開発が行われれば、樹木は伐採され、資源は浪費され、環境は悪化します。開発は、土や水や海をコンクリートで固めて、食物連鎖をはじめとした自然のサイクルの中での循環を断ちます。

発電段階での再生可能エネルギーのCO2排出量は、石油や石炭など化石燃料に比べ少ないかもしれませんが、太陽光、風力などの設備の設置、稼働、廃棄などによるCO2排出や環境への負荷はそこに加味されていませんし、風力は低周波の影響もあると聞きます。

私たちが問い直さなければならないのは、大量のエネルギーを必要とする経済活動や開発であり、それを前提とした社会や暮らしのあり方だと思います。

それがCO2の排出という指標だけみることになれば、この大量のエネルギー消費を前提とした経済社会システムをどう維持するか、という狭義の持続可能性にしかなりません。結果として、CO2排出の少ない手段で調達したエネルギーなら、経済活動を循環させても良いし、自然を壊して開発し続けることも良くなってしまいます。

私がSDGsに疑問を持つのも(その8)が、

持続可能な経済成長 sustainable economic growth 

だからです。

地球温暖化対策の推進に関する法律の目的である、現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保にはならないということです。

今の日本がグローバル資本家の経済利益を優先する方向に傾いていますが、私たちの国日本は、つい100年と少し前まで、鎖国をしていました。鎖国の是非は別の場にゆずりますが、少なくとも、エネルギー、食糧、衣料、住宅など、地域内循環を確保していたという事です。

利便性や快適性のために、他国の資源に依存し、安いものを海外から調達すればよいという政策のもと、国内農林水産業を衰退させ、製造業を衰退させてきた結果、今では、建築資材やエアコンなどの設備も不足し始めているそうです。2035年に日本は飢餓に直面すると指摘する学者もいます。

表面的な持続可能性ではなく、私たちはどうやってこの日本という国土の中で生きていくのか、という視点でこの気候変動について考えたいと思います。

2001年、IPCCが、北半球の過去1000年間の気温推移を示し、特に過去100年急激に上昇していることをCO2の排出量と関連付けた第三次報告書により地球温暖化の議論が行われています。

 確かに1000年のスパンで見れば、気温は上昇傾向が見れますが、気温推移を約1万年前の氷河期からみると、人間活動がCO2を出していない大昔にも気温上昇は何度か起きているグラフがみつかりました。

都市部において、コンクリートで台地に蓋をする人間の開発や経済活動が、気温上昇や豪雨などに影響している部分はあると思いますが、その時、私たちは、CO2のみではなく、開発を問題視すべきだと思いますし、その開発の動機づけに、誰かの利害は無いのかも含めて考えるべきだと思います。

 陳情者の想いには賛同いたしますが、採択することで、本質的な問題が見えなくなることを懸念し、不採択を求めます。