小島直子さんという女性

 環境福祉展のシンポジウムのテーマ「蒲田駅の自由通行」の講師をお願いした小島直子さん。早速に下見をしたいと、今日、蒲田までいらしてくださいました。
 小島さんの著書『口からうんちが出るように手術してください』の書評がありますので、今日はその一部をご紹介したいと思います。

 「シルク入りの超お気に入りのカーテンをピシッと閉めておかなかったから、ほんのわずかな隙間から、迷惑な朝日がさわやかに…」鮮やかな光景で本書は始まる。
 著者は、出生時の酸素不足によって脳性小児マヒになり、移動、更衣、排泄、入浴などに介護を要する。最初養護学校に通い、小学校低学年で自ら希望して普通校へ移った。日本福祉大学に入学後は、両親から離れて生活を始めた。東京に戻った今も、交替で介護する関係者に支えられ、自立して暮らしている。

 自立は著者の半生と本書の大きなテーマである。「身体機能を向上させ、何もかもひとりでできるようになることが自立。『できないこと』を、どんな手段を使っても、『できること』に変えていくことが、自立。ところがある日、隣に住んでいた車いすの先輩に『もし誰かの手を借りてそれが30秒で終われば、残りの59分30秒は自分の時間に使える。好きな本を読んだり、口紅をつける時間に』と忠告され気持ちが楽になる。それ以来、化粧や歯磨きのように”どうしてもひとりでやりたいこと”と、着替えや入浴のように、”誰かの手を借りること”を組み合わせ能率よくコントロールできるようになる。」こうして、著者なりの自立を見つけていく。

 街並みの整備された米バークレーを訪れる機会があった。『ずるい!』そう感じたのは、その日の夜。いつもは1日100回以上言っている”ありがとう”の言葉が、今日は何回言ったか数えられるかも知れない。ベッドに入ってから、それはなぜだろうかと考える。ハード面の整備を行えば、もっと気楽に外へ出られるようになるのではないか。ここでは”ありがとう”を言わなくても、どこへだって自由に歩ける環境がある。」

 本書には日常生活、生い立ち、事態に直面して感じることなど、著者の目に映るいまの社会が描かれている。冒頭の描写は、目がさめる→おしっこがしたくなる→介助者は寝ている→起こしたくない→がまんする→がまんが限界になる…という展開へつ
ながる。トイレの問題は外出、仕事、デート、介護者の体制などを制約することになる。その対策として、何日か前から食事や水分の工夫を要することになる。本書の題名は、ここから来ている。
 正義感、科学的思考、負けずぎらい、トシの割にやんちゃ、明るい…、本書からは、著者の魅力的な性格が伝わってくる。
 著者にインタビューを試みた。曰く「①説教的に言うより、自分の生きてきたことを話すことで感じる人がやってくれる。②負けずぎらいで、分からないことをそのままにしないところは確かにある。社会的不利の現実から逃げなかった、逃げようがなかった。社会の裏側や人の本心を見てきた。伝えるのは自分の役割。③読者に『私』になってもらいたかった。自分と同じ、と感じてほしかった。そして障害を疑似体験する。そのため、なるべく”私”という言葉を使わなかった。

 ことば、作品はメッセージを伝える。読者の心を動かし、行動を変え、生き方を変える。本書にはそれがある。著者はそれを「設計」して実現している。読後にぼんやり感じていたコジマあなどれず、は、コジマ恐るべしに変わった。(本文から引用し
た部分は、縮めるため一部表現を修正した。)(コモンズ 定価本体一、七〇〇円)