大田区精神障害者家族連絡会が行った研修会で、東邦大学医学部 水野雅文教授が「慢性期の過ごし方接し方」についてお話くださいました。
【慢性期の過ごし方接し方】
◆写真は、縦軸にストレスの高さを示し、①日常的なストレスを波線で、②特別な出来事(ライフイベント)によるストレスを棒グラフで示したものです。
③横に引いた線が、ストレスに耐えられる域を示します。
再発をしないためには、①日常のストレスを低くする②大きなストレスを小さく感じるようにする③耐えられる域をという3つの方法があるそうです。
この耐えられる域をいかに出ないようにしていくのかが、再発を防ぐための方法になります。
耐えられる域を上に上げることをするのが薬の役割です。
退院した患者さんが、ご家族と過ごした場合とアパートなどで一人暮らしをなさる場合で、どちらが再発率が高いかというイギリスの研究があります。
意外なことに、家族と過ごしている方が再発率が高いという結果がでたそうです。
しかし、必ずしも、家族と過ごした全てのケースで再発をしたわけではなく、再発をした家族とそうでない家族との違いを研究した結果から、「批判的否定的感情を表す」「家族が患者さんに必要以上に振り回される」といった家族ほど、再発率が高いという結果が導き出されました。
このことから、家族との接し方により、グラフの波線の部分の値を下げることができるということがわかってきました。
また、特別な出来事によるストレスを小さく感じるようにするために、生活記録をつけるなどして自身の行動に自分自身が気づくようにするといったことも活動性を高めるためには効果があるそうです。
【日本の精神医療の課題など】
◆入院(施設)から地域へ
世界中の精神科のベッドの1/3が日本にあるそうです。
これは、日本が精神科医療が進んでいると言うことではありません。
1960年代に精神科治療薬が発見されて以来、世界では、地域ケアを充実させて、入院から、地域で暮らせる体制を作り上げてきているのだそうです。
東京の精神科ベッドのほとんどは市部(八王子・多摩・青梅など)に集中しています。(感染症ベッドが精神科ベッドに転換してきたことと、土地が安かったという背景がある)
たとえば大田区に住んでいる方が入院し、その後、退院をすると、住まいと病院が離れているため、治療や医療関係者との信頼関係・人間関係を最初から構築しなければならず、治療が途切れてしまい、結果として往診が増えたり、再発したりすることになります。
再入院(再発)させない地域支援が求められています。
◆日本の現状と課題
自殺者は、1998年以降倍以上に増えています。
年間3万5千人ほどが自殺で命を落としており、これは、交通事故死年間8千人と比べてもいかに多い数値であり、現在の日本が、異常な状況に置かれているかがわかります。
そして、この数値は自殺の既遂者数ですが、その背景には、5〜10倍の未遂者がいて、また一人の自殺者の周辺には5〜10人の深い悲しみにおかれている方がいるのです。
一日およそ100人が亡くなり、ジャンボジェット機が毎週落ちているのとほぼ同じだけの方が命を落としているのです。
私たちは、身近なところから何が出来るのかを考えなければなりません。
◆早期発見・早期治療
精神病の未治療期間をDurationUntreatedPsychosisと呼びます。
幻聴が聞こえたり幻覚が見えたりしてから、治療(薬を使う)までの期間をさします。
この、DUPの期間が長いほど、薬の効果が乏しいことがわかっています。
幻覚や幻聴が見えたら、ためらわずに治療にいくことを、発症の可能性の高い、15〜20才以前の中高生に伝えたいと水野先生はうったえられています。
世界では、現在、5ヵ月をめざしていますが、日本の平均は13ヶ月。
水野先生のいらした慶應病院や東邦の大橋病院でも13ヶ月ですが、昨年四月からの東邦大森での平均データは30ヶ月にもなっているそうです。
これを、地域の問題なのか、クリニック数が少ないからなのか、患者さんやご家族の意識の問題かなど、どのように見るかは、今後の研究の課題だそうです。
5ヶ月以前に治療にかかれば、地域医療ですむ可能性も高く、本人やご家族にも、また、医療経済的にも良いことは明らかです。
学校教育の現場においても、統合失調症について、高校までに習ったことのある人は、医療関係者に聞いても1/100人と少ないのが現状です。HIVなどは、教科書に掲載されていて、学習の場もありますが、以前は教科書に載っていた精神疾患ですが、現在は学習の場も無く、今後、DUPをいかに短くしていくかは、大きな課題です。
統合失調症のご家族や周辺など現場での問題から、現在の精神医療における課題まで、幅広くお話しくださり大変勉強になった研修会でした。