都知事選挙でクローズアップされてきた「国家戦略特区」とは

原発の問題も重要だが、私の都知事選の争点は、「国家戦略特区」と「法人住民税国税化」だ。
今日は、国家戦略特区について取り上げたい。
どちらも、重要な舞台は、東京都。都民に大きな影響を及ぼす。 TPPと表裏一体の国家戦略特区】 アベノミクス第一の矢として大胆な金融政策、 第二の矢として機動的な財政政策、そしてそれに続く第三の矢が「国家戦略特区」だ。規制緩和により世界で一番ビジネスしやすい街をつくろうとしている。
規制緩和と言えば、TPPだが、TPPもこの国家戦略特区も表裏一体だ。国際条約であるTPPに批准し、実効性あるものにするには法整備が必要だからだ。たとえ、TPPに批准しなくとも、国家戦略特区なら、ISD条項などを除けば、TPPに批准したのとほぼ同じ状況を作ることが可能になる。
提案した竹中平蔵氏本人が、「岩盤規制緩和の突破口」と言っているように、この国家戦略特区というしくみが、一足飛びの規制緩和を可能にしていくと見ている。
その舞台の一つが東京都になるというわけだ。
ネーミングからして「国家戦略」と勇ましく、「特区」とスペシャルな響きだが、国家戦略特区のどこが飛躍的な規制緩和を可能にするのだろうか。 

一つが、特区というしくみによる規制緩和だ。

 【小さく生んで大きく育てた特区】  

特区法の変遷

 

そもそも、特区法を使った規制緩和は、2003年、小泉政権時に「構造改革特別区域法」としてスタートした。当初、「一国二制度ではないか」「法の下の不平等ではないか」といった議論もあったが、「地域主権だから」「税財政措置はとらないから」ということで、試験的に成立した。
憲法95条は、ある自治体だけに適用される法律は、対象となる自治体で住民投票し、その過半数の同意を得なければ制定できないとしているが、住民投票も行われていない。元の法律を改正せずに可能な特区による規制緩和は、法の目的の範囲内だからだったのだろう。構造改革特区法には、数多くの規制緩和が列挙されているが、未だに実行されていないものがたくさんある。 ところが、今回の国家戦略特区法は、規制本来の目的までなし崩しにしようとしている。

 

さらに、震災直後の2011年4月に成立した総合特別区域法には、法の下の平等という点で問題だと指摘されていた財政措置が盛り込まれた。被災地域への特別な支援が必要という心理的背景が、特区を使った法の下の不平等を既成事実化してしまったのではないか。その結果、地方税である法人事業税や固定資産税の全額減免等が地方税法で定められた議会の議決なしに決められている。
国家戦略特区のワーキンググループで行われた有識者ヒアリングには、「平時であれば、絶対に法制審をスキップすることはできない。なぜできたかといえば火事場だったからである。つまり、今も火事場だという認識を作る必要がある。だから、平常のルーチンはスキップさせてもらいますと、これはとても重要だと思う。」という議事録が残されている。
竹中平蔵氏自身、国家戦略特区について、法律論上は難しい問題を含んでいると言っているのは、こうした経緯に有るのではないだろうか。

 

【岩盤規制の突破はミニ独立政府で】

しかも、今後の規制緩和が、内閣総理大臣が任命する、竹中平蔵氏をはじめとする民間有識者で占める「国家戦略特区諮問会議」「同区域会議」にゆだねられる。規制緩和を求める企業等が提案し、規制緩和を推進したい民間議員が決める、竹中氏が言うところのミニ独立政府ができたことになる。
  国家戦略特区諮問会議では、2年で岩盤規制の突破口を開くと話されており、雇用の規制緩和や混合診療などの医療規制の緩和、道路や上下水道事業など公共インフラ運営に株式会社参入や、株式会社による公立学校運営などが、まず、東京都から導入され、全国展開していくだろう。

 

5年以上非正規雇用なら正規雇用への転換を義務付ける労働契約法を見直し、要件を満たせば、延長や解雇を可能する。競争原理が働けば、同じ仕事は同じ賃金になる。それを阻害する規制は取り払い同一労働同一賃金を目指す。、 混合診療の枠を拡大し、高額医療に一部医療保険の適用を認める。 株式会社に公立学校運営を認める。

といった規制緩和が、日本の1/10もの人口が集中する東京都で行われることも問題だが、そんな簡単なものではない。
【東京都の影響は日本全国へ】 東京都で展開される解雇特区は、東京都に住民票のある労働者だけが対象なのだろうか。それとも、本社を置く企業だけなのだろうか。神奈川県に住み、東京都に勤務する人は、対象外なのだろうか。東京都に本社のある愛知県の工場に働く労働者は対象だろうか。
東京都にある病院で受診する大阪から来た患者は対象だろうか。東京都に本院のある病院の分院での診療は対象だろうか。 東京都で混合診療を認めれば、仮に東京都内の住民しか受診できないとしても、国民健康保険は、区や市単位なので、大田区に高額医療の混合診療を認める病院ができて、町田市民がおおぜい受診すると、町田市の医療保険会計が悪化し、国民健康保険料が上がる可能性がある。そうした不公平についての議論が、都内すべての自治体と東京都で行われてきたという話は一切聞いていない。 これは、自治体の健康保険だけの問題ではなく、企業の健康保険組合に影響を及ぼす可能性もある。
特区などと言っているが、経済活動における区域の線引きは非常に困難で、東京都に神奈川・埼玉・千葉を加えた1都3県で人口3000万人圏。1都6県で4000万人を超える人たちに影響を及ぼす可能性があるし、それだけでなく、全国に影響が及ぶ可能性があることもお分かりいただけると思う。
国家戦略特区における区域にどれほどの意味があるだろうか。 バーチャル特区という概念が国家戦略特区で議論されたが、まさに、バーチャル(事実上の、実際の)という言葉が示すように、「特区」という区域を限定した規制緩和が、やりたい人たちがやりたいところ(バーチャル特区)で展開するための便法であることがわかる。
【特区による都民への影響を示せる都知事を】

国家戦略特区は、経済活性化のために、規制を緩和し、投資を呼び込む、外国企業を呼び込むと言っている。

東京都アジアヘッドクオーター特区HPより

 

今、都内では、減税や利子補給により、新宿、渋谷、品川・田町、六本木、丸の内、日本橋、お台場などで開発が進められている。しかし、国のみならず、地方自治体まで巻き込んで税財政優遇措置を行い、利子補給した外国企業が、オリンピックが終わった日本に再投資する保障は無い。景気が良くなり、最終的に税収は増えるという理屈のようだが、試算は行われておらず、減税分以上に都民に還元されるかどうか確認することも出来ない。

 

ミニ独立政府と呼ばれる「国家戦略特別区域会議」がこの国家戦略特区について大きな権限を持つわけだが、この国家戦略特別区域会議のメンバーとなる都知事の果たす役割は大きいと考える。