23区の大田区で待機児を出す理由について「計画行政」からの視点、東京都との財政調整制度からの視点

生活者ネットワーク奈須りえです。

 二元代表制における区長と議会は、予算編成権を持つ区長に対し、予算を議決する議会がそのチェック機関となり、権限を区長に集中することなく、選挙で選ばれた区民の代表が行政を監視することによる住民自治を守る関係です。

区長は議決により単年度の予算について約束するだけでなく、区政を私物化しないよう、長期的視野にたった計画的で持続可能な区政運営を可能にするため、将来像を基本構想で示し、それを長期計画に描き、更に詳細で具体的な実施計画により事業化して実行しています。

そのため、基本構想は議決事項となっていて、議会改革の視点から、基本計画、実施計画も議決事項とする自治体もでてきています。

大田区では、基本構想のもと、未来プランをつくり、前期後期に分けて事業も落とし込んでいますので、実質未来プランが実施計画になっています。

この計画行政という視点からみて、西行政センターの移転は、非常に問題の多いスタートを切りました。

総務財政委員会に旧西行政センターの売却と現在位置する水道局跡地を購入しそこに移転するとの方針がだされたのが、平成18年の4月でしたが、その翌月の臨時会で水道局跡地購入のための費用9億9千5百2十9万円が補正予算で計上され可決されています。

旧行政センターの移転に伴う土地購入という極めて重要な議案が臨時会で提案されるという異例な事態に議会は大変混乱しました。

大田区には旧西行政センター移転の計画が無かったからです。

突然の旧西地域行政センター移転に対し、大田区はこのように説明しました。

「 株式会社アルプス電気は、同地に本社機能を置いておりますが、社屋の老朽化により改築計画を進めておりました。こちらの改築計画と連携し、官民協働のまちづくりを進めることで、雪が谷大塚駅周辺のまちづくりが一体的に行われることになります。具体的には、同社の敷地の一部と交換により取得する用地に、自転車駐輪場を設置することで駅周辺の放置自転車対策を、また、センター庁舎、アルプス電気、双方の改築により、中原街道の西側の狭あい道路、こちらを拡幅していく、あるいは同社がただいま改築計画にあわせて検討しております公開空地の提供、これらによりまして防災機能の向上を図ってまいりたい。このように考えております。」  突然示された方針でしたが、なぜかと言えば、隣接する企業の社屋建て替えに旧西行政センターの土地が必要だったからです。

莫大な税金を投入して改修するなど直前まで、長期にわたり使用する計画だった旧西地域行政センターでしたが、大田区は、「長期基本計画おおたプラン2015で地域核に位置づけられている」ことをもって、この事業を正当化し、「安全で暮らしやすいまちづくりを推進すること」が事業目的だと説明しました。

都市計画マスタープランには「歴史的建造物が集積している池上本門寺周辺の地域は、建造物とその周辺が一体となった街並みづくりが課題です。」と書かれ、「国分寺崖線周辺は、広域的に連続する緑や湧水などの自然を景観資源として保全するとともに、その周辺についても自然の潤いを感じられるような街並みづくりを進めます。」と書かれていますが、大田区はそれらが壊される開発計画を知った時、土地を買ってまでそれを守るでしょうか。

そこでうかがいます。

移転を正当化するため、企業のCSRまで持ち出し強引にすすめた行政センターの売却と用地取得でしたが、雪谷大塚周辺のまちづくりの評価についてお答えください。公開空地を社会貢献としていましたが、計画が具体化する過程で、最初になくなり、公開空地は提供されませんでした。CSR社会貢献とはなんだったのでしょうか。世田谷区との区界設置された駐輪場は、放置自転車対策になっているでしょうか。平日で800台だった放置自転車は、その後検証できているのでしょうか。

 

 

 結局はまちづくりやCSRという言葉を使いましたが、単に開発による道路のセットバックをしただけということになっているわけです。

西行政センターが、計画に無いことを突然行い問題だったなら、大森北一丁目開発は、計画を根拠に議決したにもかかわらず、その後、大幅に計画を変更してしまったことの是非が問われました。

入新井出張所、入新井図書館、旧北地域行政センター、保健所の生活衛生課と衛生検査所の移転を想定し、「まちのにぎわいの創出、区民の交流拠点、区民の利便性の向上、まちづくりと連携した地域の活性化、施設の複合利用等による効率化」などを目的とするとうたわれました。

土地交換は、公用・公共用資産に限って認められる手段ですが、大田区は、公用・公共用という理由で、大田区の所有していた土地と、現在、LAZの建つ土地を差額約2億8500万円を加えて交換する議決を行いました。

にもかかわらず、その後、北行政センターの移転を取りやめ商業部分を大幅に増やし、土地交換までして取得した土地は、民間の商業施設、それも、雑居ビルになってしまいました。

LAZの公共活用部分は床面積にして2割を切っています。

平成17年、土地交換を決定した当時の決定文書には、計画前から地域住民と行ってきた「入新井街区施設建設構想懇談会」で行われたワークショップの結果が添付されています。提案には、地域に必要な施設として、図書館・出張所のほかに、予定されていた北行政センターや高齢者施設、中高生の居場所、こども家庭支援センター、幼児教育施設、保育施設、防災センター、駐輪場、専門図書館、障害者施設など数多くの公共機能への要望があげられていて、大森中心核への公共ニーズが高いことがわかります。

現在の待機児の状況や、一時預かりの必要性などを考えれば、駅前に保育園や・こども家庭支援センターなど行政機能を集中できなかったのでしょうか。

そこでうかがいます。

現在の大森LAZの出店者をあげてください。また、とその周辺の賑わいについて評価してください。LAZにより、大森のにぎわいは達成できたのでしょうか。

この評価についてはあとからまとめて発言させていただこうと思います。

 

さて、計画がありながら途中でその目的がうやむやになってしまった計画もあります。  蒲田5丁目開発は、「まちに真のにぎわいを取り戻し、地域の協働によるまちづくりを進めるために」と、にぎわいと回遊性の確保などを目的として事業者を公募、20年の事業用定期借地契約を結びましたが、街区全体の再開発計画はうやむやになり、今、街区にはホテルが建設されていて、公共用地を貸し出す意味がない状況です。

そこで2点うかがいます。蒲田5丁目開発は、にぎわいを作ることが出来たでしょうか。

一方で、借地契約期間20年の折り返し時期に来ており、契約終結後には更地渡しと決まっていますが、大田区として、どう使うかじっくり考えなければならない時期にきています。現時点での大田区の活用方法についてお示しください。

 

これらのの評価について発言させていただく前に一つうかがいます。

地方都市で指摘されてきたコンパクトシティーですが、少子化、高齢化、人口減少による社会構造の変化と公共施設建て替えニーズを考えれば、今後の大田区においても必要な考え方であると思います。

公共施設整備についての私の第一回定例会での質疑に対し、大田区は、民間の力を借りて更新し需要の無くなった施設については廃止するといっています。

そこでうかがいます。

いきなり廃止ではなく、今後は、利便性の高い駅近くに公共機能を集約していくといった考え方が必要ではないでしょうか。

 

 

ところが、西行政センター移転、北一丁目開発、蒲田5丁目開発をみていると、ことごとく、新たに生まれた公共ニーズを解決するチャンス、そして、施設の複合化のチャンスを生かすことができなかったことを実感します。

利便性の高い土地ばかりが、売却されたり、民間に長期間貸し出されたりしていますが、区民の公共ニーズからみれば、必ずしも貸し出せるような余裕はないと思うのですが。なぜ利便性の高い駅近くの土地ばかり長期間貸し出すのでしょうか。

 

旧西行政センターが駅から遠いかと言えば、大田区の中では、最も駅に近い地域庁舎でした。移転により、確かにわずかに駅近くになりましたが、敷地面積はずっと狭くなり、まちなみ維持課の移転しかできませんでした。旧西行政センターの場所で建て替えを行っていたら周辺施設との複合化による新たなニーズへの対応も効率的な施設更新の可能性もありましたが、移転という目先の目的に終始して終わりました。答弁では、待機児という言葉を使い地域のために協力という言葉を使いましたが、絵に描いた餅に過ぎませんでした。「まちづくり」という名目は、開発に伴う事業者の責務である道路の拡幅でしかなく、広く、まちを区民の暮らしのためのどう活用するか作りかえるかと言った発想の無かったことがわかります。  入新井図書館、入新井出張所、など駅近くの利便性の良い土地と交換して取得した北一丁目も蒲田5丁目も駅に近い利便性の良い場所でしたが、結局「にぎわい」という評価も検証もあいまいなもののために、長期間民間に譲渡したのと同じになってしまっています。

ここで改めて今一度強調したいのは、言うまでもなく、地方自治法第一条の二に、地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。と記されているとおり、自治体は住民福祉の増進のために存在するということです。

大田区は、3月7日に認可保育園に入れない区民から、行政不服の申し立てを受けていますが区民の申し立てに対し、大田区は、土地がないからと答えています。しかし、待機児を、民営化や、負担の少ない認証や保育ママで担おうとしてきたのがこれまでの大田区です。

 

 

それでは、本当に土地は無かったのでしょうか。

西行政センター、大森北一丁目、蒲田5丁目開発、いずれも駅近くの一等地でしかも、大森、蒲田、調布の3地域が網羅されています。

駅前に保育園を整備し、待機児を解消するとともに、周辺保育園の建て替えのタネ地として活用して、そこから玉突きに建て替えを行えば、仮園舎のリースなどという無駄な費用も必要ありません。

 

土地はありながら、土地が動くのは事業者の発意があったときばかりです。

日本で最も財政が豊かといわれている23区大田区において、社会保障の課題ばかりが先送りされるのは、本当に財源が厳しいから土地がないからでしょうか。計画に無いことを行う、計画を変更する、うやむやにするといった結果、そのしわ寄せが区民生活に及んでいるのではないでしょうか。

 

一方で、買った土地は、公園用地や都市計画に関わる土地を除くと、大森南のミヤデラ、フシマン跡地など駅から遠いところや現在駐輪場になっている区役所近くのマルエツの横のように形状の良くない土地が目立ちます。  

しかも、購入した土地からは、相次いで、土壌汚染が発見されています。

たとえば、フシマンの跡地からは油、旧ミヤデラ石綿跡地からはアスベストの塊が見つかっています。

油の処理に72,361,810円アスベストの処理に2億4350万円かかっています。フシマンからは訴訟後の和解により4,000万円が戻りますが、旧所有者の米山商事との訴訟は一審では敗訴していて、このまま全額大田区が負担する可能性が高くなっています。

キズものの土地をつかんでしまったかたちです。大田区は、工場跡地も多く、土地購入の際に土壌汚染は想定しておく必要があります。

そこでうかがいます。なぜ、大田区は補償が認められなかったのでしょうかどこに問題があったのでしょうか。訴訟の判決からは、また、今後も汚染された土地をつかまされないよう、今後の契約にどう生かせるのでしょうか。

 私は、土地開発公社に買わせることが問題なのではないかと考えています。こうした傷物の土地は、工場アパート用地になっています。議会のチェックがうまく働かないことをよしとして、公社を通じ安易に土地を取得しているのだとしたら問題です。

 

計画変更と言えば、大田体育館もそのいい例でしょう。観客数を大幅に増やし、するスポーツからみるスポーツにそのコンセプトを大きく変更しています。今では、区民利用割合は5割程度。計画変更の時から指摘してきましたが、基礎的自治体が行う、区民の健康のための楽しむための施設とは程遠い施設になっています。

隣接する中古マンションを周辺価格の2倍近い新築が購入できるほどの価格で購入し、地域住民からは監査請求されたことも問題でしたが、こうした大規模な体育館設置が、基礎的自治体として行うべき事業なのかという問題もあります。

 都区財政調整制度により、固定資産税、法人住民税、特別土地保有税の45%が大都市事務「上下水道」「消防」に加え、「さまざまな事務」のという名目で東京都の財源になっています。

23区から見れば明細の無い請求45%を支払っているわけで、明細が無い以上この割合は、10%であるかもしれません。

お手元の資料で言えば、分担関係イメージの図の特別区の右上「都の大都市事務」と示されている部分です。

 

そこでうかがいます。大田区では、空港の跡地に作る産業交流施設や蒲蒲線の整備などに積極的です。昨日の空港跡地についての「海外と国内企業の連携」「広域的な産業拠点を考えている」といった答弁から、これらが、基礎的自治体の範ちゅうをこえた国や東京都の行うべき事業であることがわかります。都区財政調整制度でいう、東京都の45%で行うべき事業であると考えますがいかがでしょうか。

 

本来、東京都が45%の部分でなすべき事業を大田区の財源で行えば、それだけ、大田区が他の事業に使うべき財源がひっ迫することになります。結果、待機児を招いているのではないでしょうか。

企業会計である上下水道の一般財源繰り入れ分をなぜか確保している非常に不思議な仕組みです。東日本大震災後の防災対策として上下水道にフレキシブル管や、液状化対策など新たな事業に莫大な税金を投入していますが、震災前には何に使われていたのだろうと、非常に気になります。

それでは、

オリンピック事業はどうでしょうか。City=市が手を上げるオリンピックに東京都が手を挙げているのは、東京が昭和18年まで東京市だった名残でしょう。他の自治体で都道府県が手を上げたのを知りません。

東京都は平成18年から4年間毎年1000億を積み立てていますが、大都市事務として財調の45%、23区住民の福祉に使うべき財源から積み立てていたのではないでしょうか。1000億積み立てられるほどに余裕があるなら45%を見なおすべきではないでしょうか。東京都のオリンピック基金の積み立てについて都区財政調整制度から見てどう評価しますか。

理論上は一般財源ですが、東京都では、都区財政調整特別会計を設け、財調の税収をいったん特別会計に計上し、それを一般会計に繰り入れているため、一般会計となるのです。その原資は23区の財源です。一般財源とするなら市部などの理解は得られないでしょう。

 

確かに大田区にも大きな問題はありますが、その背景にある都区財政調整制度の根本にある問題について、今では、23区側からの発言が圧倒的に少なくなっています。ぜひ、区議会も都議会も経験して区長になっている松原区長の区長会でのリーダシップに期待したいと思いますがいかがでしょうか。