【その2】(仮)東糀谷工場アパートの事業主体が東電子会社から外資系投資会社になった問題について


更に、大田区は、「産業支援策は、当初、立ち上がりを助けるという機能だったものが、それを超えて工業集積そのもの、大田区から工場が外に出ないよう、あるいは優秀な企業が大田区に入ってくることができるよう、工場立地政策を考えるにいたった。」また、さらに、「区立と言えば、区が土地を買い、建物を建てて、区が運営していくことだが民間が担う工場アパートという運営の仕方もあるのではないか」と発言しています。

産業集積という一方で、タイの工場アパートへの進出を支援するなど、大田区の産業支援策に一貫性が見えないことも問題ですが、大田区の産業支援策が、区営住宅のような位置づけになってきたということがわかります。

更に、当初、東電不動産から大田区が借り上げるのは、全体の1/2から2/3程度だった計画が、原発事故等の影響により、一括借り上げになり、差額負担が年6000万から8000万円になるという報告がありました。

借り手がいてもいなくても家賃保証されるという、事業者である東電不動産に非常に都合のよい条件であったにもかかわらず、大田区は、それを了承しています。『震災や円高の影響で日本のものづくりの海外シフトが懸念される』という認識がありながら、『大田区内の工業集積の維持・発展に向け入居希望企業の募集をしたい。』と議会に説明しているのです。

その時点で、東電不動産は、まだ、公共性の高い事業だとして事業を遂行すると表明していました。

ところが、最終的に、東電不動産は、建物を建設するだけ、しかも、一括で大田区が借り上げるため家賃保証されるにも関わらず、原発事故による賠償金確保をその理由に不動産を売却するとしてしまいました。
これに対して大田区は、あくまで、東電側の一方的な事情であるにも関わらず、通常あり得ない、事業継承を認めています。

工場アパートとして建物を建設し事業を行おうとしたのは、東電不動産の意思です。そこに大田区が借り上げを表明していたとしても、原発事故により撤退するのは、東電不動産事情であり、大田区が、東電の事業継承を認めるいわれはありません。実際、大田区と東電不動産との間には何ら契約書は締結されておらず、単なる覚書と聞いています。

事業継承の相手先は、不動産投資会社で、特定目的会社を作り、大田区の工場アパートで資産運用するそうです。

不動産投資において、確認すべき重要なポイントは、投資金額と収入=つまり利回りです。

今回の工場アパートは、ほぼその建設が終了しており、投資金額はいくらかはわかりませんが、確定しています。それに対して、収入も、大田区が一括借り上げ家賃保証しているわけですから、一定の収入は確保されています。

現在、大田区が定期借地権で貸している大森駅前のラズは、未だに満室になっておらず、先日確認したところ、利回りが確保でき無いのでしょう。リートへの移行ができずにいると聞いています。こうした不動産市況のなかで、不動産投資会社が購入し資産運用できるのですから、いかに、おいしい事業スキームであるかがわかります。

これが、民間の投資、民間の企業努力による収益であれば問題はありません。
また、大田区に参入なさる企業の賃料が減免されることも当然のことです。しかし、東電が原発事故を起こしながら、その賠償金を確保するための不動産売却利益にまで税金が投入されているとするならなんと都合の良いシナリオでしょうか。

民間事業者による工場アパート事業参入のメリットは、民間事業者がリスクをとらなくてよいことではなく、大田区がリスクを取らなくてすむことです。

しかし、現在の一括借り上げでは、入居者の確保できない場合のリスクはすべて大田区が持たなければならず、これでは、区が土地を購入して貸し出すのとかわりません。それどころか、民間の事業者が入ることにより、民間事業者の利益分や固定資産税などが上乗せされ結果として大田が一括借り上げ賃料の中で負担していることになっているのです。

企業努力もなく、自動的に投資収益が確保されるこの事業スキームは、仮に産業支援という大義名分があったとしても大きな問題があり、反対しました。