ガレキ広域処理についての新潟県泉田知事による環境省への再質問にみる自治体の長としての役割

これまでの市民の放射能への疑問、そして、がれき広域処理という政策の妥当性について、環境省に確認する文書です。

受け入れ自治体が、どこまで、これらの疑問点について確認したうえで、受け入れを決めたのかが逆に問われる内容です。

と同時に、環境省の回答が注目されます。

是非、ご覧いただき、各地域でのがれき広域処理への態度を点検していただければと思います。

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環境大臣 細野 豪志 様

新潟県知事 泉田 裕彦

東日本大震災により生じた災害廃棄物の放射能対策及び
広域処理の必要性に関する再質問について
平成24年4月6日付け廃第73号により提出した質問に対して平成24年5月10日付
け環廃対発第120510001号で回答をいただいたところです。

しかしながら、従来の説明の域を超えない内容であり、県としては、依然として、
受入れを決められる状況に至っていないことから、災害廃棄物の放射能対策及び
広域処理の必要性に関して、別紙のとおり再質問します。
(担 当)
防災局 放射能対策課
TEL:025-282-1693
県民生活・環境部 廃棄物対策課
TEL:025-280-5159

1 放射性物質に関する国の認識について

原子力発電所等の施設から排出される低レベル放射性廃棄物は、ドラム缶等に
封じ込め、放射性廃棄物を処分するために整備した我が国唯一の最終処分場にお
いて処分するという厳格な対応をとっている。また、環境中への放射性物質をや
むなく放出する場合においても、厳格な基準を遵守し、その基準を満たすことを
確認するための排ガス等の常時監視などの措置をとることとされている。放射性
廃棄物を処分するために整備された青森県六カ所低レベル放射性廃棄物埋設セン
ターにあっては、埋設を行う放射性物質をセメント、アスファルト等で固化する
ことなどを規定し、埋立総量も上限を定め、更にその周辺の放射線モニタリング
を徹底し行うことで国から事業許可を受け、事業を行っている。

(1)震災後制定された法令により、放射性廃棄物の処分を想定していない市町
村の廃棄物処理施設で放射性廃棄物の焼却や埋設等の処分を可能とし、排ガス、
排出水中の放射性物質濃度を常時監視しないなど、震災以前の規制を緩めたこと
は、環境への放射性廃棄物の漏洩・拡散のリスクを高めることを許容したという
ことでよいか。
その場合、その考え方は何か。
また、決定に至る議事録等を示されたい。

(2)ICRPの1990年勧告では、低線量・低線量率の発がん確率について「線
量反応関係には真のしきい値を想定しうる十分な証拠はない。」とされているが、
国の放射性廃棄物に関する規制値の設定の考えは、このICRPの考えを維持し
ているのか。
また、そうであれば担保している根拠を示されたい。
一方、維持していないのであれば、その理由を明らかにされたい。

(3)放射性物質を扱う専門組織及び専門職員が存在しない市町村に、放射性物
質の管理をさせることの妥当性をどう考えているのか。

環境省は、市町村が行う放射性物質の管理に係る予算措置や職員の教育訓練を
実施しないのか。また、管理の実効性を確保するためにどのようなことを行うつ
もりか。

(4)震災後制定された法令では、放射性廃棄物を含む焼却灰等を市町村最終処
分場で埋立可能とする濃度を8,000Bq/kg以下とし、濃度規制だけをもって規制し
ているところであるが、放射性物質の貯蔵については、その量を国に許可・届出
することが義務づけられていることに対し、当該処分場に埋立できる放射性物質
の総量を規制しない理由を示されたい。

(5)福島県内の災害廃棄物の処分の方針を決定するために重要な安全評価を行
う「災害廃棄物安全評価検討会」を非公開とすることについて、環境大臣が「不
安をあおらないやり方」と発言した旨公表されているが、どのような部分が不安
をあおると考えたのか。

2 放射能対策についての技術的問題について

(1)最終処分場の排出水から放射性物質が出ることを前提としてゼオライトで
対応することを指示することは、国が示した処理基準では完全に放射性物質を封
じ込めることができないことを示唆しているのか。

(2)ゼオライトの設置が事故の発生を想定したものであれば、法令や基準にそ
の設置や措置方法を規定しない理由を示されたい。

(3)ベントナイトによる雨水の浸透の防止能力の科学的検証を示されたい。

(4)土壌層による放射性セシウムの吸着能力(量・期間)の科学的検証を示さ
れたい。

(5)大雨により処分場が冠水した場合の安全性の検証について示されたい。

(6)浸出水が漏洩した場合、周辺環境への影響の把握など恒久的な対応方法を
どうすべきか国の考え方を示されたい。

(7)環境省の資料では、「排ガスは冷やされて、気体状あるいは液状のセシウ
ムは、主に塩化セシウムとして固体状になり、ばいじんに凝集したり吸着する。」
とあり、全てのセシウムが塩化物となることを想定していると考えられる。

市町村の廃棄物処理施設で焼却した場合、セシウムは何%が塩化セシウムにな
るのか、また、ガス化するセシウムはないのか、科学的検証を示されたい。

(8)震災がれきを焼却している施設では、国の指導に従って通常の測定方法
(JISZ8808「排ガス中のダスト濃度の測定方法」)により検体を採取、測定し、
排ガス中の放射性セシウム濃度としているが、ガス化している放射性セシウムが
ある場合は正確な測定でない可能性があるが、これに対する科学的検証を示され
たい。

(9)静岡県島田市の災害がれきの試験焼却の結果において、公表されているデー
タによれば、焼却から発生する排ガス、ばいじん等の一連の行程での放射性セシ
ウムの物質収支量を見ると、4割の放射性セシウムが所在不明となっているが、
その原因と理由を示されたい。

3 放射能対策についての管理面の問題について

(1)震災以前は厳格に国が規制していた放射性廃棄物の処分について、これま
で放射性廃棄物の処分の経験がなく、また、放射能に関する専門職員及び組織を
持たない市町村に委ねることは、放射性物質の漏洩によるリスクを高め、本来国
が負うべき責任を市町村に転嫁しているように見えるが、トラブルが生じた場合、
国はどのような具体的な責任をとるのか。(現に国の基準を満たした焼却灰を埋
め立てたにも拘わらず、その排水から放射性セシウムが基準を超えた事例が見ら
れている。)

(2)放射性廃棄物の処分のために設置されている青森県六ヶ所低レベル放射性
廃棄物埋設センターでは、管理期間を概ね300年と見込んでいる。

放射性セシウムの半減期は30年であるが、市町村の一般廃棄物最終処分場で封
じ込む期間や封じ込めのレベルをどの程度と見込んでいるのか。

また、市町村最終処分場の埋立期間は概ね15年とされているが、その期間を超
えた後、どのようにして管理するつもりか(「廃棄物最終処分場の性能に関する
指針(平成12年12月28日付け)(環境省)」第四1(1)性能に関する事項に
「埋立処分を行う期間内(十五年間程度を目安とし、……)とされている。)

(3)群馬県伊勢崎市の最終処分場や千葉県市原市の廃棄物処理会社の排水から、
国が示した排水基準の目安を超える放射性セシウムが検出されるなど、実際に放
射能の漏洩等、現に管理できていない事例が見られる。

放射性物質の取り扱いの経験のない多数の事業主体が、なぜ厳格に管理できる
と考えているのか、本来、国で一元的に管理すべきではないか、根拠を示された
い。

4 「がれき処理の全体計画の明示」について

(1)5月10日付けの回答では、「岩手、宮城両県の災害廃棄物の発生量、処理
量等について見直しを行っているところであり、広域処理の必要量についても改
めて精査が行われる予定」とのことであるが、これらが未確定な中では広域処理
の必要性について明確にならないと考えられるので、これらを明らかにした上で、
改めて4月6日提出の質問に回答いただきたい。また、その際、岩手県及び宮城
県における可燃物の発生量についても示されたい。

(2)今回回答いただいた参考資料及び環境省ホームページ等を基に推計(別表
参照)すると、平成26年3月末における地元未焼却量の推計は98.4万トンとなり、
これは、広域処理を行わなくとも、平成26年3月末から岩手県では2か月弱、宮
城県では7か月弱で焼却処理が終わる量である。一方、4月17日付け環境省資料
によれば、既に162万トンの広域処理が現実的なものとなりつつあるとのことな
ので、これ以上の広域処理は不要ではないか。

(3)仮設焼却炉を岩手県で2基、宮城県で29基、合計31基が稼働中又は設置
予定であるとのことだが、これらによって全ての災害廃棄物を本当に域内処理で
きないのか、改めて明確な根拠を示されたい。

(4)今回回答いただいた参考資料では、宮城県で災害廃棄物を処理する焼却炉
に既存の焼却炉がないが、なぜ既存の焼却炉も活用しないのか。地元で埋立の反
対運動があったことが原因なのか。

(5)仙台市では地域内の処理が進み、他地域の災害廃棄物についても10万トン
の処理を引き受ける一方、来年12月までには焼却処理を終了するとのことである。

国は、被災地の災害廃棄物処理を全体的に見通しつつ、被災地域間の災害廃棄
物処理の進捗の違いを調整して、できるだけ域内処理できるよう調整すべきと考
えるが、現在どのような調整を行っているか。また、そうした調整を行っていな
い場合は、その理由を示されたい。

(6)阪神淡路大震災においては、仮設焼却炉は発災後約3か月後には設置され
始めていたが、今回仮設焼却炉の大半の設置が約1年後以降と著しく遅れている
のはなぜか。

(7)阪神淡路大震災では、兵庫県内において、可燃物の23%程度が埋立処理が
されたが、なぜ、放射性物質の濃縮の危険がある東日本大震災の可燃物の埋立処
理を行わないのか。

(8)このように、広域処理の必要性が明確でない中では、むしろ広域処理によ
り生じる多額の国家予算を、被災地支援に有効利用すべきではないか。

(例)岩手県のホームページによれば宮古地区広域行政組合の処理単価が1トン
当たり16,300円なのに対し、財団法人東京都環境整備公社の広域処理単価(運搬
費含む)は1トン当たり59,000円となっている。広域処理引受量162万トンで差
額を算出すると、約700億円となる。)

(9)なお、環境省は、5月21日に、岩手県、宮城県の広域処理必要量の見直し
結果を発表しているが、従来の必要量はどのように見積もったのか、また、今回
見直しの理由と内容について、改めて明確に回答願いたい。