「子ども子育て支援新制度にみる今後の待機児対策」政府目標平成29年度待機児0を解消できないこと前提?
大田区の市民活動団体が企画した子ども子育て会議についての学習会に参加しました。
特に、気になっていたのが、チラシに書かれている消費税を財源とした7,000億円の意味でしたが、内閣府の方から、直接ご説明いただき、国の考える子育て支援の理解が深まりました。
子ども子育て支援の一本化への期待
子ども子育て支援新制度は、これまで、厚生労働省、文部科学省など縦割りで行われていた子育て支援を一本化し、子育て機能を充実させようとするものです。
地域の子育ての課題を解決するため、「待機児対策」「認定子ども園の普及」「子育て相談や一時預かり」などを行っていくとしています。
新制度は、平成27年度にスタートしますが、消費税増税による年間7,000億円の財源が充てられるといっています。
平成29年のピークに待機児解消含め、新支援制度には年1兆円が必要だが予算措置は7000億円
具体的には、 今後の出生数や女性の就労率の変化を加味し平成29年度が待機児のピークであると見ており、この平成29年度待機児0を達成す含め、新制度に必要な財源は1兆円としていますが、そのうちの7,000億円があてられます。平成29年度の待機児0は、この子ども子育て支援新制度では達成できない前提になっていることがわかります。
1兆円あれば達成できるとしている1兆円のうち、0.6兆円は、待機児対策以外の部分に投入され、0.4兆円が待機児対策に充てられる計算です。
予算措置されても保育園が増えない理由
この0.4兆円は、施設整備に充てられる国の補助金=安心こども基金として積み立てられる額です。
しかし、施設整備補助が有るとは言っても「保育」は、自治事務といって、市町村固有の業務です。自治体が主体的に保育所を設置しなければ、この補助金が使われることはありません。
待機児対策のために、認可保育所を作る、認証保育所を作るというのが進まない理由を、土地が無いからと大田区は説明しました。しかし、土地は無いわけではなく、土地が有っても待機児対策のために使わない、土地は買っても、保育所建設のためには買わないという大田区の姿勢については、以前に議会質問していますので、ご覧ください。
要は、自治体が、区民から集めた税金を、どこに使うことを優先としているかの問題です。
子ども子育て支援新制度が考える待機児対策とは
国は、自治事務である保育定員の確保について、自治体に強制することはできません。 それでは、国は、この0.4兆円を使って、どのように、待機児対策を行おうとしているのでしょうか。
新制度の目玉、認定子ども園
新制度の目玉は、何と言っても認定子ども園でしょう。 子ども子育て支援制度のチラシでも、課題解決に向け取り組む一番目に書かれているいのが認定子ども園です。 これは、これまでの認定子ども園ではなく、幼保連携型認定子ども園という改正認定子ども園法に基づく新しい制度です。
幼稚園と保育園の良さをあわせ持つとうたわれている認定子ども園ですが、今後、どのように整備されて行くのかと言えば、保育園や幼稚園からの移行が多いのではないかとみています。
実際、今後、幼稚園は、 ①現行制度のまま残る ②施設型給付を受ける ③認定子ども園となる という3つの選択肢の中から一つを選ぶことになります。
認定子ども園は、認可保育所並みの保育料で子どもを預けられるようにするというのが、現在、国が考えているスキームです。
既存子育て支援施設の認定子ども園への誘導
今後、少子化と言われる中、また、女性の就労率が上がると言われている中、全ての幼稚園がこのまま、園児を確保することはますます厳しい時代になっていくことが予想されます。
仮に認定子ども園の要件を備えれば、働いているいないに関らず、認可保育所並みの保育料で、子どもを受け入れることができるようになるということですから、競争力として考えれば有利になるでしょう。
幼稚園にとっては、給食設備・ベッド・ほふくスペース(ハイハイできる場所)など様々な条件整備が必要であり、簡単なのもではありませんが、そこを国が施設整備補助により、認定子ども園に移行支援していくというのが子ども子育て支援新制度です。
国は、既存の社会資源である幼稚園を使い、待機児を解消しようとしていると思われます。
子ども子育て支援新制度における問題点
①残る不公平
ところで、国が想定している、平成29年のピークまでに行おうとしている待機児対策は、認証保育所も含まれています。 仮に平成29年度に待機児0が達成できたとしても、認証保育所など保育料の高い施設と認可、あるいは認定子ども園など、保育料も、保育環境も、また事業主体も異なる様々な運営主体・事業主体による保育制度が残ります。
②解消されない待機児
しかも、内閣府の理論上待機児0になるには1兆円が必要ですが、7,000億円しか確保されていませんから、平成29年に、試算した想定内の社会状況や経済状況だとしても待機児は解消されません。
消費税を財源とする7,000億円は、消費税が導入されても、消費税増税による景気の低迷により期待した税収が集まらないという指摘もありますので、さらに不透明な状況です。
しかも、この財源は、平成27年から3年間の話であり、平成25年、26年に各自治体の待機児対策が進まなければ、解消しなければならない待機児童数は平成27年以降に積みあげられることになります。
③制度の枠外に置かれる特別な支援を必要とする子どもたち そして、子ども子育て新制度で一番気になっている変更が、利用の調整の問題です。
現在は、自治体が認可保育園の入園事務を行っていますが、これが、当分の間となっています。国は、一定期間ののち、自治体が行っていた利用調整をやめ、保育に関る手続きを利用者と事業者との直接契約にするとしています。
直接契約になった場合に、まず最初に問題となるのは、特別な支援を必要とする子どもたちへの配慮ですが、「市町村が利用調整を行い利用可能な施設事業者をあっせん等する」とあるように、市町村の関与が非常に弱くなっています。 「特別な支援を必要とする子どもたち」が制度の枠外に置かれてしまいます。
④選別される利用者
また、保育施設の定員が希望者を上回っていれば良いのですが、当初から、財源不足のままスタートする待機児対策ですから、保育定員が不足したまま、利用者と事業者との直接契約になる可能性が高く、事業者が利用者を選別する可能性が出てきます。
資料には、こうした利用者の選別をさけるために、事業者と利用者の契約を「公的契約」として、「正当な理由」が有る場合以外は、施設が受け入れなければならないとしています。しかし、入園希望者が定員を上回る場合は「正当な理由」になるので、待機児解消されないままに、直接契約を行うのは問題です。
⑤今後、国家戦略特区などの規制緩和が、さらなる選別を促さないか
こうした利用者の選別を回避するもう一つの歯止めとなっているのが、事業主体を、国、自治体、学校法人、社会福祉法人に限定しているところにあると考えれれます。しかし、「国家戦略特区」の議論には、保育事業における株式会社の更なる参入がうたわれており、この「規制」もなくなる可能性があります。