活用していない大田区の公有財産である旧大田区職員中馬込住宅を有効活用することは望ましく、活用という視点においては賛成です。
しかし、この条例改正には、いくつかの不備・問題があると考えます。
十分な検証が行われなかった空き施設活用
まず第一に、他の有効活用について十分な検証が行われているのか明らかになっていない点です。他の有効活用方法について検証したかという質問に確認できていないと答弁しています。
事業仕分的外部評価が条例提案のきっかけ
この条例改正のきっかけには、大田区の「事務事業外部評価」があります。
一世を風靡した国の事業仕分ですが、大田区もそれに触発され、事務事業外部評価を行いましたが、その結果をうけ、対応を公表しています。
事務事業外部評価において、大田区は、旧職員住宅を火災などの被災者に対し住居としてして提供する事業について、委員会から施設基準を変えてでもシルバーピアへ転用を進める方向で検討願いたいという意見を受けました。それを受け、条例提案したのがこのシルバーピアへの転用です。
把握できていない3人以上の高齢者世帯の住宅ニーズ
今回の条例改正により、3人以上の高齢世帯が大田区シルバーピアに入居できることになりますが、委員会答弁から3人以上の高齢者世帯の住宅ニーズについても区が把握できていないことがわかります。
大田区住宅マスタープランで明言されているまでもなく、高齢者住宅の課題は、高齢一人世帯の問題であり、それは、大田区住宅政策の課題でもあるのです。
であるにも関わらず、ニーズの検証もせずに、3人以上の高齢者世帯の住宅整備に取り組んでいることに問題は無いでしょうか。
一方で、今回の条例改正は、第20条1項(6)の明け渡しの部分を3人以上高齢者世帯の入居を可能にし、別表に新たに6の住宅を加えるとともに2人以上世帯住宅の使用料を定めるだけの改正です。
そのため、最も重要な申し込み者の資格が曖昧になっています。条例改正により、3人以上世帯の入居を可能にしていますが、結果として2人世帯がこの住宅に入る可能性が高いと言えるでしょう。高齢者2人世帯用の広い住宅は居住環境が改善されるという点では好ましいと言えます。しかし、広く住宅政策の視点から考えれば、方針があいまいで、最小の費用で最大の効果とは言い難い状況であると言わざるを得ません。
民間住宅ストックの有効活用は絵に描いた餅
〜国の補助金頼みの公共住宅政策〜
国の公共住宅政策の位置づけが変わったことにより、自治体の公営住宅は数を増やすことが事実上不可能となり、住宅マスタープランにおいても、民間の住宅ストックの有効活用が住宅政策の柱になっています。
大田区も数からいえば住宅は足りているどころか、あまっているのが現状です。しかし、雇用の悪化と高齢化により、住宅困窮者は増え、そこにはミスマッチが生じているというのが実態ではないでしょうか。
であるにもかかわらず、大田区の住宅政策は公営住宅に限られていますが、そのことにより、一部の区民の住宅ニーズにしか応えることで出来ていません。公営住宅にはいれた幸運な区民とそうでない区民との差はあまりにも大きなものがあります。
国の補助金は、現存する住宅の維持管理費用だけですから、国が補助金を出さなければ、事実上、自治体は、住宅政策に取り組むことができなくなります。現在、行われているのは、現存する公共住宅等の施設整備(既に建てられている公共住宅を維持管理する)だけになっているのです。
税金で建物を建て、維持管理して住宅を提供するより、良質な民間の住宅に対し、住宅費補助と言う形で支援する方が、広く住宅困窮者支援ができるはずですが、現在の国と地方の仕組みがそれを不可能にしています。
今回のシルバーピア条例変更は、そうした現状において、さらに、公共住宅を6戸増やすことを意味します。確かに増えることは悪くはないと考えますが、同じ費用を投入し、家賃補助の考え方を導入すれば、より多くの区民を支援することができるのではないでしょうか。
民間住宅のストック有効活用は、言葉だけが先行していて、実行力ある政策をつくりあげようという取り組みすらありません。
公平性に欠ける矛盾した大田区の住宅政策
この間大田区が行ってきた住宅対策には様々な矛盾があります。
① 低所得者向けの住宅が喫緊の課題であるにも関わらず、中所得者向け住宅である区民住宅についてその一部だけを家賃値下げしていて、その他を放置していること。
② その区民住宅の一部を、廃止して、保育ママとしていて住宅政策についての方針を曖昧にしていること。
③ 今回、職員住宅の一部がシルバーピアになりましたが、大田区には、他にも活用していない旧職員住宅住宅がありながら、その活用方法については検討していないこと。
④ 3人以上の高齢者世帯対策をシルバーピアにおいて行うのであれば、それに連動した民間アパート借り上げ施策である「高齢者アパート」の対象もそれに連動して3人以上にすべきだが、検討すらされていないこと。
などです。
国の補助金や助成金にたより、進められてきた住宅政策ですが、そうした視点にたった住宅政策だけでは、区民の住宅ニーズにこたえることはできない時代になっていると考えます。住宅政策に自由に使える財源の確保など制度改正も含めた国への意見書等の働きかけも行っていかなければ、区民の住宅環境を整えることは困難です。
大田区住宅政策における、「区営住宅」「区民住宅」「シルバーピア」「高齢者アパート」等の位置づけを、高齢者対策なのか低所得対策なのかなど目的や対象を明確にするとともに、現状のニーズを点検し、使用料も含めた抜本的な点検を行う時期にきているのではないでしょうか。
こうした場当たり的住宅政策、高齢者住宅政策は、公平性や費用対効果の点からも問題であり、反対いたします。