国家戦略特区でターゲットにされる「既得権者」:医療法人、学校法人、社会福祉法人

規制緩和と言えばTPP。
TPPで「既得権者」として、まず取り上げられるのは農業団体。しかし、それ以外はあまりよく見えない。

ミニTPPと言われている国家戦略特区から、農業以外の既得権者について考えてみたい。


【国家戦略特区における既得権者とは】

国家戦略特区の検討方針にあげられた規制改革事項は次の通り

1.医療
2.雇用
3.教育
4.都市再生・まちづくり
5.農業
6.歴史的建造物

既得権者はだれか考えてみると興味深い。

雇用の既得権者は、雇われている労働者だろう。

労働者は、労働関係の法律で守られているわけだが、守られていることが「既得権」で、それをなくそうというのがTPPであり、国家戦略特区法と考えると分かりやすい。

それでは、真っ先にあげられている医療はどうだろうか。
あるいは、教育はどうだろう。

【公益法人により担われてきた日本の医療・教育・福祉など】

私は、これらの担い手、つまり、医療法人や教育法人ではないかととらえている。
加えて、社会福祉法人。

病院、学校、特養、障害者施設、保育園・・・。

【非営利と公益法人】

日本では、これら多くの公共サービス、あるいは、公的サービスを、(*1)「非営利=利益の分配をしない(=株式会社であれば配当しないということ)」ということで、公益法人が担っている。あるいは、税の優遇を受けている法人もある。

一方で、これらの分野に投資し、儲けたい人たちがいる。

ところが、医療法人、教育法人、社会福祉法人では、利益の分配ができないから、投資による配当は期待できない。

で株式会社として参入したいが、株式会社が参入しにくい。これが、岩盤規制と呼ばれているものの一つだ。

で、株式会社が参入できるようにする。

【非営利と株式会社】

しかし、問題は、単に参入できるようにするだけではすまない。
参入しても、社会福祉法人や学校法人などは、税制優遇を受けている。
そこと、株式会社が競争するのは困難だ。
そこで、株式会社は、税制優遇を変えてほしいと願っている。公益法人に課税せよ、なのか、株式会社も非課税にせよ、か。これが規制緩和だ。

実は、様々な分野で少しづつ、参入の壁は取り払われてきている。
処遇などの課題が残るが、株式会社の保育分野への参入や、介護保険の導入に伴う、株式会社の参入などがこれにあたる。

しかし、保育料が安くて、設置基準の厳しい認可保育所は、入園希望者がまず希望する施設だが、株式会社では施設設置補助を受けられないなど、実質参入は不可能だ。

介護保険導入もあって、介護の現場では、株式会社が活躍しているが、費用負担の少ない 特別養護老人ホームは、社会福祉法人が担い、株式会社立の特別養護老人ホームはほぼ認められていない。

病院も、一部過去の経緯から株式会社立病院があるものの、医療法人が運営しているし、学校も株式会社立の学校は認められているが、広がっていないし、(*2)公立学校を株式会社などが運営できる状況になっていない。

【ニーズと財源不足と株式会社と】

23区を中心とした、都市部における保育園や特別養護老人ホームの定員不足は、株式会社の参入を促す前提条件のようにさえなっている。

財源不足だから、民の力を借りて、という声は大きい。民の力を借りるため、財源を他にまわしているのではないかと思うくらいだ。

高度医療・先進的な医療を受けられるように、株式会社立病院をというキャンペーンも始まるだろう。

私たちは、実に、難しい判断を迫られる時期にきている。
単に、株式会社が、自己努力で、事業展開するのではなく、公的しくみ(公的医療保険・保育・介護保険・障害者施設)を使った営業活動をしようとしているからだ。

これまでのように、公益法人に福祉などを担ってもらうのか、株式会社にも門戸を広げ、競争させるのか。
公とは何か、その公が行うサービスとはどうあるべきか。

【公とは公共サービスとは】

これと同じことが、民営化の時にもおき、様々な公的分野が民間に移された。
公務員を既得権者に仕立て上げ、行われた民営化や民間委託により、公的分野はスリムになり、新たに生まれた高齢化や就労支援などの課題を解決できただろうか。
               参照:財政悪化が社会的要因で無い独自の理由

団塊の世代が大量退職した今も、効果は目に見えて現れない。というか、行政は効果を算出し見せようとしない。たとえば、大田区においても計算は難しいと区民に見せる姿勢が無い。

行革は民営化をもたらし、それでも、財政規模はふくらみ、借金はさらに積み上がり、課題は放置されるどころか、更に深刻で、しかも、消費税もあがり、保険料もあがり、公共料金も上がった。

本当は、民営化、民間委託が始まった行政改革の時に、どう改革すべきか考えるべきだっただろう。

税金を支払い、支えている公とは何か、その公が行うサービスとはどうあるべきか、非営利とは何か考え直さなければならない、最後のチャンスが今ではないだろうか。

それを、国家戦略特区という規制緩和に対する国民の声として上げなければならないのではないか。

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(*1)非営利とは、以下の要件を備えたものとされる

①利益の分配が認められていない(企業でいう株主配当が無い)
②出資割合に応じた払い戻し不可
③残余財産の帰属先を国や同種の法人とするなどの定めがある

これにより、公共・公的サービスの担い手となったり、税の優遇などを受けたりしてきた。 医療法人は、①のみのため、新たな設置には②③の要件も求められるようになっているが、現状は①のみが多い。そのため、株式会社の参入を求める声が大きい。

*2)国家戦略特法の附則に公立学校の民間委託を可能にするため自治体との協議が盛り込まれた。構造改革特区法は株式会社立を認めている。しかし、現行(平成26年2月10日現在)の逐条解説からは、学校教育法の目的の範囲内という非営利の部分による制限がかかると解釈される。しかし、これを国家戦略特区法成立の際加えた修正部分=第10条と基本方針(案)(現在パブリックコメント募集中)で、法の目的の範囲内を超える可能性がでてきている。そのため、株式会社立の公立学校の運営が可能になってしまうかもしれない。