大田区の土地を「言い値」で50年間民間事業者に貸すことのできる大田区の客観的根拠とは

大森駅前の一等地は、大田区が定期借地権制度を活用して民間事業者に貸すと決めた事業(大森北一丁目開発)です。
 7月1日に定期借地権契約が締結され、先日の委員会において地代などが報告されました。
 地代はどのように決められたのかを質問したところ、第三者的機関での地代の審議検討は行われず、事業者が提案した地代にしたという答弁でした。
 大森北一丁目開発の定期借地権契約における地代は、地代の妥当性についての調査や鑑定が行われず、相手方から提案された価格、つまり、言い値で決められているというのです。
 今日は、公有財産の活用の中でも、土地の借地契約の問題についてみてみましょう。
 
■大田区が契約した地代など■

 大田区は、次の条件で定期借地権契約を締結しました。(開発・観光対策特別委員会資料及び大森北一丁目開発募集要項より抜粋)

大田区大森1丁目 2559.17㎡(775.5坪)
期間      2009年7月1日から2059年6月30日までの50年間
地代      借地契約開始から建物が建設されるまで  125万円/月
        建物が完成した後            556.6万円/年  
保証金(=解体費用:現在の解体費用相当分)       当初  5250万円
                            竣工後 1億5,750万円

【地代現在価値総額等と更地価格を比較すると】

 これだけですと、この金額が妥当なのかどうかわかりませんので、不動産鑑定士に、考え方とそれに基づくおおよその目安の数字を出していただきました。(詳細な計算式等は末尾に)

 その結果、定期借地権付き土地の価格を50年分の地代の現在価値と50年後に復帰する土地の現在価値の合計に換算すると14億4225万円。(年利5%の複利)
 この金額と更地価格25億2000万円との差額は10億7775万円
 通常は、この10億7775万円を補てんするために定期借地権の設定料(通常の借地契約の契約料にあたる)をとるそうですが、今回、設定料はとっていません。
 相場より10億7775万円安く貸しているという解釈もできます。

 また、区は借地契約から工事完了日までの期間(いつからいつまでと定めてもいません!)の地代を工事完了日以降より安く貸しています。
 区の説明によれば、建設期間も固定資産税は支払わなくてはならないからという

【保証金】
 50年後に、建物を壊して、更地引き渡しのため当然相手方が負担すべき性質のものです。上記定期借地権設定料とは異なる性質のものです。

【利回り】
 区は、この土地の利回りを東京都が土地を貸し出す際の3%を基準にしたと説明していますが、民間の5〜7%に比べて低すぎます。

 都が貸し出す際の3%は、公共使用が目的の場合の数字です。今回の大田区の土地は、すでに、大森のこの土地は、行政財産から普通財産になっていて、あくまで、開発事業者も再三区民説明会で発言しているとおり商売であり、公共目的ではありません。
 
 土地の更地価格が50年間で回収できません。貸し損になっていると言えます。   

【公有財産の適正な評価が行われていない大田区】

 大田区は、今回の地代の決定にあたり、通常、公有財産の取得や売却の際に行う不動産鑑定や財産価格審議会での審議を行っていません。
 
 これまでも、不動産の賃貸借について、大田区は、不動産鑑定や財産価格審議会など、専門家も含めた第三者による価格も含めた契約の妥当性についてのチェックを行わずにきています。

 区の条例で定められていないから、あるいはこれまでも財産価格審議会にはかけてこなかったからという理由は通りません。

 大田区が最近公表した、施設管理計画の中には、区の土地を貸し出す手法を採用する方針が示されていますが、地代・賃料におけるチェックがフリーパスで、今回の区の説明のように、言い値で決まってしまうとするなら、大きな問題です。

 不動産活用における様々な手法がでてくるなか、その対象は、民間所有地だけではなく、特に、一等地に存在する公有地にもその眼が向けられています。

 しかし、残念ながら、現在のところ、自治体の民間事業者との不動産取引は、自治体側にとっては、経験も、また、制度整備も十分ではなく、その取り組みが急がれます。

 安易な、民間との不動産取引は、公共財産の濫用にもなりかねず、結果として、区民に損失を与え、自治体財政への悪影響を及ぼすことになるでしょう。

■不動産鑑定士によるおおよその考え方■

【更地価格】

 ・相続税路線価(平成21年1月1日)・・・・71万円/㎡
 ・想定時価
  71万円÷0.8(時価公示ベース)÷0.9(時価ベース)
                  =98.6万円/㎡(325万/坪)
 ・総額
  325万円×775.5坪≒25億2000万円

【借地権つきの土地の鑑定評価上の考え方】
  50年分の地代の割引現在価値の総和50年後に復帰する更地価格の現在価値との和で求める 
          
    
①6679万円(地代年額)×18.3(年利5%の複利年金現価率)=10億7775万円
②25億2000万円(現在更地価格)×0.087(年利5%の複利現価率)≒2億2000万円
①+②=14億4225万円(大田区に帰属する経済的利益の現在価値)

損失額
25億2000万円(現在更地価格)-14億4225万円=10億7775万円

通常だとこの損失額を補てんするために定期借地権の設定料(通常の借地契約の契約料に当たるもの)をとる。しかし、とっていない。


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