保育ニーズに効果的・効率的にこたえていくためには、どの地域の何歳児の定員をどのように増やしていくのか配慮した対策が欠かせません。
そこで、今回、生活者ネットワークは、保育サービス課が作成している、保育所入園選考基準と選考結果を元に、実態分析に基づいた待機児対策について提案いたします。
待機児のほとんどが0歳、1歳に集中しているので、0歳、1歳の保育環境をどのように整えていけばよいのかを考えることが現在の待機児対策の課題であることは、すでに周知されているところです。大田区は、平成18年度から23年度までで、認可・認証合わせて0歳児146人、1歳児331人も定員を増やしています。
2歳から5歳の一人あたりの面積基準や人員配置基準は、0歳1歳に比べ低いため、定員を増やしやすい状況にある一方で、0歳児の保育環境を整えることは、面積や保育士の配置においても基準が厳しく容易な事ではありません。
一方で、育児休業法では、子供が1歳になるまで、育休を取ることができます。また、入園希望しても入れない場合には1歳6カ月まで育児休業がとれることになっています。
また3歳までの子を養育する労働者が希望すれば利用できる、1日6時間の短時間勤務制度や、残業が免除される制度もできています。
しかし、現状において、0歳児の保育需要が多く、育児休業を権利いっぱい取りきらず、職場復帰している実態があります。
これは、なぜでしょうか。
保育園別、年齢別の「選考結果指数」をみたところ、特に、低年齢児は高得点でなければ、入園ができない状況であることが改めてわかりました。
「選考指数」というのは、「保育の必要度」を点数化したもので、点数の高い人から、入れる仕組みになっています。最も点数が高いのは、8時間以上の常勤、ほかさまざまな「保育の必要」がある方ですが、他にも、「すでに有償の保育サービスを利用している」などによる「加算」があります。
高得点の中でもわずか1点差、場合によっては同点でも入園の可否が分かれるなど、大変激烈な競争があることを読み取ることができます。
このような状況は、点数獲得のために本来の「保育の必要性」をゆがめる実態を生むことにならないでしょうか。高得点だからといって、本当に困っている状況といえるのか、低いポイントでも非常に困っている状況の人があるのではないかという懸念へもつながります。
たとえば、加算の項目の一つに「すでに有償で子どもを預けていること」があります。
申請前に認証保育園など認可外保育園にすでに預けていると2点プラスになるのですが、これをもって「保育の必要度が高い」とみなすわけです。
この条件があるために、育休を切り上げ、認証など認可外保育室に入園させている人も少なくありません。
大田区の0歳の入園申請者は増加の一途で、平成19年度は627名だったのが、平成23年度は、874名になっています。
せっかくの育児休業制度が利用されていない理由を分析し、育児休業を安心して取れる状況を作っていくことが必要です。
0歳の子どもをもつ母親のことばです。「せっかくかわいい時期なのに、いつもそわそわしています。他のママたちと保育園のことではライバル同士になってしまう。育休がまるまる取れればいいのに、そんなのんきなことをいっていられないんです。できれば4か月でまず認可外に預けようと思っています。」
この言葉からは、乳呑児を抱えながら、少しでも点数をあげるために涙ぐましい努力をしているということがわかります。
こうした状況は、単なる個人の言葉ではなく、平成22年11月に、東京都社会福祉協議会が「保育サービスの利用プロセスやしくみにおける問題」を把握する目的で都内の保育園や保護者らを対象に実施したアンケート調査によっても明らかになっています。
育児休業を取りきった保護者は認可保育園で15パーセント、認証保育所で10パーセント。
実際に取得した育児休業期間は、認可保育園の保護者での平均8.7か月。認証保育所では7.9か月と、いずれも本来取得できる期間の半分程度で切り上げていました。
しかし、本当に育児休業を途中で切り上げ職場復帰を望んでいるのかといえば、育休を切り上げた理由「0歳児で入園しないと入園が難しそう」が、認可保育園で49パーセント、認証保育所で43パーセントと最も多いなど制度そのものが「ワークライフバランス」の流れを阻む矛盾を生じさせています。
また保育園見学の保護者に子どもを何歳から預ける予定かを尋ねると「0歳」が58%で最多で妊娠中の見学者も1.3%おり、保育園探しも入園も早期化の傾向がうかがえる結果がでています。アンケート分析では、「申請時にすでに保育所を利用していると入所選考のポイントが加点されることもその背景にあると考えられると」と指摘しています。
特別養護老人ホームの入所基準においても在宅と施設入所とで施設入所を評価するという矛盾が生じていたため、既に施設に入所しているという項目を生活者ネットワークの提案によりはずしています。
「すでに有償で子どもを預けていること」を加算項目とすることは、「高い保育料を払える能力のある人」を評価することにつながります。収入が少ないため申請前に認可外保育所を利用できない人のポイントが低くなり、その結果、認可保育園に入れないとしたら問題ではないでしょうか。
加算の項目の一つ「すでに有償で子どもを預けていること」が、
① 労働者の権利として、認められている1年間の「育児休業」を放棄しないと保育園に入れない状況を作り、育休を形骸化させている。
② 入園の難しさを煽り、不安感を持たせ、その結果、低年齢児の待機児問題をさらに悪化させている。
という問題を助長させています。
待機児を作っている要因の一つに入園の基準があるということです。入園の評価基準を見直すことが待機児対策の大きなポイントになると考えます。
現在大田区の認可保育園の0歳児の定員は692人。1歳児の定員は1,397人です。
しかし、これまで説明してきた現状から、0歳で保育園に通っている方の中には、育休取得後の入園が保証されるのであれば、1歳あるいはそれ以降から入園させたいと思っている方が少なくないと考えます。
そこで質問いたします。
① 1歳児の定員を増やすとともに、0歳児の枠を減らしてはどうでしょうか。
② その際の定員変更の方法として、子どもが生まれた時に保育園の予約制を導入することはできないでしょうか。
育児休業を取得する時点で、取得後も働く意思のある方には、一定の要件を定め、育休明けの保育園の席を確保する仕組みです。
予約を受けるたびに、0歳児の定員枠をひとつ減らし、職場復帰する際に入園する年齢=1歳、2歳などの定員を増やします。
③ 一方で、現在ある、加算の項目の一つ「すでに有償で子どもを預けていること」は、廃止すべきと考えます。
このことにより、2つの効果を期待します。
1. 育児休業を十分に確保していただくことができワークライフバランスの点からもよい
2.本来望んでいるわけではなく点数確保のために預けるという必要がなくなり、適正な税金の使い方につながる。